人生は悲しいが、友情はやっぱり美しい
14歳のラリッサは友情はストレスが多いだけで意味がないと思っていた。ラリッサは背が高く、やせていて、普段は濃い茶色の髪を束ねていた。彼女の明るい笑顔は彼女の中にある悲しみを隠すが、決してその悲しみを消すことはできなかった。都会の真ん中に住み、混み合った人気の場所に行く時は自分なりにおしゃれをするのが好きだった。彼女は音の鳴る六つの小さなベルのついた金のブレスレットをしていた。彼女は自己中ではなく、ほとんどの人に優しかったが、だからといって怒りや嫌悪感といった感情を持っていないわけではなかった。
ラリッサにはつらい過去があった。自分のことを尊重してくれない友達とほとんどの学校生活を過ごしてしまった。いつも同じパターンだった:付き合っていた友達が、強制的で配慮に欠けてあまり自分と共通点がなかった。彼女はそれが友達選びに失敗する自分のせいであるのか、それともたまたま自分にあてられた不幸な運命のせいであるのかわからなかった。しかし、彼女は確かに弱くて臆病だということは自分でも自覚していた。彼女は言い返したり、リスクをとったり、本当の意見や提案をクラスに出したり、ドッジボールのゲームで速いボールをつかまえたりするのが苦手だった。
帰りの電車の中で、ラリッサは顎を手の上に乗せて、窓の外を見る。彼女は自分が違う人であることを夢見ながら、景色が変わっていくのを眺める。だんだん長い睫毛は落ちてきて、疲れた茶色い目は少しずつ閉じていく…
ナンシーという友達ができてから、状況はようやく変わりだした。ナンシーは優しくて面白く、完璧ではなかったがそれもむしろラリッサにとっては良かった。ラリッサは自分よりあまりにもレベルが高い人を好まなかった。嫉妬してしまうから。もう一つ良かったことはナンシーが違うクラスであったこと。そのため、学校で一緒にいる時間が長くなり過ぎず、お互いに飽きることがなかった。絵を描くことが共通の趣味だった。時々土日にグリーンスビルパークという大きな公園に行き、ジョギングしたり、テニスをしたりした。
ナンシーはダンス教室にラリッサを紹介してくれた。何度かサルサやメレンゲを習いに行った。ラリッサは体をリズムに合わせたり、カッコいい先生に振り付けを教えてもらいながら脈が上がったりして、すごく楽しかった。レッスンが終わると、ナンシーは「大きくなったら、ブラジルのカーニバルで踊りたいわ。」と言った。ラリッサは「私も行きたいかも。」と言った。
ラリッサは友達なしではここまで楽しいことができなかったことに気づいた。友情はその機会やチャンスを与えてくれる。彼女の臆病さや不幸な過去があっても、ラリッサは自信をもつことができた。楽観的な考え方と信頼できる友達さえいれば人生は生き生きとして楽しいことを知ったからである。そんなことを考えながら、ラリッサは未来へ続く長い大変な道の初めの一歩を踏み出した。
いつも通り、ラリッサの喜びは一時的だった。ある学校の日、ナンシーが彼女に何も言わずに先に学校から帰ってしまい、彼女はストレスを受け始めた。ラリッサは待ったり探したりして大変だったが、ナンシーが電話で謝ってきたので許した。その次は日曜日、ナンシーが1時間遅れてきたから、一緒に行こうと思っていた映画に行きそびれてしまった。またしてもナンシーは繰り返し謝ったので、ラリッサは許した。ラリッサも時々忘れっぽかったので、ナンシーがいくつかのことを忘れてしまうのも仕方ないと思った。しかし、ナンシーがグリーンスビルパークに何度も来るのを忘れたり、サルサのレッスンに来なくなったりすると、苛立ちを感じ始めた。ラリッサは人から放置されるのが嫌いだったが、特に信頼できると思ったナンシーから放置されるのはつらかった。
何日かして、ラリッサの怒りは大きな同情心に変わった。ナンシーが自分の父親が癌で何週間も病院に入院していることを打ち明けた時、ラリッサは何て言えばいいか分からなかった。
「あとどれくらいもつか分からない。昨日母に聞いたら、そんな不吉なこと聞かないでくれって言われた。」
ラリッサは何か支持的なことを言おうと頭の中を探った。「きっと回復するよ」と言ってもそんなに自信をもって言えないし、自信のないことを言ってなんの効果があるの?ラリッサは困っている友達を助けるのがいかに難しいか知った。
ナンシーは続けて言った。「母は毎日朝から晩まで働いていて、土曜日も時々働いている。ほとんどの時間家にいない。最近、私は自分で昼ごはんや夜ごはんを作る。病院は結構離れていて、父のお見舞いには週に1回ぐらいしかいけない。まるで―まるでもう家族がいないみたい。」
「それはつらいわね。」ラリッサは同情して言った。「誰かと話したい時、いつでも私に電話していいよ。お父さんも早く良くなるといいね。」
ある温かい日曜日の午後、ラリッサとナンシーは一か月ぶりぐらいにグリーンスビルパークにいた。二人はそれぞれスケッチブックを持ち、クレヨンの箱を二人の間に置いていた。しばらく描くことに夢中であった。ラリッサはナンシーが普通に戻って良かったな、共通の趣味のある友達がいてラッキーだな、とちょうど思っていたところに、ナンシーは急に「なんかつまらなくない?」と言いだした。
ラリッサは残念そうに見せないように頑張った。「そう?私は結構楽しんでいたけど…」
「あら、それ私たちじゃない。」ナンシーはラリッサの絵を指差した。
「そう、私は私たちがこの大きなグリーンスビルパークで絵を描いているところを描いているの。何年後かにこれを見て―」
「ちょっとその絵に付け足しをしてもいい?」
「うーん…」ラリッサは自分の描いた絵がうまくできていて、改善してほしいかわからず少し戸惑った。でもナンシーは病院に行く代わりに公園に来てくれた。お返しに優しくしてあげたいという気持ちがあった。「いいよ。」と言って、スケッチブックをナンシーに渡した。
ラリッサはバッグの中からコーラを取り出し、飲んでいるところで、ナンシーが彼女の肩をたたき、笑いながら「終わったよ。」と言った。
ラリッサは絵を見て、コーラにむせた。30秒ぐらいせき込んだ。
「あら、大丈夫?」ナンシーは言った。
「なぜ―」ラリッサは咳をした。「なぜそんなことしたの?」
ナンシーは少し自分のしたことに対し罪深そうな顔をした。彼女は下を向きながら「えーっと…」と言った。
ナンシーはラリッサの絵にらくがきをしていた。ラリッサの目に黒いサングラス、口にタバコを描き足して、長髪のヤクザみたいにしてしまった。
ラリッサは怒りが込み上げてきた。「なぜ?」
「あの…まあ…ちょっといたずら心が働いちゃって…ごめんね、ラリッサ、傷つけるつもりはなかったの。」
ラリッサは怒って叫び出すか、許して新しい絵を描くか迷った。後者の方がよっぽど簡単そうではあった。
ラリッサにはけんかする気力がなかった。怒りよりもむしろショックと悲しみの方が強かった。ラリッサは、彼女のさみしい過去に作った友達とナンシーは違うと信じていたのに…ラリッサは、やっといい友達ができたと思っていたのに…
「ラリッサ?ラリッサ?」
「何?」ラリッサは少し不安そうに聞いた。
「まだ絵を描いている?もし終わっていたら、サイクリングコースを散歩しない?」
ラリッサは家に帰りたかった。でも、サイクリングコースが好きだったから同意した。
自然に囲まれた広い道を歩いた。前歩いた時は、この公園がいかに美しいかということや、いつか高い山の頂上まで登って誰も見たことのないような美しい自然の景色を見たいということについて話した。しかし、今回ナンシーは病院で出会った車いすの魅力的な男の子について話していた。しばらく彼と話していたら、彼がフットボールのクォーターバックの選手であることがわかったと彼女は言う。
「先週フットボールで左の足首の骨が折れたけど、車いすは一時的みたい。私より一年年上で、すごい二の腕の筋肉があって…」
ラリッサは険しい顔をした。ナンシーが先週より楽しそうにしているのはいいことだが、彼女のサポートを必要としているお父さんがベッドに横たわっている病院で、男の子といちゃついていられるのは理解できなかった。
「お父さんはどうなの?」ラリッサは聞いた。言った途端、彼女は言わなきゃよかったと後悔した。ナンシーを悲しませてしまいそうだったから。
しかし、ナンシーの顔は不自然に明るかった。「きっと大丈夫なんじゃない?彼の責任でもあるし。彼が不注意にタバコを吸うからこんなことになったのよ。彼は無責任で、ダメな父親で、私は彼のことがあまり好きじゃない。」
ラリッサはショックを受けた。ナンシーの父に対し、同情した。いつ死ぬか分からない危機的な状態の時に娘に嫌われるほど悪い人であるはずはない。
「お父さんのこと心配じゃないの?」ラリッサは優しく聞いた。
ナンシーの目は怒りで光った。「心配はしているわよ。良くなって、可能であれば仕事にも復帰できるといいなって思う。でも、もう好きでいられるかは分からない。彼は私の人生を台無しにしている。楽しいことがしたいのに、私は未来や色んなことが不安だからできない。まあ、ひどい話だけど、病院に行かなければカッコよくて運動神経のいい車いすの男の子と出会わなかったから、そういう意味では父に感謝しているわ。」
ラリッサは答えなかった。「誰かのことを心配する」というのにナンシーの言ったことは全く当てはまらないと思った。「それって―」ラリッサは話の途中で止まった。
「それって何?」ナンシーは聞いた。
ラリッサは自己中と言おうと思った。しかし、それを言ったらナンシーとの友情を壊してしまうかもしれないと急に怖くなってしまった。
「それって何?」ナンシーはもう一度挑発的に近い口調で聞いてきた。
「それってびっくりだね。病院のようなつまらない場所でそんなカッコイイ男の子とめぐりあうなんて。」
ナンシーは笑った。
ラリッサはもう少し遠回しに言うことにした。「その男の子と一緒にいるところをお父さんが見たら何て言うだろうね。」
「それは起きないでほしいな。」ナンシーは笑いながら言った。「それはすごく恥ずかしいわ、ラリッサ。」
「お父さん傷つかないかしら?そのフットボール男のことの方が自分よりも好きなんじゃないかって。」
「実際そうかもしれないよ。」ナンシーは冗談で言った。「それに『フットボール男』なんて呼ばないで。言うの忘れたけど、彼の名前はカルロとかそんなのだったわ。フットボール男。まるで彼がフットボールの形をしているみたいじゃない。」ナンシーはまた笑った。
ラリッサは苛立ち始めた。「私が癌だったら自分をサポートしてくれたり励ましてくれたりする人がいると助かるわ。特にそういう人が身近にいると助かると思う。」
「でも、私は父と全ての時間を一緒にするわけにはいかないわ。カルロや誰とも付き合わないで、病院の女子トイレでただ父のことで泣いていろとでも言うの?私には私の人生があるのよ、父が癌でも…」ナンシーの声は途絶えた。
ラリッサはナンシーが正しい方に向かうために、十分質問をしたと判断した。彼女は役に立つことができたと少し自分を誇らしく思った。しかし、ナンシーはまた嫌な態度を取り始めた。
「ラリッサ、あなたのしているブレスレット音が立ち過ぎているわ。」ナンシーは文句を言った。
「だから?」
「私、その音が嫌いなの。」
ラリッサは、「私は気にしていないから、黙ってくれない?」と言いたかったが、「あら、そう。」としか言わなかった。
「外せる?」
「まあ外すことはできるわよ。」しかし、ラリッサはブレスレットを外そうとしなかった。しばらくの間、二人は黙りこみ、ラリッサのブレスレットについた小さなベルの音は二人の間の緊張を高めるばかりであった。
ナンシーはうっとうしそうに睨んできた。
「私は外したくないの。」ラリッサははっきりと言った。
「分かったわ。じゃあ私、そろそろ行こうかしら。父の病院に行かないとだわ。」ナンシーは道路とサイクリングコースをつなぐ細道を指差しながら言った。「ラッキーだったら、カッコイイフットボール選手が私を待っているかもしれない。」彼女は笑顔で言った。
「そうすれば。」ラリッサは呆れて小声で呟いた。
「じゃあね、ラリッサ。その大事なブレスレットなくさないようにね。」ナンシーはむかつくほど可愛らしい声で言った。
ナンシーがいなくなってから、ラリッサはゴミ箱を見つけた。彼女は鞄からスケッチブックを取り出し、ナンシーが一時間前にらくがきした絵を破り、丸めてゴミ箱に捨てた。周りを見て誰もいないことを確認し、ゴミ箱を力一杯蹴った。ゴミ箱は床にくっついていて、蹴っても足が痛くなるだけだった。さらに怒りが心の中で燃え上がった。彼女は細い手首からストレスフルに浮き出ている血管を見た。その色は、薄い青だった。
少しずつ状況は良くなっていった。ラリッサとナンシーは学校で昔ほどは話さなくなった。しかし、ラリッサはクラスで新しい友達もできたので、大丈夫だった。必ず休憩時間にナンシーのクラスに行く必要はなかった。また、放課後ナンシーと絶対に会わなきゃというわけでもなかった。ラリッサはよりいい友達を探す時が来たように思った。彼女はこれからも信頼できる友達を探し続けるであろう。そういう友達を必要としているから。
また、人生の暗闇や影と戦うために、小さなことに喜びを感じるようになった。いい成績をとったり、小さな成功体験をしたり、少しだけカッコいい男の子たちから注目を浴びたりしたとき、彼女は自分でいて良かったと思い、神様にその幸運について感謝した。それがきっと彼女のできる精一杯の「前向きな」生き方であろう。
小さなけんかから数週間が経ち、ラリッサはそこまでナンシーに対して怒っていなかった。二人はサルサのクラブに一緒に行こうと計画を立てているほどであった。
「やばいわ、私何カ月も練習していない。」とナンシーは言った。
「ナンシーはもともとうまいから大丈夫よ。」
「そうだといいな。」ナンシーはため息をついた。
「どうしたの?そんな重荷ではないでしょ。ただ楽しめればいいのよ。」
「ラリッサ、私は楽しめないわ。ごめんなさい、そういう気分じゃないの。もしかしたら誰か違う人を誘った方がいいかも。」ナンシーはまたため息をついた。「ブラジルのカーニバルやら山の頂上やらも行けるか分からない。ごめんね。」
ラリッサはナンシーが悲観的なことを言って二人の気分を盛り下げるのが嫌だった。「どうして?」
「私の父、弱くなってきたの。あと余命数カ月なの。」
「えっ―ナンシー…私―何て言えばいいか分からない。」ラリッサはかすれた声で言った。
「私、理解できないの。なぜいい人が死ななきゃいけないの。何か変えられたらいいのにな。私たちが、ユートピアに住んでいたら良かったのにな。いい生き物はずっと生き続けて、痛みや悲しみのないユートピアに。こんな幸せな人生を送っていいのかと心配になるぐらい、素晴らし過ぎて―」ナンシーは途中で話すのをやめて、首を振りながら、悲しい笑顔をラリッサに送った。
「分かるわ。」
「先週お見舞いに行った時、父は私に笑顔を見せてくれた。笑顔は悲しくも弱くもなかった。彼は笑顔で私のことを励ましてくれたの。まるで『私の体の中に残っている全ての力を持っていって使ってくれ』とでも言うように。もちろんそんなことはしないけど。身体的にも精神的にも力が必要なのは私じゃなくて彼なんだから。」
「あなたも必要だと思うわ、ナンシー。今まで計画してきた楽しいことは後回しでいいよ。私はナンシーの親友だからどんな時もそばにいるよ。」
ラリッサは世界がおかしくなってしまわないように何か知られざる強い力がきっと働いていることに気がついた。生きるのに苦しんでいる者に安らぎを与え、希望を失った者に信仰を与え、恐れる者に勇気を与え、苦痛を軽減する。ラリッサはできるだけその力に貢献したかった。彼女はちっぽけな存在で、宇宙の中のほんの一点に過ぎなかったが、それでも彼女は彼女のつつましい人生を愛おしく思った、なぜなら…何となく。




