回心の7月26日
裕介は延々と続く7月26日を満喫した。平坦な日々に飽きることは一切なかった。繰り返すことによって市役所に持ち込まれる仕事のパターン、同僚の行動パターンが身体に染み込んでいき、効率性が増していくことが裕介の喜びだった。なるべく短い時間で仕事を片付けること、なるべく少ない言葉数で大和や叔父との会話を終わらせることを追求した。無駄を何より嫌う裕介にとっては、一日から無駄が少しずつ除去されることが何よりの愉悦だった。
しかし、そんな幸福な日々も永遠には続かなかった。
233回目の7月26日。過去に232回裕介に処理を委ねられた書類に目を通すという過程を省略した上で印を押そうとしたとき、裕介はふと気付いた。
裕介が今していることは、無駄そのものだ、と。
微塵も頭を働かせることなく、2秒もかけずにこの書類を処理できたことだけを考えれば、無駄はないように思える。実際、これ以上作業を効率化して無駄を削ることは不可能なところまできている。もはや芸術の域に達しようとしている。
しかし、この書類を処理しても、次の日にはまた同じ書類がやってくる。233回も印を押したにもかかわらず、また白紙の状態で234回目の印を待った状態でやってくる。これでは仕事をしているようでしていないことと同じだ。成果は積み上がらない。
自宅の最寄駅のホームに一歩踏み出そうとした瞬間に成果のすべてがリセットされる。まさに徒労だ。無論、徐々に増える預金残高を見てほくそ笑むという裕介の最大の娯楽にもありつけない。
このことに気付いた裕介は発狂して叫びそうになった。
こんな無駄な毎日は一刻も早く終わらせなければならない。タイムループを終わらせたい。裕介はようやくこのタイムループ物語の主人公の地位を得た。




