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タイムループは終わらせない  作者: 菱川あいず
第1章ー無理強いするタイムループ
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予定調和の7月26日(2)

 8度目の7月26日の朝、14度目のピでアラームを止めた裕介はシャワールームに入ると、蛇口をひねる前にパネルを操作し、温度設定の41という数字を43に変えた。この上ない水温に裕介は満足した。


 リビングに向かった裕介はテレビのチャンネルを変えず、そのままにしておいた。すると、画面に食い入るように宮本佐々木ペアの試合を見ていた愚妹は耳障りな声で喚くことをせず、裕介はゆったりとした朝のコーヒーブレイクを過ごすことができた。



 「裕介おはよう。飲みに行こうぜ」

 朝の調子を狂わせる大和の挨拶に対して、裕介は少し考え込む演技をした後、返事に代えて提案をした。

 「そういえば、さっき課長が阿佐ヶ谷で一緒にポルノ映画を観に行く相手を探してたぞ。課長に声かけてみなよ」

 大和はポカンと口を開けた。

 「おい、大和、正気か。課長はカタブツだぜ。隣で石原さ◯みが裸で寝てたって襲わないタイプだぜ。」

 「とりあえず、声かけてみろよ」

 「信じられないけどな。まあ、分かったよ」


 課長室に消えていった大和はしばらく帰ってこなかった。課長とのボーイズトークで盛り上がっているのだと邪推する。

 執務スペースに戻ってきた大和がいつにも増して浮かれて仕事が手につかない様子であったことは、大和が課長の誘いを承諾したことの何よりの証左だ。

 二人の変態をマッチングした成果は目に見えるものだった。なんとこの日の裕介は、これ以上大和に飲みに誘われず、課長室に下らない用事で呼ばれることもなく、邪魔されずに仕事に専念させてもらえたのである。



 「裕介、元気か」

 叔父からの電話の対処法もすでに決めていた。


 「叔父さん、キャバ嬢へのプレゼントをどうするか悩んでるんだろ」

 電話口からは沈黙が流れた。裕介の勘の良さに驚愕し、言葉を失っているに違いない。

 「なぜ分かる……と言いたいところだが、惜しい。キャバクラではなくJKリフレだ」

 「どっちでも一緒だ」

 むしろ失望の度合はそっちの方が若干デカい。


 「裕介、プレゼント選びのために一緒に阿佐ヶ谷に来てくれるか?」

 「いや、俺よりも適任がいる。女の子へのプレゼント選びなんだから、女の子に手伝ってもらった方がいいだろ。かすみって子を紹介するよ」

 「かすみ?どういう子なんだ?」

 「…どういう子って?」

 「どこの馬の骨か分からない子を紹介されても困る。知ってる情報を教えてくれ」

 「Gカップ」

 「よし、紹介してくれ」

 幸運にも、裕介がかすみについて知っている唯一の情報が叔父の心をつかんだようだ。


 「了解。夕方頃にかすみからメールが届くはずだ」

 「かたじけない。恩に切る」

 この後、叔父から電話がかかってくることはなく、それは終業時間間際に叔父にくだんの迷惑メールを転送した後も同様だった。かすみの背後にどんな黒服のお兄さんが控えているかはいさ知らず、やがて叔父にいくらの請求が届くことになるかもいさ知らないが、今頃は泡沫うたかたの夢に溺れているのかもしれない。




 線路を整備するだけの予算がないのだろう。在来線の電車はガタンゴトンと左右に大きく揺れながら、裕介を自宅の最寄駅まで連れていく。例のタイムループ機能のおかげで、最寄駅から裕介の家のベッドまでは徒歩0分まで短縮されている。


 今日は最高の一日だった。すべてが裕介の予定通り進んだ。

 7度のリハーサルの甲斐あって、7月26日は完全に裕介の手中に収まった。すべてが裕介の思惑通り進むため、想定外のハプニングに心をわずらわすことがない。退屈で、単調で、波風の立たない、裕介にとっての最高の一日だ。

 さらに素晴らしいことに、明日もまた7月26日がやってくる。その次の日もその次の日もやはり7月26日がやってくる。愛すべき7月26日が永遠に続く。

 「最高かよ」

 裕介は珍しく独り言を口にした。


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