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タイムループは終わらせない  作者: 菱川あいず
最終章ー幸せ運ぶタイムループ
48/51

4年後の7月26日(5)

 タイムループの黒幕はチャラ男ではなく、生まれる前の映月はづきだった。


 唖然あぜんとした裕介の顔を見て、生まれる前の映月は再び口に手を当てながらクスクスと笑った。この笑い方が彼女の癖なのかもしれない。


 しばらく裕介が何も言葉を発しなかったのを、説明を欲しているからだと解釈した彼女は、まずは人間が生まれる前の天界事情について語り始めた。

 

 「私ってパパとママの子じゃん。各務裕介かがみゆうすけ守川瑞季もりかわみずきの子じゃん。この設定は天界でも一緒なの。私はパパとママの子であってそれ以外の何者でもないわけ。理解できる?」

 「うーん、微妙」

 「だよね。もっと丁寧に説明すると、私はパパとママが結婚して子作りしてくれない限りは人間として生を受けることができないわけ。たとえば、パパがママじゃない違う誰かと結ばれちゃったらその時点でアウト。私は生まれられない」

 「生まれられないとどうなるんだ?」

 「消滅する。私という存在は、最初からいなかったことになる。代わりに私じゃない誰か別の子が、パパと、ママじゃない女性との間の子供としてこの世に生を受ける権利を得る。これで分かった?」

 「なんとなく…」

 「だから、パパがママと結ばれるかどうかはどうかは私にとっては死活問題なわけだ。ヒドイ話だと思わない?」

 「いや……」


 話の内容を理解することだけで精一杯なので、意見を求められても困る。ましてや、天界のルールなどといった大それたものに対して否定的な評価を述べるだなんて、何かのバチが当たりそうで怖い。


 「はあ、当の本人がこの調子だから苦労したんだよね。本当に」

 生まれる前の映月は舌打ちをした。2歳になったばかりの子に舌打ちされるというのは辛辣しんらつ絵面えづらである。状況的に、「当の本人」とは裕介のことを指すことで間違いなさそうだ。

 

「神様から、私が各務裕介と守川瑞季の子だと教えられたときは自分の運命を呪ったよね」

 「……それは悪かった」


 裕介が泣きそうな顔になっているのに気付いた「映月」は、慌てて誤解を解いた。

 「いや、違うよ。パパとママのことは大好きだよ。パパとママの子として生まれられてすごく幸せだと思ってる。でも、問題は生まれる前の話。生まれられるかどうかの段階の話。だってさあ、かたや異性に一切興味のない堅物ロボット公務員で、片やいい年して鼻にピアスなんか開けちゃってる金髪ギャルだよ?結ばれるわけなくない?水と油だよ?私の出生確率一体何パーセントなんだよ。大穴じゃん。どう考えても」

 「たしかに……」


 当の本人として思い当たる節は数え切れないほどある。

 裕介が初めて両親に瑞季を紹介したとき、両親は何かの夢じゃないかと疑い、真っ赤になるまで目をこすり続けていた。瑞季のバービー人形のような潔い金髪も、鼻で煌煌こうこうと輝くピアスも、そもそも裕介が女を作ったという事実も、彼らにとっては信じられないものだったようである。



 「天界で命の種を授けられた瞬間に死刑宣告だよ?何この悪魔的展開?ヒドイと思うでしょ?」

 「ああ」

 裕介が相槌あいづちを打ったにもかかわらず、生まれる前の映月は再度舌打ちをした。もしかしたら同情よりも謝罪を求めていたのかもしれない。


 「でもね、捨てる神あれば拾う神ありでさ、圧倒的劣勢の私に対して、神様は大きなアドバンテージを与えてくれたの」

 「アドバンテージ?」

 「そうよ。神様は私に特殊な能力をくれたの。本来は神様だけが持つ、人間界をコントロールする超能力」

 「それってもしかして」

 「お察しの通り、タイムループもその一つだよ」


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