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タイムループは終わらせない  作者: 菱川あいず
第2章ー濫用されるタイムループ
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酒池肉林の7月26日(2)

 莉菜ちゃんがキャストとして勤務しているお店の名前は「ロム」。

 誠人が裕介に勧めてくれた風俗店の9割がフィリピンパブないしは多国籍キャバだったが、裕介は日本人女性が好みだったので、1割の中の、さらに昼間も営業しているキャバクラで検索し、唯一ヒットした「ロム」を見出した。

 誠人評によれば、「日本人の割に触らせてくれる名店」だそうだ。反ヘイトスピーチ団体、フェミニスト団体といったあらゆる人権団体から抗議の矢が飛んできそうな醜悪しゅうあくな口コミである。




 手を握られただけで好きになってしまう、だなんて中学生男子みたいで微笑ましいが、キャバ嬢からすれば、そんな客がいたらチョロ過ぎて笑みが止まらないだろう。

 20代半ばにして女性経験ゼロの裕介を相手にした莉菜ちゃんの心境を察すると、まさに歓喜の歌が高らかに鳴り響いていたことかと思う。



 莉菜ちゃんは裕介にとって初めて接客してくれたキャバ嬢だった。

 「莉菜です。お客さん、この店初めてですか?」

 莉菜ちゃんは着席すると同時に、何気なく裕介の手を握った。この時点ですでに勝負は決まった。その手を大胆に露出された太ももにまでいざなわなくとも、男の退屈な自慢話に耳を傾けなくとも、裕介の心は莉菜ちゃんのものだった。



 初めて来店したときは、中学生の初めてのデートよろしく、莉菜ちゃんと一言も口をきくことができなかった。

 もちろん、莉菜ちゃんの方はプロなので裕介に根掘り葉掘り質問し、それが脈なしだと思うと自分の通っている大学についての話を始めた。裕介が相槌すらもろくに打てないことが分かると、最後は何も言わずに目を閉じて肩を寄せてくれた。

 なんだよ。最高の彼女かよ。

 とはいえ、1時間が経過し、別の女の子と交代するときに「じゃあね」と笑顔で手を振った莉菜ちゃんの目は笑っていなかった。




 このままではマズイと思った裕介は、徐々に莉菜ちゃんに、女性に慣れようとして「ロム」に毎日通い詰めた。

 毎日決まった時間に来店していたので、必ず莉菜ちゃんがお相手してくれた。何度も通う中で、裕介は指名制度の存在を知り、どの時間に行っても莉菜ちゃんをキープでき、1時間が経過してもなお莉菜ちゃんをキープし続けられることを知った。さらに何度も通う中で、裕介はようやく莉菜ちゃんと緊張せずに喋れるようになった。



 「莉菜です。お客さん、この店初めてですか?」

 「初めてだよ」

 

裕介は莉菜ちゃんが差し出した小さな手をすかさずギュッと握りしめ、莉菜ちゃんの華奢きゃしゃな身体ごと自分の方に引き寄せる。

 裕介の積極的な態度に対して、莉菜ちゃんは照れたのかはたまた単に慌てたのか付け睫毛まつげで大きく盛られた猫目をパチパチさせた。あたふたする様子がまた可愛い。


 「でも、莉菜ちゃんと会うのは初めてじゃない」

 「え?どうしてですか?知り合いでしたっけ?」

 「いや、違う。でも、初めて会った気がしない。もしかして運命かな?」

 「そんなぁ、照れますよ。お客さん、上手いですね」

 「普段はこんなキザなことは言わないんだけど、運命だと思うとこの出逢いをどうしても逃したくなくて」

 「ちょっとぉ、莉菜もその気になっちゃいますよ??」

 「その気になっていいよ。もう二人は出逢っちゃったんだから。運命の赤い糸で結ばれた二人の結末は分かる?」

 「え???なんですか?」

 「ば・あ・じ・ん・ろ・お・ど」

 「ちょっとおぉ!」


 チャラい。我ながらチャラ過ぎる。

 そして、なんだかんだで誠人先輩のテクニックを拝借はいしゃくし、改良させてもらっている。


 莉菜ちゃんは顔を真っ赤にしながら、裕介の肩をポンポン叩いている。

 誠人の情報通り、この店の女の子はボディタッチが多めだ。こちらから触ることもできる。胸や股間はさすがにNGだが、その周辺までだったら触らせてもらえる。

 裕介は、正常に暦が刻まれていたら約1年間にも渡る「ロム」通いで自らの身体に染み込ませた、莉菜ちゃんがギリギリ嫌な顔をしない限界のラインのところに手を置いた。


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