表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイムループは終わらせない  作者: 菱川あいず
第2章ー濫用されるタイムループ
31/51

社会的底辺の7月26日(2)

 ちょっとトイレに行ってくる、と誠人はワンカップを手に持ったまま立ち上がった。引き摺っている右足は、銭湯で女湯を覗き見しようと壁をよじ登ろうとして落ちてくじいたものだというのだから筋金入りである。

 誠人は茂みの方に消えていった。そっちの方にトイレがないことは分かっているのだが、裕介の見えないところで用を足してくれている限りはとがめるまでもない。




 戻ってきた誠人の社会の窓が開いていたので、そこだけはさすがに注意しておいた。

 「おお、若造、ありがとう。未だにおしっこするときにはみるんだよな」

 「え?治ってないんですか?性病?」

 「冗談冗談」

 誠人は豪快に笑った。誠人の話は何が冗談で何が本当なのか分からない。


 「ところで若造、今まで女の子と付き合ったことはあるか?」

 「ないです。興味ないんで」

 興味ない、は言い過ぎたかもしれない。7月25日以前の裕介は本当に興味がなかったかもしれないが、今の裕介は、少なくとも仮にうさ美に告白されるようなことがあれば舞い上がるだろう。それに誠人の話を聞いているうちに風俗やキャバクラにも少しだが興味が湧いてきた。


 「興味ないなんてことはないだろう。若造は素直だからな。顔を見ればすぐに嘘をついているかどうかが分かる」

 「え?顔に出てますか?」

 「ああ、出てる」

 手鏡があればすぐにでも顔を確認したいところだったが、おそらくは酒で赤らんだ顔が映るだけだろう。


 「若造にいいことを教えてやる」

 「はあ、いいこととは?」

 「女の子はな、運命に弱い」

 「運命?」

 「ああ、そうだ。これはワシがナンパをするときによく使うテクニックなんだが、若造には特別に教えてやろう」

 「ぜひ教えてください」


 ナンパをする度胸などはないので参考にすることはないだろうが、誠人のテクニックには純粋に興味があった。


 「はじめて会う子でも、声を掛けるときには、よ、久しぶり、と声を掛けるんだ。すると、必ず足を止めてくれる」

 「それって嘘ですよね?すぐバレませんか?」

 「ああ、バレる」

 「ダメじゃないですか」

 「いいや、バレてからの切り返しが勝負なんだ。向こうから、はじめましてですよね?と言われたら、え?はじめて会った気なんてしないんだけど?もしかして、運命かな?……と、これで決まりだ」

 「臭くないですか?」

 「いいや、おとこは多少はキザな方がいいんだ」

 「その方法でナンパが成功したことはどれくらいあるんですか?」

 「ない」

 「ちょっと、ろくでもないテクニック教えないで下さいよ!」

 裕介は思わず吹き出した。それを見て誠人がまた豪快に笑った。




 遠くでブザーの音がした。本日最後のレースの出走の合図である。


 「お、始まったか。今度こそは絶対にワシの言う通りになるからな。一着は14番のシベリアチョウトッキュウ、二着は10番のリュウグウノツカイ、三着は5番のホワイトカラーエクゼンプション、これで決まりだ」


 いや、違うんだ。裕介はレースの結果を知っているが、二着と三着は合っているものの、肝心の一着が違っている。誠人の予想はいつもそうである。どこかが少しだけズレている。

 とはいえ、裕介がそのズレを指摘しても聞く耳を持たず、むしろ真の勝ち馬をケチョンケチョンにこき下ろすだけなので、もう挑むことはしない。

 今の内から、頭を抱える誠人に対して、「惜しかったですね。まさかシベリアチョウトッキュウの騎手が終盤でムチさばきをミスって、シベリアチョウトッキュウの首を絞めてしまうとは思わなかったですね」と慰めの言葉を掛ける準備をしておこう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ