塞翁が馬の7月26日(4)
「おい、どういうつもりなんだ?」
警備員から死角になったところで、裕介はハゲたオッサンに問う。
「若造、感謝しろ。ワシは若造を二度も助けたんだぞ」
裕介はニッカポッカのようにブカブカなズボンのポケットから、札束をスッと抜き出した。
「その報酬にこの500万円をいただこうなどと考えてるならば甘すぎる」
「違う!そんな気はちっともない!」
言葉と裏腹にハゲたオッサンの右手は札束を取り返そうとあがき、空を切った。
「おい。何が違うんだ?」
「だから、これは老婆心だ」
「意味が分からない。今度こそ窒息させるからな」
「若造、競馬ははじめてだろ」
「そうだが、それがどうした」
「競馬はな、知識と経験がモノをいう世界だ。ビギナーズラックなどというものは存在しない。初心者が火遊びをしようとしたら確実に大やけどをする。だから、ワシは若造を助けたんだ。大金をドブに捨てるのを止めてやったんだ。最初から札束は返すつもりだった」
一応、老婆心についての釈明にはなっているが、そうだとしても余計なお世話である。
裕介は決してビギナーズラックによって一攫千金を狙ってなどいない。
石橋を粉々に砕けるまで叩いて割るタイプの裕介が、全預金を一瞬で失うリスクをとるはずがない。裕介は最初からギャンブルなどするつもりはない。裕介が挑もうとした勝負は100%勝てる勝負だったのである。
5、13、11
裕介はこの番号を受付で、予め用意しておいたメモ用紙に書かれた通りに読んだ。メモのソースは今日の浦和競馬場の全レース結果を伝えたネットニュース。前の日の19時32分直前、裕介はネットニュースを確認し、一番配当の多かったレースの勝ち馬番号を記憶した。そしてタイムループによってベッドから1日がリスタートするやいなや、鮮明に残っている記憶を元にメモを作成した。この番号に賭ければ、確実にお金が204.5倍になって返ってくる。500万円を賭ければ、うさ美を救うための10億円が稼げる。
「若造、サンレンタンの意味も分かってなかっただろ?」
「そんなの分かってるよ。鶏肉ともち米が入ってるスープだろ」
「それはサムゲタンだ」
たしかにこのハゲたオッサンの方が競馬に詳しいことは認めよう。裕介は勝ち馬は分かっているものの、賭け方がイマイチ分かっていない。
もしかしたら、このハゲたオッサンは利用できるかもしれない。裕介が賭けたいレースが始まるまではまだ時間がある。ハゲたオッサンを馬券売り場まで連れて行って、協力してもらおう。
「オッサン、じゃあ、俺に馬券の買い方を教えてくれ。あのレース、どうしても5、13、11に賭けたいんだ」
「はあ、若造、正気か!?あのレースで5番が来るわけないだろ!!あのレースを買うとしたら、6、13、11だ」
「いや、それはない。間違いなく5、13、11が来る」
「はあ、5番のシンジケートローンは根性なしで終盤失速するからな。若造は何も分かってないな?」
何も分かってないのはお前だ。裕介の予想はどの競馬新聞よりもどの予想屋よりも正確なのだ。
「絶対に6番のピーターパンシンドロームが来る!絶対だ!絶対!」
いや、絶対に来ないから。絶対。




