発掘の7月26日(2)
地価の高さから十分なスペースを確保できなかったのか、狭い駅の地上階はホームに占領されており、改札のある入り口は2階に設けられていた。
駅前のロータリーを見下ろすようにして広場があり、その広場から四方に伸びる歩道橋が、地上と広場、そして駅の入り口をつないでいる。
裕介の目的は駅を利用することではなく、駅前の商店街や歓楽街といった盛り場に行くことだったため、歩道橋の幅の広い階段に足を掛ける必要はなかった。
しかし、心が惹かれることなくそれらの盛り場を素通りした裕介は、そのままなんとなく歩道橋を上がった。
広場の中央には年中花を咲かすことない緑の低木が植林されており、それを囲んで六角形を作るようにしてベンチが並んでいる。その内の一辺に人だかりができていた。
耳から入ってくる和音の響きからして、人だかりの中心にはストリートミュージシャンがいることには察しがついた。
今までの裕介だったら、間違いなく素通りしている。若い声を張り上げて募金を募る団体よりはマシとはいえ、わざわざ路上に居座って音楽を演奏するだなんて厚かましいにもほどがある。他人に興味のないものを押し付ける点で、羽毛布団の訪問販売と何も変わりがないじゃないか。
しかし、このときの裕介は立ち止まり、人だかりに加わった。
受け入れる心の余裕があったわけではない。埋めなければならない心の空洞があったからだ。
サークルの中央に陣取っていたのは、体のサイズに不釣り合いなほど大きなアコースティックギターを抱えてあぐらをかいていた若い女性だった。
肌のハリや半袖のシャツから伸びた腕のフニフニとした肉付きからして、おそらく女子高生だろう。黒く長い髪は演奏の邪魔にならないために後ろで結ってある。イントロのストロークに全神経を集中させているようで、ピックを持った右手を凝視している。背中を猫のように丸めており、お世辞にも美しい姿勢とは言えないが、そこが逆に彼女の内面の芸術センスを表出しているように思えるのは不思議だ。
同じリズムで4コードを繰り返していたギターの演奏が変わり、力強いカッティングがいくつか挟まる。
そろそろ彼女が歌い出す。華奢な少女の身体は一体どのような楽器となり、どのような感情を響かせるのか。期待のボルテージは彼女が大げさに右腕を振り下ろす回数に比例して高まり、突然音が消え、小さな口から吸い込まれる息で彼女の肺が膨らんだときに絶頂を迎えた。
少女の歌声を聴き始めて間も無く、裕介は聴衆の意味を悟った。
彼女を囲む聴衆には同性のファンが一人もいない。全員が男性。ビール腹でYシャツのボタンが弾けそうな中年のサラリーマンが主体だ。
そして、ストリートミュージシャンの聴衆の中には目をつぶって音に心を研ぎ澄ませる人がいてもおかしくないようにも思えるが、そんな人はここにはいない。全員が刮目し、視線は監視カメラのごとく演奏者をロックオンして離さない。
聴衆の目当ては明らかに少女の童顔に不釣り合いなくらいに発育した胸であり、パンツがいつ見えてもオカシくないほどに極端に短いミニスカートから覗くむっちりとした太ももである。
そんな聴衆を責められないくらいに彼女はエロかった。
そして、そんな態度も許されるくらいに彼女の歌は下手クソだった。




