衝撃の7月26日(2)
目を開けるといつものベッドの中だったが、デジタル時計の時刻は10時35分となっていた。
ベッドの中で堂々巡りをしているうちに本当に眠気が襲ってきたようだ。不貞寝など一体何年ぶりだろうか。
今頃、市役所の同僚は、裕介の無断欠勤という前代未聞の事態に驚いているかもしれない。裕介なしでは回らない仕事は少なくないから、職場は混乱しているかもしれない。
でも、どうせすべては19時32分にリセットされる。裕介がどんなに迷惑をかけても、19時32分にはすべて忘れられてしまう。今から電話を一本入れて取り繕うこともバカバカしい。
とはいえ、いつまでもベッドの中でグダグダするのはなんだかむず痒い。
タイムループ状態のままで仕事をしても意味がないし、チャラ男を助ける気もないのだから、起きていても何もすることはない。とはいえ、なんだかむず痒い。
リビングの扉を開けると、愚妹は相変わらずテレビに対してキャーキャー奇声をあげていた。相変わらず液晶画面は宮本佐々木ペアの砂浜での熱闘の様子を映している。
−ん?おかしい。
愚妹は朝の5時過ぎにも宮本佐々木ペアの試合中継を見ていたはずだ。
ビーチバレーボールのルールには疎いが、5時間半も試合が続くはずがない。デュースが延々と続けばありえるのかもしれないが、試合展開は宮本佐々木ペアの完全なワンサイドに見える。対戦相手のやたら手足の長い外国人にも見覚えがあるため、ダブルヘッダーでもなさそうだ。
「おい。どういうことだ?」
裕介はタイムループが開始してから初めて愚妹と口をきいた。
「突然何?どういうことってどういうこと?」
相変わらずのふざけた声だが、もっともな返しだ。
説明に窮して俯き加減になった裕介の目にスイッチの入ったブルーレイプレイヤーが映った。つまり、今テレビに流れている映像は録画されたものだということだ。試合を録画して見るほどに愚妹がミーハーだということはありえるのだが、それだけではまだ腑に落ちない部分がある。
「ねえ?何か答えてよ」
「うるさい。黙ってろ」
「え?ヒドくない?先に質問したのはお兄ちゃんだよ?」
「今考え事してるんだ」
「その答え、私から聞き出そうとは思わないの?」
いくらミーハーとはいえ、同じ試合を何度も見ようと思うだろうか。宮本佐々木ペアに心底ゾッコンならばありえるかもしれないが、少なくとも今の愚妹は試合を全く見ていない。テレビに背を向け、上目遣いで裕介を見上げている。
「私の行動についてだったら私が一番詳しいよ?」
改めて宮本佐々木ペアの映像をマジマジと見ていたところ、さらなる違和感を発見した。砂浜にある広告の一つは、去年、吸収合併によって消滅した家電量販店のものだった。つまり、この映像は一年以上昔のものだ。愚妹はなんで今更そんな古い試合の録画を見ているのか。
「ねえ。無視しないで。私の声が聞こえてないの?」
ちょっと待て。この砂浜、どこかで見覚えがある。過去に行ったことがある。えーっと、たしか……
「藤沢の鵠沼海岸……」
「そう!お兄ちゃん、よく分かったね!」
愚妹の表情が突如として明るくなった。




