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第二章 46  皿の刻印

 帰宅すると居間の中には部屋を埋め尽くす段ボールの山が積まれていた。懐かしいロゴや商品名が目に入ってくる。商人のハナマキさんに頼んでおいた食品などが届いていたのだ。


 「おお、タカキ君!すごい量の荷物が届いたぞ。しかもどれも見た事ないような不思議な商品ばかりだ。」


 ツボミさんの言葉に激しく同意していたのはセイラさんだった。当然、召喚組のナガイ君、シノハラさんに大きな感動はないようだったが、それでも懐かしい商品を嬉しそうに眺めていた。

 これで、遠征の問題である食料の確保と完全とは言わないまでもヴァンパイアの知識を得る事が出来た。いつでも冒険に出発する事が出来るだろ。僕はとりあえず当面の懸念事項の解消に安堵していた。

 そんな事を思っていると、パーティーのリーダーであるツボミさんが、


 「よし!では今から冒険に出発するぞ!準備はいいかみんな!」


 などと、とんでもない事を言い出した。いつもの事ではあったが、一刻も早くヴァンパイアフィールドへ向かいたいはずのセイラさんですら「いやいやいやいや」と、5人(フクスケも含む)シンクロしながら首を横に振った。


 「ツボミさん……、さすがに、シャロンさんや、ギンジさん達には報告してから行きたいのですが……。」(僕)


 「しっかり、体休めてから行こう。ね、ツボミちゃん。」(シノハラさん)


 「勘弁してくださいよ。ツボミさん。僕、今日はもう眠いですよ~。」(ナガイくん)


 「今からとなると、ご近所迷惑にもなりますよ。」(フクスケ)


 「ヴァンパイア様に会うのに、しっかりおめかしして出かけたいのです。」(セイラさん)


 と、セイラさんの回答以外はまともな正論を返されて、我らがリーダーは突き上げた拳をしぶしぶと降ろすのであった。


 結局、冒険への出立はそれから3日後となった。僕はシャロンさんに休暇届を出して、いよいよ冒険に出かける旨を伝えた。シャロンさんは冴えない表情で気を付けてね、とだけ言った。僕を心配してくれているのもあるのだろうが、当然先日の会話を考えれば恋人であるレベルさんの身を案じているのだろう。

 レベルさんの命を狙うのは当然ハンターのマリウスさんであろう。しかもそのマリウスさんとシャロンさんは知り合いらしい。どれだけ複雑な相関関係があるのだろうと僕は思ったが、それを聞くのはやはり出来ないだろう。悲しいが、この話においては僕は完全な部外者なのだから。

 僕はシャロンさんに、休暇中に店が忙しくなってしまう事を改めて謝ったのだが、しばらく店は閉めて彼女もこの街にある実家へと戻ると言っていた。それを聞いて僕はは少しだけ気が楽になった。今の精神状態のシャロンさんはやっぱり心配だ。

 ただ、以前断片的に聞いた話だが、実家のお父さんと疎遠にしているというような話を聞いていたが大丈夫なのだろうか?

 その問題にも、当然、僕が介入する訳にも行かず、それについても触れる事はなかった。


 みずいろ庵を出た後、ギンジさん、デルさんにもしばらく街を離れる事を伝えた。僕らが不在の間にジャンクス、ブラッシェド・バンブーが動きを見せる可能性は否定できず、その対応を話す意味もあったのだ。だが、デルさんの口からは意外な言葉が返ってきた。


 「実は我々もパーティーを組織してヴァンパイアのフィールドへ遠征する事にしたのです。」


 彼らもあの孤児院放火の事件後、ずっとジャンクスの足取りを捜索していたのだと言う。その中で得た情報としてジャンクスは現在ヴァンパイアフィールドでブラッシェド・バンブーと共に潜伏しているという事だった。デルさん達は直接的に対決しないまでも、彼らの動向を探るために僕達に先んじてフィールドに潜入するとの話だった。

 ナコルスの動向といい、ヴァンパイアフィールドに様々な勢力が集結しつつあることに大きな不安を感じた。正直、嫌な予感しかしない。ヴァンパイアフィールドへの集結、その最大の不安は言うまでもなく、災いを常に友としているこの僕が所属するパーティーが、今からそこへ潜入するという事実なのだが。


 「ソメヤ、実はお前さんに伝えとかねばならん事がある。」


 ギンジさんは退室しようとしていた僕を呼びとめ、もう一度座布団の上に座らせた。その顔はその内容を話すか否かをどこかで葛藤しての末と言う感じがした。


 「お前さん、あの例の『皿』の件を知っているな……。」


 「は、はい、ブラッシェド・バンブーの『利欲 (りよく)のグリーズ』が持ち去った……。」


 「ああ。あれは元々俺の兄、つまりジャンクスの父親の持ち物でな。俺もよくは知らんが、とある人物に秘匿して保管するよう託されたモノだそうだ。兄の話では世界を滅ぼすキッカケになる『皿』だと聞いていたそうだ。無論、俺はそんな事は信じちゃいなかったが、死の際に真剣に俺にあの『皿』を託した兄の眼差しがどうも気になってな。そして、もう一つ、数年前にブラッシェド・バンブーからもあの『皿』の捜索命令が来たことがあった。そしてその懸賞金は……1億ゴールドだったんだ。その金額はあの『皿』がただの『皿』じゃあねえ事を物語っていた。さすがにそれでも世界を滅ぼすなんて世迷言は信じちゃあいなかったがな。だが、それでも俺は万が一のためにあの『皿』を地中に埋め、その上にあの孤児院を建てた。今となってはそれが子供たちを危険に晒す愚行であった事に気が付いたがな。」


 『皿』の懸賞金が1億ゴールド。これは尋常ではない。その皿に骨董的な価値があったとしても破格の金額だと言っていいだろう。そう考えれば眉唾の「世界を滅ぼすキッカケ」という言葉を案じるのは至極当然の反応だろう。


 「そして、あれは誰にも知られるハズのないモノだった。あれは俺自身が誰にも、それこそデルにすら知らせずに埋めたモノだからな。それをどうやって正確な位置を特定できたのか。俺はあれからずっと気になっていたんだ。」


 ギンジさんは神妙そうに腕組みをして淡々と言葉を重ねた。


 「俺が軟禁されていた時に変わった事と言えば、何度か鳥仮面の男グリーズ、そしてその部下である魔法使いの女と話をしたくらいだ。で、デルにその魔法使いについて調べさせたのだが……。」


 ギンジさんの深いため息を聞いて、デルさんがその内容に続けた。


 「その魔法使いはブラッシェド・バンブーでもかなりの魔力を有する魔法使いでニコル・フランメルという名前です。防御魔法、攻撃魔法共に秀でた力を持っていますが、最も得意とするのが精神に介入する類の幻術魔法だそうです。対象者を催眠状態にすることでその心の中を覗く事が出来るとも言われております。」


 一瞬の沈黙。あの関西弁のあどけない少女の姿をした魔法使いが、そんなにえげつない魔法使いだとは。


 「つまり、あの魔法使いが俺の頭の中にある、あの皿を埋めた記憶を見て、結果孤児院に放火してまで掘り出したという訳だ。信じがたいが状況証拠を考えればそれが妥当だ。」


 確かに信じがたいような内容ではあったが、ブラッシェド・バンブーの一員である事を考えれば十分に考えられる事だった。僕の脳裏には「始まりの街で」僕の腹部にナイフを突き立てた、白いワンピースの少女の姿が明滅していた。


 「結局、すべて俺の甘さが招いた事だ。まったく面目ない……。」


 ギンジさんは誰にという訳でもなく頭を下げて、沈痛な表情で謝罪をした。僕は一つその「皿」についての疑問をギンジさんに尋ねた。それは、その「皿」を破壊してしまえば済んだ事ではないのかと思ったからだ。


 「あの『皿』はどんな衝撃にも耐え、俺の手では破壊が出来なかったのだよ。やむなく地中に埋めるなどと言う稚拙な方法を取ったのはそんな理由からだ。」


 破壊出来ない硬度の「皿」。何ともまたファンタジー特有の匂いがする。この世界における「伝説の皿」とかそんな感じのアイテムなんだろうか。それにしても、そこは「皿」じゃなくて「聖杯」とかだろうと突っ込みたくもなる。


 「そういえば、あの皿の裏には奇妙な刻印があったな。あれは何かあの皿の秘密に関連があるのかもしれんがな。」


 僕はギンジさんのその言葉に「ドキッ」とさせられた。すぐにカオスポケッツからいつものベロ出しシリーズのカタログを取り出しギンジさんに表紙に描かれたベロ出しマークを見せる。ギンジさんは確かにこのマークだが色が違うと告げた。僕の知るベロ出しマークは黄色をベースにしていたが、ギンジさんがいうにはその「皿」にあったマークは赤色だという。僕はその皿が一連のベロ出しマークのシリーズのアイテムだと思ったのだが、まさかあのシリーズに類似のシリーズがあるのだろうか。僕はますますその「皿」に興味を持った。


 「では、ソメヤさん、我々は本日の午後ヴァンパイアフィールドへ出立致します。」


 デルさんはそう言って準備があると部屋を退出した。ギンジさんはそんなデルさんを心配そうに見ていたが、ふいにこんな事を口にした。


 「あれも実はとある冒険者の遺児でな。本当はまっとうな生き方をさせてやりたかったが、妙に俺に心酔しやがってな。頼みもしねぇのに俺のボディガードを気取りやがって。」


 そんな言葉にデルさんとギンジさんの信頼関係の理由を垣間見たような気がした。


 「きっと……。」


 「うん?」


 「きっと、デルさんはギンジさんの事、父親のように思っているんじゃあないですか?」


 「……、へへ、そうかな。」


 「そうですよ。僕も幼い頃に天涯孤独の身になった人間ですから、そういうの分かるんですよ。」


 「ほう……、お前さんもな……。……、なぁ、ソメヤよ。こんな事をお前さんに頼むのは筋違いなんだろうが……、その……なんだ。」


 「デルさんの事ですね。ええ、あちらできっと会う事もあるでしょうから、無理しないように気にかけておきますよ。」


 「ちっ……。まったくお前さんは変に頭がキレて好かねえな。あいつはジャンクスが俺のアキレス腱だって事で、ジャンクスが絡むとどうも冷静さを欠いてな……。ふふふ、しかし、不思議とお前さんがあのフィールドへ行くってんで、なぜだか安心している自分がいるだ。よく理由は分からんがな。」


 ギンジさんは穏やかそうな顔で言った。僕もそれを見て不思議とひどく落ち着いた気分になれた。父親が生きていたらこんな感じだったのかな、なんて柄にもない感傷は意外と悪くないモノだった。

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