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第二章 43  裸が恰好いい人

 ハナマキさんの言葉を聞いて、シノハラさんは目を輝かせて僕に「いいですか?」と言った。そんなキラキラの上目遣いを見せられてダメという選択肢がこの世界に存在するのだろうか。と言う訳で僕の「いいよ」を聞くや否や、彼女は僕の手を握って足早に場内を移動し始めた。

 おいおい、シノハラさんこれじゃ手をつないで歩くカップルみたいだよ。(いや、こんなに一方的に引きずられるカップルはいないか。これでは迷子にならないように手を引かれる親子だ。)いずれにしても素人童貞の僕には刺激が強い。なんとも、このフワフワした感覚は心地よすぎる。


 「ソメヤさん、あそこ!洋服があんなにたくさん!」


 シノハラさんは満面の笑みを浮かべて指を指した。そこには巨大なテントがいくつも立ち並び、ずらりと色とりどりの洋服が整然と棚を埋めていた。シノハラさんはさらにテンションが上がったようで、すでに小走りの状態だ。それでも僕の手をしっかり握りしめていた。

 ちょっとしたデート気分でいた僕だったのだが、そこからは正直なかなか大変だった。とにかくシノハラさんの服選びは長かった。ほとんど色の違いのない服を僕に「どっちのがいいですか?」の質問。正直「どっちでもいいじゃん」と思いつつ、慎重に言葉を選び「こっちの生地の感じのがスッキリみえる見えるかなぁ。」などとよく分からないながらに言葉を返した。時折、完全にトンチンカンな事を言ってしまったらしく、首を傾げられたりもした。いずれにしてもこのような作業が延々と続くのだ。女の子はこんな作業が本当に楽しいのだろうか。果たしてデートとはこんな感じのモノなのだろうか。恋愛経験が皆無に等しい僕は理解に苦しむのだった。


 結局シノハラさんはブルーのワンピースを1着だけ購入した。ただし、そのワンピースについては何の意見も求められていないという複雑な思いをした。ようやく、長い買い物も終了かと思われた時に、シノハラさんはじゃあ、最後にもう一軒だけとスキップしてさらにお店を探し始めた。もちろん僕はがっくりと項垂れた。

 シノハラさんが次に入って行ったのは、なぜかどう見ても男物を扱うテントだった。いつも、女の子女の子した服装のシノハラさんがボーイッシュな恰好でもするの?と思っていたのだがどうやら違ったらしい。彼女は僕の方をふり返って、


 「始まりの街でゴーレムのゲンイチロー倒す前でしたかね。私がソメヤさんにお洋服プレゼントしたいって言ったの覚えています?」


 確かナガイ君がまだエロ覚醒する前、フィールドでグレムリン相手に特訓してた頃だったか。随分前の事に感じるがそれはよく覚えていた。僕が頷くと、ようやく約束が守れますと言ってシノハラさんは服を物色し始めた。そういえばこのピザ屋のコスチュームも随分傷んできたな。

 そこからがまた僕的には厳しい時間が続いた。シノハラさんに言われるがままに、数着の試着が始まったのだ。正直、服に特段こだわりはない。なんでもいい、早く決めたい……、とは楽しんでいる彼女を前にとても言い出せなかった。そしてシノハラさんは数着の着せ替えを楽しんだ後とんでもない事を僕に言った。


 「うーん。なんだか、ソメヤさんって何着ても似合いませんね。」


 ガ――――――――ン。

 ここまで我慢してきたのに、あんまりだ。さすがにちょっとだけㇺッとして、


 「男なんてものはね、裸が恰好いい人が、本当にカッコいい人なんだよ!」


 なんて、よく分からんことを口走ってしまった。


 「ふうん。じゃあ、今度恰好いい姿見せて下さいね。」なんて事を言って試着室のカーテンを閉めた。深い意味……あるのかしら。


 そこから、さらに数着の試着をした結果、結局、僕に似合う服は見つからなかった。僕ももう疲弊していたので服はまた今度にと言いかけた時、シノハラさんがクスクス笑いながら持ってきた服があった。それも数着。


 「これって……、ピザキャットの制服じゃん。しかも色違いとか……。」


 ピザキャットは配布地域よって制服の色を変えている。つまりこの色違いの制服は、いろんな地域の制服と言う事だ。結局これが僕にはお似合いって事かな。そんな風に思いながらも、僕は黒に緑に青、赤、水色、計5色の制服をゲットした。まぁ、しばらくはこれでいいか。結果的にシノハラさんは僕に5着のポロシャツをプレゼントしてくれたのだった。


 「ソメヤさん。また一緒にお買い物来ようね。今度こそソメヤさんが裸よりかっこよくなるお洋服見つけてあげるからね。」


 そう言って笑うシノハラさんはやっぱりとても可愛らしい。確かに基本的には2人でお店を回るのは楽しい。それも手をつないでだなんて、この上なく楽しかった。ただ、またこの着せ替え地獄が待っているかと考えると、正直プラマイゼロとも言えなくはなかった。


 何はともあれ、このようにして食料の問題は解決出来た。残るはライカンスロープ、ヴァンパイアについての知識をもっと集める作業を何とかしなくては。ヴァンパイアについてはヴァンパイア自身のレベルさんから少なからず聞いていたので固定概念は完全になくなっていた。それでも、身を守る術は現状では皆無と言ってよかった。

 僕は餅は餅屋という事でヴァンパイアの事はヴァンパイアハンターに聞く事にしていた。そう、ヴァンパイアハンターのデモン・マリウスに会おうと考えていたのだ。だが、たまたま2度彼に会った事があるだけで、実際に今どこへ行けば彼に会えるのか、皆目見当もつかない状態だった。僕は唯一の手掛かりであるフィールドの管理企業を回る事にした。以前話した時に彼は今現在それらの企業に雇われ、ヴァンパイアハンターを行っていると教えてくれたからだ。


 まずは差しさわりのない「ジコクコポーレーション」「ゾウチョーエンジニアリング」を回ったのだが、案の定、社外秘ですと言われ何の情報も得る事は出来なかった。そんな事は初めから分かっていた事だが、受付の女性の反応で何かしら情報が得られないかと考えた訳だ。そしてそれは次に向かった「タモンカンパニー」で少なからずの成果を得られた。あまりここには来たくなかったのだが、「コウモクエンタープライズ」へ行って御曹司にでも見つかったらまた大騒ぎになるので、コチラの訪問を先にしたのだった。


 「タモンカンパニー」の受付には2人の女性が座っていた。他の会社の受付の反応を見るに、彼女達は本当に何も知らないようで、デモン・マリウスの名を出してもほとんど無反応であったのだが、ここでは聞き覚えがあったのだろう。二人の受付は一瞬顔を合わせて、その上で企業内の情報は提供致しかねるとマニュアル通りの回答をした。

 という訳で僕は会社の入り口が見渡せる場所、以前「お払い箱」を見つけた店先でしばらく様子を見る事にした。だが、その日はしばらくダラダラと時間をつぶしていたのだが、だいぶ日も傾いてきて、今日は諦めようと考えていた。正直2~3日はここへ通ってみようかとのんびり構えていたのだが、幸か不幸か僕はとんでもない場面に出くわした。


 「あまり深入りされると君も立場を危うくするんじゃないのかなぁ~、マリウス君。うん。」


 会社の入り口から出てきたのはナルコス・ヴァーデンバーグと、デモン・マリウスだった。どうやらデモン・マリウスの雇い主は「タモンカンパニー」で正解だったようだ。2人の雰囲気は傍から見てもいいとは言えないようだ。


 「俺は忠告しただけだ。それとも何か探られると痛い腹でも抱えているのか?」


 「ふふ、君には参るね。」


 そう言い放つとナルコス・ヴァーデンバーグは凄まじい速さで抜刀しデモン・マリウスに斬りかかった。あまりにもその一連の動作が滑らかで、僕はデモン・マリウスが真っ二つに斬られたかのように見えた。だが、それはそれは単なる錯覚に過ぎず、実際にはデモン・マリウスも知らぬ間に抜き放った剣でナルコスの一撃を防いでいた。2人の攻防はそこで終了したようで、息を合わせて離れると同時に剣を鞘に納めたのだった。


 「なんの冗談だナルコス。」


 「いや、君が吹抜けたんじゃあないかと思ってね。まぁ、腕はさびていないようだね。僕の詮索をしている間に、早くあのとぼけたヴァンパイア君を始末したらどうだい?それとも気持ちが錆びちゃったのかな?」


 「ふん、なんとでも言え。だが、俺は忠告したからな。アレは人の手に余るものだ。いずれお前を地獄へ導く。お前のようなヤツはそのほうが世界のためかもしれんがな。」


 「ふははは、ひどい言われようだな。だが、そうだねぇ、僕は君とはいつか本気で死合ってみたいものだね。」


 そう言ったナルコスは、明らかに、目の前の物を破壊したいとでも言わんばかりの熱を込めて、その邪悪そうな瞳を鈍く光らせた。デモン・マリウスはいつものように涼しい表情を崩さずに、無言のまま去って行った。彼をしばらく睨め付けていたナルコスが僕の目には本当の悪魔のように見えた。しばし、呆然としてしまったが、ハッと我に返り、僕は本来の目的であるデモン・マリウスの後を追った。


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