第二章 42 市場にて
フィールドから帰ってから僕達は、再びヴァンパイアのフィールドを冒険するための準備を始めた。最低でも往復に8日間、その間の食料をどうするのか、また、ライカンスロープなどのモンスターに襲われた場合の対処法。そしてなによりヴァンパイアの王『ヴラド・ドラグール』が僕達に好意的であるのか否かも不明な現在、出来る限りヴァンパイア対策も必要だろう。
「ソメヤさん、今日はどこへ行くんですか?」
僕は久しぶりにシノハラさんと2人で出かけていた。まずは食料の問題を解決しようと考えていた。お買い物と言えばやはり女子力が高いシノハラさんが最適だろう。ちなみにフクスケは珍しくシノハラさんと一緒については来なかった。出かけにあいつは僕に「たまには2人で楽しんできてください。」などと変な気を使ったらしい。余計なお世話だと思ったのだが、いざ、こうしてシノハラさんと久しぶりに2人きりで歩くのは、うん、悪くなかった。
「今度の冒険は長くかかりそうだからさ、食料の問題とかを解決できないかなと。例えば、前の世界で食料ん備蓄とかって何思い出す?」
「うーん。そうですね、乾パンとか、缶詰、カップ麺とか……ですかね?」
「そう、まさにそんな防災時の備蓄のようなモノを手に入れようと思ってね。」
「えっ、でもそんなもの今までコチラの世界で見た事ないですよ。」
「ちょっとコネがあるんで、入手できないか頼んでみるよ。」
シノハラさんは半信半疑で「はぁ」と言ったが、目的地の市場まで機嫌良さそうに隣を歩いていた。久々のお出かけ、しかもショッピングという事で楽しそうだ。
先日の市場は休みを挟んで10日ほど続いていると言うので、まだ開催中であった。僕は先日場内に入る際にもらった入場証を使って場内へ入った。入ってから場外に待たせた合ったシノハラさんを小石とエレガント・チェンジで入替るという厳密には犯罪的な方法を使った。この辺の罪の意識が薄いのは我ながらどうしようもないと思うのだが、思うだけで直そうともしないのが僕という人間だ。
場内は今日もとても混みあっていた。様々な品物が並び次々と取引が行われているようだ。シノハラさんは並ぶ商品の数々を見て、初めて僕が見た時のように驚きの表情を浮かべた。
「ソ、ソメヤさん……、あれって……。」
「うん、そうなんだよ、ここには僕らの世界の品々が流通しているんだよ。僕も初めびっくりしたよ。」
シノハラさんは大好きだったというチョコレートを見つけて大はしゃぎしていた。僕はみんなへのお土産と思いお菓子やジュースを大量に購入した。冒険に行く時のおやつにもなるし、などと思ったからだ。とは言えついつい恥から買いあさってしまい、段ボール十数箱になってしまってさすがに欲張りすぎとシノハラさんに笑われた。だが、そう言う彼女もすでにチョコレートをかじっていた。唇の端にチョコのカケラが付いていてそれがなんとも可愛らしい。可愛らしいので言わずに放って置いた。
大量の段ボール箱はいつものようにカオスポケッツに収納して、さらに保存のきく食料を求めて場内を歩き回った。しかし広い場内を随分探したのだが、なかなか目当ての品々を発見するに至らなかった。さすがに歩き疲れてきたところで、僕はハナマキ商会のハナマキ・リョウタさんの事を思い出し、彼を探す事にした。そえは品物を探すよりもずっと簡単な作業で、しばらくすると、前回同様に場内をキョロキョロとせわしなく歩く男を見つけた。男は僕を見つけるや否や、少し小太りな体を「バイン、バイン」と揺らしながら小走りにやって来た。
「おお、ソメヤ君!会いたかったんだ。この間君に聞いた調味料、コラトゥーラを手に入れたんだが、あれは来る!あれは売れるよ!ありがとう!はははは!」
僕の手を握ってブンブンと振った。分厚い掌は少し汗ばんでいたが、さほど不快にならなかったのはこの男の人柄のせいであろうか。するとハナマキ・リョウタは僕の傍らのシノハラさんを見つけると不躾にジロジロを見分し始めた。キョトンとして佇むシノハラさんは実年齢よりも幼く見えた。
「やや、ソメヤ君どこでこんなにかわいらしい女の子を?口元にチョコレートつけている幼い感じといいい、仮に僕がロリコンだったらときめくレベルの美少女じゃあないか。」
シノハラさんはサっと口元にてをやりチョコのカケラを取り除いてからキッと僕を僕を睨み付けた。ハナマキ・リョウタめ、余計な事を。にしてもその言いぐさは、まるで僕がロリコン認定されるような感じじゃあないか。まぁ、否定は全くしないのだが。シノハラさんの視線が怖いので僕は話を変える。
「ハナマキさん、今日はお願いがあるんですが、このメモに書いた品物購入できませんか?」
そう言って彼にメモを渡す。あらかじめ必要そうな品物をリスト化して個数などを明記したものだ。ハナマキ・リョウタはしげしげとその内容を見つめ少し難しそうな顔をした。
「う~ん、カップ麺と缶詰……、これはまだ協定でこの世界では解禁されていないんだよな。あれらは便利過ぎてコチラの世界に大量の失業者が生まれるからねぇ。……、うーん、でもまぁ、いいだろう特別に用意するよ。親友であるソメヤ君の頼みだからね。」
いつから親友に……。いや、それは願ったり叶ったりだ。
ハナマキさんと親友になれればいろいろと都合がいい……、などと打算的にしか考えられない自分が嫌になる。そりゃ、友達少ない訳だよなと自戒する。ハナマキさんは2~3日後にはこの街を離れてしまうとの事で僕達の家の住所に届けてくれるとの事だった。なかなか奇特な人だ。……などと親友と呼んでくれる人物に失礼な事を思った。
「ハナマキさん……、さらに厚かましいお願いがあるのですが……。」
「なんだよ、水臭いな何でも相談してくれたまえよ。」
僕は市場で出る食品ロスなどを分けて欲しいとハナマキさんに告げた。理由はガイガーさん達のためだ。孤児院の子供達、職員、病院の患者達にやはり病院の職員、現在は近所のボランティアによってなんとか生活を維持しているのだが、それも限界があるだろう。僕はハナマキさんにいきさつを告げて協力してくれないかと頭を下げた。
「あ、頭を上げたまえソメヤ君。そんな事に頭を下げる必要はない。もちろん協力するよぉ~!うわ~ん!」
ハナマキさんはなぜか号泣して「ひどい話だな~」と叫んだ。さらに市場の関係者や業者に連絡して必要な物資を提供すると約束してくれた。どうも心が貧相な僕はここまで全力で協力してくれるハナマキさんが理解できずに、つい「どうして?」なんて馬鹿げた質問をしてしまった。
「いいかい、僕が助けるのは僕達商人の明日のお客様かもしれないんだ。商人は商人が儲かるだけでは未来はないんだよ。商品を買ってくれるお客様を助けるのに何か特別な理由がいるかい?」
その時のハナマキさんは小太りなのに、メチャクチャイケメンに見えた。僕は世の中にはすごい人がたくさんいるんだと、当たり前の事に改めて感心するのだった。
ハナマキさんとの別れ際、ハナマキさんはシノハラさんに、こんな事を言い残して去って行った。
「お嬢さん、ここには洋服なんかもたくさん入荷しているから、覗いていくといいよ。」




