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第二章 41  ライカンスロープ

 冒険初日から僕達は随分ディープな現場に遭遇してしまったようだったが、それでも僕達は改めてフィールドの奥深くへと進んでいく事にした。そこからも実に2度も冒険者とライカンスロープの小競り合いに遭遇した。どちらもにらみ合いの状態で戦闘には至っていないようだったが、冒険者達の身に着けていたエンブレムを見るに、それはそれぞれ「ジコクコポーレーション」「コウモクエンタープライズ」の冒険者達のようだった。

 どうやら各企業こぞって『ヴァンパイアナイト』なる鉱石の採掘に力を入れているようだ。僕はおっさんが言っていた事がどうも気になっていた。確かおっさんは『ヴァンパイアナイト』に対して「今までは見向きもされなかった」と言っていた。そう考えれば最近になってこの『ヴァンパイアナイト』に価値を見出し、各企業の採掘に対して対価を払っている者がいるという事ではないだろうか。

  

 「ソメヤさん…、思案中たびたび申し訳ありません…。」


 今は僕の肩に乗っていたフクスケが緊張した雰囲気で僕に囁いた。すでに、ツボミさんとナガイ君も何かを察しているようで辺りを伺う仕草をしていた。


 「すみません、風下からの接近だったので気が付くのが遅れてしまいました。多分ライカンスロープです。」


 フクスケの言葉が終わるや否や5匹のライカンスロープに僕達は囲まれている事に気が付いた。僕はみんなに自分の周りに密集するように告げる。パーフェクト・プロテクトとグレート・エスケープで逃げられる形を整えるためだ。

 間近で見たライカンスロープの迫力ときたら相当なものだった。今まで見たどんなモンスターよりも邪悪で美しい姿をしていた。こんな時に何だが、さぞセイラさんがトキメいているんじゃあないかと彼女をチラッと見る。彼女はライカンスロープを見つめながら予想外にドン引きしているようだった。またまた、こんな時に何だが、その理由を尋ねると。

 「毛深いのは……ちょっと苦手なのです……。」

 と、よく分からない基準でライカンスロープには萌えないそうだ。

 そんな馬鹿な会話を遮るように1匹のライカンスロープがその禍々しい牙の並ぶ口を開いた。


 「お前達もまた、念動石を求めている者達か?」


 「い、いえ、僕達は石には興味はありません。」


 ライカンスロープはその狼の頭を軽くひねり僕を凝視した。まるで品定めをしているようだった。


 「では、お前達がここへ赴いた理由はなんだ?」


 そう言われると正直困る。管理フィールドがつまらないので冒険に来ましたって言っていいものかどうか。さして具体的な目的があったわけでもないからな実際。そんな事を思っていると、セイラさんがまた突っ走しった。


 「私はこのフィールドにいるヴァンパイア様に会いに来たのです!一人にはお会いしましたが、他にもいらっしゃると聞いています!ほかの方にもお会いしたいのです!もし、邪魔をするというのなら、私が相手になるのです!」


 そう言って腕まくりをして僕から離れようとした。


 「ちょ、ちょい。勝手に離れないでセイラさん!」


 今日もまた羽交い絞めだ。最近こんな状況ばかりでより効果的な「羽交い絞め方」を僕は構築しつつあった。そんなドタバタな状態を見て、ライカンスロープ達はゲラゲラと笑い始めた。


 「お嬢さん、我々を前にそこまで啖呵を切れるのはたいしたものだ。するとお前達は我らの王であり、友である『ヴラド・ドラグール』に会いに来たと言うのだな。」


 『ヴラド・ドラグール』……、なんともかっこいい響きの名前だ。それだけで、さぞかし高貴な感じのヴァンパイアなのだろうと感じた。


 「我らの王って、その方はヴァンパイアの王様なのですか?」


 セイラさんは目を輝かせて聞いた。ライカンスロープの狼の顔では表情はよく伝わらないが、彼は少し口ごもりながら「そうだ」と告げた。何か訳ありなのだろうか。


 「その方にお会いできませんか?」


 セイラさんの言葉に彼女以外のメンバーの顔が蒼白となった。また、余計な事をこの人は。と、思っているとライカンスロープは首を横に振り、それは出来ないとつぶやいた。「なぜですか?」尚も食い下がるセイラさんだったが、ライカンスロープ達は僕達に背を向けて去ろうとした。


 「なぜ……。」


 再び口を開きかけたセイラさんに、ライカンスロープは振り向かずに、


 「今このフィールドは冒険者達に蹂躙されている。お前たちをおいそれと信用する事は出来ぬ。だが、今日は見逃してやろう。お前たちからは邪な臭いがしないのでな。だが、もっと好戦的なライカンのグループもいる。悪い事は言わぬ、早々に立ち去れい。」


 僕はセイラさんを差し置いて最後に質問を続けた。


 「そのヴラドさんのいる場所まで何日くらいの距離があるのです?」


 ライカンスロープは振り返って再び僕の顔を凝視し、明らかに笑みを浮かべた。


 「もう少し頭のいい人間に見えたがな。それでも行くと言うのか……。そうだな、お前たちの足でならば4日はかかるかもしれんな。」


 4日……。けっこう遠いな。恐らく悪路とモンスターの出現も考慮しての事だろうか。


 「王は城に不在の事も多いので、確実に会えるとは断言できぬがな。まぁ、お前たちが死なぬことを祈っておこう。」


 そんな不吉な事を言い残し彼らは去って行った。


 

 彼らが去った後の僕らは、何かひどく脱力感を感じていた。しばらく誰も声を発する事が出来なかった。だが、それは単純に恐怖によるものではなく、どこか不思議な高揚感に満ちた感覚に付随するものと言っていいだろう。

 

 「す、すごいモノ見ちゃったって感じですね……、はは、狼男…すごい迫力でした。」


 意外にも初めに口を開いたのはナガイ君であった。彼の手足をよく見ると軽く震えているのが分かる。だが、それはいつものような単なる「臆病」から来ているのではない事がその表情から伝わった来た。彼も彼なりに何かしら心の高ぶりを感じていたのだろう。


 「本当だな。ライカンスロープと言えばかなり上級のモンスターだからな。やはり今まで相手にして来たモンスターとは圧倒的に違う。」


 ツボミさんもまた勇者としての血が騒いだのか、いずれ戦ってみたいものだなどと豪気な事を口にした。シノハラさんはライカンスロープのその美しい姿に惹かれ、フクスケは索敵が遅れた事をしきりに反省していた。そしてセイラさんは、ひどく物思いに耽っていた。恐らく彼女はみんなが興奮したようにライカンスロープに対してではなく、彼らが口にしたヴァンパイアの王『ヴラド・ドラグール』についてではないだろうか。正直に言えば僕もその存在にひどく心惹かれていた。そして、僕としては珍しく危険を顧みない冒険に心が騒ぎだす思いだった。

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