第二章 39 ヴァンパイアナイト
それから、しばらく僕達はジャンクス達の同行を追ったが有力な手掛かりはつかめないままとなっていた。
ある意味で平穏な日常が戻ったとは言えなくもない日々であったが、それは目に見えない「巨大な沈痛」の上に存在しているだけのハリボテの「平穏」でしかなかった。
(いくらしばらく状況が落ち着いたとは言え、この時期にこのフィールドに来なくても……。)
往生際が悪い僕は、パーティー全員でヴァンバイアのフィールドへ到着してからも尚、ルンルン気分でスキップすらしているセイラさんを眺めながら思った。
僕達はこの街の目標として、このフィールドでの冒険をする事に決めていた。セイラさんがそれを強弁に推進したのは言うまでもないが、イマイチ乗り気じゃなかったのが僕だけという状況は想定外だった。
ツボミさんは「もう管理されたフィールド以外ならどこへだって私は行くぞっ!」と息巻き。
シノハラさんは「ヴァンパイヤといっても、あのレベルさん?あんな感じの人なら仲良く出来るかもしれませんよ」と無責任な事を言い。
ナガイ君は「ヴァンパイアなんて倒せたら、僕、モテますかね。えへ。」と妄想に身を任していた。
フクスケは僕と一度ヴァンパイアのレベルと直接会話をしているだけあって、彼もまたヴァンパイアに対する危険性については既に懐疑的になっているようだった。
猜疑心の塊である僕はそれでもやはり、未知なるモンスターである事に変わりがないとのスタンスをくずせずにいたのであった。
「今日は一応行けるところまで行ってみよう。家もカオスポケッツに収納してきたから、そこで一泊して明日には戻るスケジュールだよ。いい、セイラさん、約束だよ。」
「もう、しつこいですね、ソメヤさん。一度言えば分かるのです。本当にしつこいって言うか、しつっこいって感じなのです。油っぽいですよ。胸やけがします。」
なにもそこまで言わんでも。と思いつつも、セイラさんには油っぽいほど言っておかないと、何をしでかすか分かったものではない。そんな僕の懸念をよそにツボミさんがセイラさん近づき、
「何はともあれ、まずはフィールドの深淵部に向かって冒険スタートだな!」などと呑気に言った。
闇の眷属好きな魔導士と、冒険大好きな赤髪の勇者は肩を組んでスキップで冒険の第一歩を踏んだのだった。僕はアホな2人を尻目にシノハラさんの鞄に収まっているフクスケに、現状の不安材料について相談をした。
「とりあえず、少し悪路でも平坦なルートは避けたいと思うんだ。」
「ええ、例のナルコス・ヴァーデンバーグの件ですね。」
「ああ、彼らがここで何をしているのかはまだ分からないけれど、走竜が走れるルートでは彼らと出くわす危険が高いからね。ナコルス絡みだと特にあの高揚している2人には最悪の状況になっちゃうからね。」
僕達の会話にシノハラさんが頷きながら、「本当にその人達ってこんな場所で一体何をしてたんでしょうね?」と不安そうに言った。
「このフィールドの事はいろいろ調べてみたんだけれど、正直あまり多くの情報がなかったんだ。ただ、シャロンさんから興味深い話を聞いたんだけれどね。」
その言葉に反応したナガイ君はどうでもいい内容の事を挟んできた。
「シャロンさん綺麗ですよね~。僕、憧れちゃうな~。」
こいつが言うとなんでもいかがわしく聞こえるから不思議だ。完全にスルーして話を続けた。
「シャロンさんの話ではこのフィールドには『ヴァンパイアナイト』と呼ばれる、特別な鉱石が採れるらしいんだ。詳細は分からないけれど膨大なエネルギーを秘めた石なんだって。ここにヴァンパイアが存在する理由も、もしかしたらそれが鍵なのかもしれないね。」
「つまり、ナルコス達はその鉱石を採掘しているって事ですか?」
シノハラさんの問いに答えたのはフクスケだった。
「そう考えるのが妥当だと思います。ナルコスの所属している『タモンカンパニー』は純然たる営利企業ですから、多くの人を雇って大規模な集団で移動していたとなると、そこには『利益』に繋がる『源泉』があると考えるのが大前提でしょうから。」
フクスケの言う通りだった。その『ヴァンパイアナイト』と呼ばれる鉱石がよほどの価値があるのでなければ、誰も好き好んでこんな危険なエリアに足を踏み入れないだろう。
あ、いや、もとい。あの変態の2人は例外か……。
「お~いっ!みんな早くぅ!」
セイラさんが満面の笑みで前方から手を振っていた。隣のツボミさんはジャンプして手を振っていた。僕達は2人を前方から呼び戻し、理由を言ってゴツゴツとした岩石に覆われた台地をルートにする事を告げた。少しでも前方に進みたかった2人ははじめブーブーと文句を言ったが、ナルコスの名前を出すとそそくさと岩石を上り始めた。やれやれと思っていると再びナガイ君がシャロンさんの事を言い出したので、このエロ坊主は……などと思っていたのだが、
「シャロンさんはどうしてそんな事知ってたんですかね。」
何気ない一言だったが、意表をつかれて答えられなかった。確かに、店に来る冒険者達はとてもこのフィールドに訪れるような猛者は見受けられなかったし……。いや、ひとりメチャクチャ強い人の存在を僕は思い出していた。そう、店でジャンクスをメタメタにしたあのテンガロンハットの人だ。
「やっぱりあの人、シャロンさんとなにか関係あるのかな……。」
どこか嫉妬をはらんだような独り言に、敏感なシノハラさんがその後、微妙にトゲトゲしていたのはいつもの事であった。
それから数時間、行けども行けども岩だらけの風景に、さすがにノリノリだったセイラさんとツボミさんですら「飽きた」と口にするようになった頃、僕達はその出来事に遭遇した。
「ソメヤさん、どうやら近くで戦闘が行われているようですよ。」
それはフクスケの優れた聴覚と嗅覚が察した内容であった。フクスケの話では数十名の人間の声、走竜達の足音、剣が鈍い音を立てて何かを薙ぐ音、そして、狼のような獣の叫声だった。どう考えても、誰が考えてもこう考えるだろう。
走竜に乗った冒険者達が、ヴァンパイアの従者である狼男のようなモンスターと交戦中であると。フクスケと僕の会話を聞いてみんな一気に緊張感が走った。




