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第二章 38  任侠のギンジ

 孤児院の件で誰もが怒りに駆られていた。ジャンクスに対して誰が斬りかかってもおかしくない状態だったのだ。だが、誰よりも素早く無言で動いたのはデルさんだった。その素早い太刀筋はツボミさんやナガイ君と対等かそれ以上か。ジャンクスが真っ二つにされたのではないかと錯覚をしたほどの、鋭く凄まじい太刀筋だった。

 だが、ジャンクスは健在だった。ジャンクスのほんの数センチのトコロでデルさんの剣は止まっていた。止まったと言うよりも、デルさんの剣先がそこから先を切り裂く事が出来なかったと言うほうが正確かもしれない。その光景を見るに、ジャンクスの周りに結界のようなモノが張られているようだった。ちょうど僕のパーフェクトプロテクトのようなバリアの類だろう。

 それを見てすぐにそれがあの猛火の孤児院で、「皿」を掘り出す際に使われたモノだろうと感じた。そしてその予想は正しかったようだ。デルさんの剣劇に怯んだように思われるジャンクスの後方から魔導士の女性が現れたのだ。彼女は徐にデルさんに杖を向け何かしらの詠唱を唱えた。爆発的に発光した閃光がデルさんを貫く。だが実際に貫かれ溶解したのは1ゴールドコインだった。今度はコチラの番だと言わんばかりに、僕はエレガント・チェンジでデルさんを救出した。


 「へぇ~、なかなか珍妙な魔法を使うやん。めっちゃ、おもろいなあんた。」


 目深にかぶっていた大きめの魔導士帽を上げて魔導士は言った。その表情はとてもあどけない少女のものだった。魔導士は僕を見つめて少しだけ口角を緩めた。それは「戦慄」という言葉を僕の脳裏に瞬間的に浮かべるほどのおぞましさを纏っていた。


 「ジャンクスちゃん、グリーズが引けゆーとりまっせ。潮時や下がりぃ。」


 ジャンクスは何か言いたげであったが、魔導士のひと睨みで静かになった。まるで大型の馬鹿な犬のような顔が印象的だ。それほどこの少女の持つ力が強大であるという証左なのかもしれないが。


 「ほな、さいなら……。」


 そう言った瞬間、魔導士とジャンクスは眩い連続したフラッシュに包まれ、気が付けば2人の姿はその場にはもうなかった。魔導士というよりは、「魔女」という言葉がよほど彼女を的確に形容しているだろう。「始まりの街」でのブラッシェド・バンブーの『忌避のアンジェ』に続いて、またしてもあのような少女が敵として立ちはだかる事を思うと、一層僕の心は下方へと引っ張られていくようだった。

 すでに伝令が回っていたのか、他のジャンクス派、ブラッシェド・バンブーの人間は蜘蛛の子を散らすように離散してゲルフ・バンブー邸を後にした。


 「ソ、ソメヤさん……、助かりました。危うく命を落とすところでございました。」


 僕に寄りかかり体制を崩していたデルさんが、立ち上がりながら言った。その顔からはいつもの余裕に満ちた雰囲気が削がれていた。デルさんはジャンクスを討てるチャンスを、みすみす逃してしまったその事実にひどく落胆していた。デルさんはギンジさんの方を見やり申し訳なさそうに頭を下げた。ギンジさんは穏やかな表情でそれをなだめるように手を上げたが、そのまま心労からかその場に崩れ落ち、膝をついた。


 「ギンジ様!」


 デルさんとドメニさんが駆け寄って介抱をしたが、逆にギンジさんはデルさんの無事を改めて訪ねていた。


 「私は大丈夫です、それよりもギンジ様が……、ガイガーさんに見てもらいましょう。」


 「いや……、俺はガイガーに合わせる顔もないわ……。」


 二人の会話からガイガーさんの名前が出た事に僕は驚いた。デルさんはドメニさんに水と薬を持ってこさせて、それをギンジさんに飲ませた。元々の持病があるという事で、薬を飲めば落ち着くとギンジさんは笑って僕らの心配を拭おうとしていた。その言葉は本当のようで、彼の呼吸は徐々に落ち着きを取り戻して、デルさんの助けなく椅子に座れるほどには回復をしたようだった。それを見て安心した僕は先ほど持った疑問を口にした。


 「ギンジさんとデルさんは、ガイガーさんとお知り合いなんですか?」


 僕の言葉にデルさんが「あの孤児院を創設したのはギンジ様なのです。」と驚くばかりの事を口にした。そして僕はガイガーさんが言っていた言葉を思い出した。


 「いえ、いえ、私は管理を委託されているだけで、実際に経営されている方は別にいるんですよ。実際、何年も赤字経営なんですが、それでも続けて頂いているとても素晴らしい方がね。」


 そうか、ギンジさんが……。

 そう言えば「猫の手本舗」のおばさんも「任侠のギンジ」なんて通り名を口にしていた事を思い出した。任侠とは仁義を重んじて、困っていたり苦しんでいたりする人に対して自己犠牲を厭わないような事を言うのだろう。いわゆる男気と言っていいだろう。僕は心の中で、改めてこの人に対しての尊崇の念が沸々と湧き上がってくるのを感じていた。

 仁義に基づいて築き上げた孤児院の焼失。今までジャンクスをどこかでかばってきたギンジさんが、突然ジャンクスに斬りかかったという話はそんな理由があったからなのだろう。恐らくそんな仁義に欠ける情けない行為を行った自分の甥に対して、心底情けなく思っての事だろう。ジャンクスに斬りつけて、最も傷ついたのはきっとギンジさんだ。


 「ギンジさん…、ガイガーさんのトコロへ行きましょう。ガイガーさんはすでに病院と孤児院の再建を考えていましたよ。僕らも力を貸します。だからもう一度ギンジさんも一緒に……。」


 ギンジさんは涙を見せないまま泣いていた。それがよく分かるほど「嘆き」「哀情」「愁傷」様々な悲しみの感情が薄い藍色のベールとなって彼を包み込んでいた。デルさんがギンジさんの肩に手を添えて無言で頷いた。ギンジさんはそれを認めてからもう一度僕を見やった。僕もやはり黙って頷いた。

 彼は顔を伏せたまま、絞り出すような声で、一言「ありがとう…」とだけ言った。

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