第二章 37 ゲルフ・バンブー邸にて
「で、つまりどういう事なのだタカキ君、私達にも分かるように説明してくれ。」
ツボミさんの言葉にパーティーの面々、そしてタナカさんが頷いた。僕は現状で様々な情報を統合して導き出される仮説を説明した。
「まず、ゲルフ・バンブーのデルさんからの情報で、ジャンクスがこの街で何かしらの探し物していた事は分かっていた。そして、ジャンクスがこの孤児院の土地を売るようガイガーさんに圧力をかけていた事もね。そう考えればジャンクスの探していた物はここにあったと考えられるよね。そして、ジャンクスの後ろ盾となっているのはブラッシェド・バンブーの『八行者 』の1人、『利欲 のグリーズ』。そのグリーズは『鳥の仮面』を着けているそうだよ。」
「じゃあ、ジャンクスが探していたのは、その鳥の仮面の男が持ち去ったという……。」
タナカさんがつぶやいた。
「そう……、地面から掘り出した『皿』という事になるね。」
「では、その皿のために奴らは孤児院や病院を……。」
ツボミさんが怒りを堪えながら言った。彼女の拳は強く握られていた。それは、ここにいる人間すべてがそうしているように。
「逆説的に言えばそうまでして手に入れなければならない物とも言える。そのれが『八行者 』が行った事となると、正直悪い予感しかしない。僕はその皿について少し調べてみるよ、確実に裏があるんだろうから、これ以上彼らの好きにはさせられない。」
人命を犠牲にしてまでの「皿」の入手。それが何を意味しているのかは、この時点ではまったく理解が出来なかったのだが、僕らの心の中は狼狽と悲観、そして義憤の感情に満たされていた。そんな逆立つ僕らの感情に呼応するように、その「皿」にまつわる物語は一層陰鬱に、この「黄昏の街」を包み込むのだった。
僕達はその足でゲルフ・バンブー邸へと向かった。今回の顛末をデルさんとギンジさんに伝えるためだ。これを聞けばあるいはギンジさんは覚悟を決めてジャンクスを追放すかもしれない。そんな思いを抱いての訪問だった。だが、事態はもうすでに動き始めていた。先ほどの火事の現場の喧騒にも引けを取らないけたたましさに辺りは覆われていた。
「な、なにがあったんでしょうね……。」
ナガイ君の疑問に当然誰も答える事は出来ない。とにかく僕達は正面の門へと向かい状況の把握に努めた。何人かのやじ馬たちが遠巻きに見守っているのを発見し、状況を聞いた。
「なんでも、ギンジ親分さんがキレて甥のジャンクスに斬り付けたらしいんだわ。それで、もう中じゃあ、大騒ぎが始まって、死人が出てるなんて事言ってた組織の人がいたがね。いやぁ~怖いねぇ~。」
どうやら孤児院の火事の件はすでにギンジさんの耳に届いているらしい。僕はシノハラさんとセイラさん、そしてフクスケに門の前で待機してもらい、残りのメンバーで邸内に入る事にした。シノハラさんはともかくセイラさんはなぜ自分が待機なのかと駄々をこねたが、敵味方が判然としないままセイラさんの能力で人を操るのは同士討ちの危険性もある事を告げると、ブスッとしつつも聞き入れてくれた。突入時にツボミさんが僕を見て笑った。
「良かった、思ったよりもタカキ君が冷静で。」
そう言われた事で本当の意味で冷静になれた気がした。
邸内では急進派・ブラシェッド・バンブーと、ギンジさんを信奉する穏健派と思われる勢力が激しくぶつかり合ったいた。セイラさんにあのように言ったものの、僕達をしたところで急進派と穏健派の人々、その区別はつかない。
「ソ、ソメヤさん!」
慌てた様子で声を上げたのはデルさんの部下であるドメニ・カラッチであった。彼は頭にきつくタオルのようなものを巻いていたのだが、本来は白地であろうそのタオルは鮮血で半分赤く染まっていた。彼は僕に駆け寄って焦りながら事態の状況を知らせてくれた。
「ご存知かと思いますが、今日街の孤児院をジャンクスさんが襲ったそうです。なんでも火をかけたとか。前からブラッシェド・バンブーの要請であの人は何かを探してたんです。そして、それを手に入れるために……。それを聞いたギンジ様が突然ジャンクスさんに斬りつけたんです。いや、死んではいません、大けがに間違いはないと思いますが、治癒魔法でほぼ完治しているはずです。先ほど先頭に立って暴れているのを見かけました。」
やはりジャンクスが放火した狙いは予想の通りのようだった。デルさんとギンジさんの状況を聞いたが乱戦になり、現状の位置が把握できていないようだった。僕はすぐに1日1回限定の絶対防御パーフェクトプロテクトを展開して乱戦が続く邸内を無人の野を行くがごとく進んでいく。初めて体験したタナカさんとドメニさんは随分と困惑したお顔をしていた。
「ギンジ様!デル様!ソメヤさんが!」
すぐにドメニさんが二人を発見して声をかけた。ブラッシェド・バンブーの戦闘員はかなりの数がいたようで、2人の足元には切り捨てられた数人の男達が重なるように崩れ落ちていた。さすがに二人は歴戦の兵と言うところだろうか、息を切らせていたもののどうやら無傷のようだった。
「おお、お前さんか、こんなところへ現れるとは相変わらず酔狂な事だな。」
ギンジさんはどこか達観したような雰囲気を醸し出していた。その姿はとても寂しそうにも見えて、こちらを不安にさせる空気感があった。
僕はデルさんにアイコンタクトでそれを伝える。デルさんは黙って頷いた。刹那、隣の部屋とを仕切っていた襖が切り裂かれ巨漢の金髪が踊るように飛び出て来た。荒ぶるそのオーラはひどく禍々しく血に飢えた獣のそれを想起させた。
「おじきぃ~、随分じゃねんぇかぁ~、何も突然斬りかかるこたぁ~ね~だろぉうよ。」
太々しいその様に僕はもちろん、タナカさんも、ツボミさんも、ナガイ君ですらブチ切れる寸前だった。
「だが、もういい、俺はあんたを始末してゲルフを取り戻すぜ。あんたが親父からかすめ取った、このゲルフをな!」




