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第二章 34  イケメンの中のイケメン

 翌日の朝はあまり目覚めの良いものではなかった。昨夜のゴタゴタで疲れていたのか、僕はいつもの時間に起きる事が出来ず、いつまでもベッドの中でグズグズとしていた。ナガイ君が何度かドアの外から声をかけてきたのには気が付いていたのだが、ナガイ君なら「まぁ、いいや」とぞんざいに扱っていた。だが、あまりに僕が起きて来ない事に業を煮やしたのだろうか、ツボミさんが部屋に乱入してきて僕に馬乗りになって怒鳴って来た。こういう行為をうかつにする幼さがツボミさんらしいのだが、よりによって朝に仰向けに寝ている男子に馬乗りする事はないだろうと柄にもなく赤面した。


 「こら!タカキ君!いつになったら起きるのだ!タナカさんが来ているぞ!君に早急に会いたいと言っている!早く起きたまえ!」


 と言って僕の肩を掴んで、上下に動いて叫んだ。僕はさらに赤面した。僕の今日の目覚めはある意味最高で最低だった訳だ。しかし目覚めが良くなかったというのは、そんなツボミさんの無意識な破廉恥行為だけが原因ではなく、タナカさんがもたらした情報によってだった。

 僕が気持ち前かがみでツボミさんの後をついてリビングへ降りていくと、そこには先日からは随分見違えた姿のタナカさんが待っていた。タナカさんは「猫の手本舗」での仕事をし始めてから、以前のように身なりもキッチリとして「イケメン」の称号を完全に取り戻していた。朝からこの人はとても爽やかだ。


 「タナカさん、すみません、お待たせしてしまって。」


 「いや、俺こそ朝早くからごめんよ。でもどうしてもソメヤ君に伝えとかなきゃいけない話があってさ。」


 タナカさんがいつになく神妙な表情で語ったその内容とは。

 昨日の事だが、彼は久しぶりにガイガーさんの孤児院に訪れたそうだ。広くアイテムを扱う店舗でサッカーボールを見つけて、孤児院にそれを持って行き、子供たちにサッカーを教えてあげるつもりだったらしい。子供たちはとても喜んでくれて楽しく過ごしていたという。

 そんな折、ふてぶてしい態度の大男がガイガーさんの病院に入って行くが見えたそうだ。その男には3人の連れがいて、いずれも外見からして非常に柄の悪い連中だったそうだ。言わずもがなだがその大男は金髪の短髪だったという事で、間違いなく昨夜「みずいろ庵」でボコボコにされたジャンクスだろう。タナカさんは気になり子供たちを残してガイガーさんの元へ行った。そこにはガイガーさんに詰め寄り怒鳴り声をあげるジャンクスの姿があったそうだ。


 「いい加減、俺の顔を立ててくれねえかな先生よぉ!まだ、金が足りねえってのかよ!」


 それがタナカさんの聞いた第一声だった。ガイガーさんは「お金の問題ではないのです。患者も孤児院の子供たちも、ここの環境に慣れ親しんでいるのです。今更よそへ移る事など出来ないのですよ。」そんな内容の事を言っていたようだ。

 しばらく同様な内容の会話が交わされ、ジャンクスは最後に「もう実力行使しかねえな!」と捨て台詞を吐いて去って行ったそうだ。

 タナカさんを見つけたガイガーさんは、以前から病院と孤児院の土地を譲るようにとジャンクスから要望があるのだと言っていたという。


 僕は心の中で「偶然、偶然」とつぶやく。どうもジャンクスづいていて心が荒む。

 それにしてもジャンクスが地上げの様な事をしているのと、デルさんの言っていたジャンクスが「何か」を探し求めているという話はリンクすると考えていいのだろうか。これについて「偶然」と考えるのはあまりに無理があるのも事実だが。


 「なんだか気になっちゃってさぁ。あそこには子供達がたくさんいる訳だから、あんなチンピラみたいな連中が寄り付くだけでもよくないよね。」


 「タナカさん、じつは今クロエさんを狙っているジャンクスって男が、あなたが昨日見た金髪の男なんですよ。」


 「えっ!まじで、何?ソメヤ君、俺にあんなのと戦わせようとしてたの!」


 タナカさんはジャンクスを改めて思い出して「あれはヤバいでしょ」と言った。僕は実際のジャンクスを見て、確かにあれを見てビビッてしまうのは仕方がないと思った。正直、それによってタナカさんが「猫の手本舗」の警備を降りると言うのではないかと懸念した。

  

 「そんで、一つ提案があるんだけど。」


 タナカさんの発言に一瞬ため息が漏れそうになったが、彼は僕が思っている事とは全く別の内容を口にした。


 「今の状況を考えてみると『猫の手本舗』と『孤児院』の両方をあいつが狙っているって事だよね。実際、両方を警備するってのは難しいからさ、ジャンクス本人をマークしたらどうかと思うんだよね。もちろん俺だけじゃ厳しいから、例えばナガイ君と交代でとかさ。」


 僕は心からこの目の前の爽やかなイケメンに謝った。この人はどこかお人よしで、人に流されるところがあるが、とにかく優しいのだろう。あの純真な子供たちを本当に心からから慈しんでいるのがよく分かった。外見だけじゃなく、内面もまた間違いなく「イケメン」そのものだった。


 「そうですね、実は僕もそんな事を考え始めていました。ジャンクスの同行は正直気になりますからね。早速ナガイ君にも伝えてシフトを組みましょう。」


 ジャンクスの裏にはブラッシェド・バンブーがいて、さらに管理企業の「コウモクエンタープライズ」が絡んでいる。一連の問題が単純に「利益」の追求によるものならば解決はそう難しくはないのだろう。だが、僕は心の中で、徐々にそれ以外の何か悪魔的とでも言える、不穏な胸騒ぎが生まれているのを感じていた。



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