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第二章 30  ここにいる感じぃ~

 屋敷についた頃には夜もだいぶ更けて、通りにはほとんど人気もなく静まり返っていた。


 「ギンジさんとデルさんが軟禁されている場所って分かります?」


 「え、ええ。恐らくそれぞれ自室にだと思いますが……。」


 僕の問いにドメニさんは戸惑いながら答えた。僕は彼に簡単な見取り図を描いてもらい、彼らの大体の位置を把握した。さすがに横柄な僕でも正面から乗り込もうとは思わない。まずは2人とコンタクトを取れないかと試みるつもりでいた。

 まずはマジックミラーを装着して右目のダブルウインク。発動した物を透かす能力で建物内を透視した。別に望遠の機能がある訳ではないので完全にではないが、それでもそれらしき対象物を発見した。

 次に人気のないエリアに移動して庭の小石と、僕ら自身の位置をエレガント・チェンジし邸内へ潜入した。ドメニさんは驚きのあまり声を出しそうになったが、なんとか堪えたようだ。ただ、自分の所属の屋敷にこうも簡単に潜入された事にはかなり複雑な思いだったようだ。

 まずはデルさんの自室近くまで来たのだが、さすがに何名かの見張りらしき男達が立っていた。デルさんと接触を取るのにはいくつか方法があったのだが、シンプルにデルさんをこの場に連れてくるのが一番だと考え僕達から少し離れた場所に1ゴールドコインを置いた。マジックミラーで室内のデルさんを確認しつつ、コインと彼を入れ替えた。

 ベッドに腰かけていたデルさんは出現した瞬間尻もちをつき、いつもの落ち着き払った表情からは考えられないほど目を見開き僕を見ていた。僕はデルさんの出現前から口に人差し指を当てて「しーっ」のポーズを取っていた。さすがにデルさんは声を上げるような事はなかった。相当肝の据わっている人だ。


 「こ、これは一体……。」


 聞こえるギリギリの小声でデルさんは発した。僕の魔法による能力だと説明し納得してもらったが、やはりデルさんも完全に隠密裏に邸内に潜入して、すでに軟禁状態から自分をなんなく開放している僕に脅威を感じているようだった。


 「あ…、大丈夫ですよ…、こういう能力は人見て使いますから……はは。」


 「あっ、いや、申し訳ありません。顔にでておりましたか。あまりにもあっさりと私を解放して頂けたものですから……。噂通りの方ですね、あなたは。」


 一体どんな噂なのだろう。決して肯定的な感じがしないのは……、まぁ、日ごろの行いのせいか……。


 「しかし、せっかく開放して頂いたのですがこれでは……。」


 「ええ、デルさんにここへ来ていただいたのはあくまでも確認のためです。現状、デルさんとギンジさんの身に危険はありませんか?」


 このまま、デルさんとギンジさんを秘密裡に救ったところで、組織を救う事にはならない。根本的にはやはりジャンクスとブラッシェド・バンブーとの武力的な衝突は避けられないのかもしれない。今は2人の安否を確認する事、また内部穏健派とのコンタクトが重要であろう。


 「すぐにどうという事はないでしょう。恐らく我々穏健派勢力の力を徐々に削いでいく算段のようです。もう少し時間を経ればその全容も明らかになるでしょうが、今はまだこれ以上は何も。」


 ジャンクスたちにしても、このまま強行しても組織の弱体化につながるだけな事は重々承知しているようだ。いずれにしてもデルさんとギンジさんの身がすぐに危険に晒されることもない事を確認し、僕は再びデルさんを部屋へ戻した。

 結局その日はデルさんとのコンタクトのみで戻る事にしたのだが、僕達が通りに戻ると屋敷周辺で待機していてもらったツボミさん達が走り寄って来た。


 「タカキくん、どうなった?今から殴り込むのか?」


 心配している傍らで、どこか戦闘を期待している風なツボミさんは口元が緩んでいた。まったく、どうしてこんなかわいい顔して戦闘マニアなんだこの人は。


 「いや、今日はこのまま帰るよ。戦闘はなし。」


 ツボミさん以外が安堵の表情を浮かべる中、シノハラさんの鞄に入っているフクスケが鼻をヒクヒクさせながら僕を見ていた。同族の勘が働き、僕はもうひとつ用を思い出したと言ってみんなから離れた。いつもの事なので誰も何も聞かなかったが、フクスケが一緒について行きたいと言ってシノハラさんを驚かせた。僕は仕方がないなというポーズを取ってフクスケを肩に乗せ歩き始めた。シノハラさんが本当に不安げな表情を見せているのがかなり心外であった……。シノハラさんの中での僕とフクスケのヒエラルキーをひしひしと感じる……。

 みんなと完全に分かれ、しばらく歩いてから徐にフクスケに聞く。フクスケはまだ鼻をヒクヒクとさせていた。


 「で?何を見つけたの?」


 「有体に言えばセイラさんに知らせたくないモノというトコロでしょうか。」


 その言葉が意味しているのは一つだけだった。


 「まじで……。どこにいる感じ?……。」


 僕はキョロキョロと辺りを伺う。正直、僕は恐怖心しかなかった。一度会っただけの彼の力が圧倒的である事は火を見も明らかだったからだ。


 「ここにいる感じぃ~。」


 「どわぁぁぁぁ~~~~っ!」


 本気で死ぬかと思うほどビビった。ただでさえ恐怖しているところに、その恐怖の対象が僕をビビらせたのだ。これ以上の驚きはそうそうお目にかかれないのではないだろうか。

 言わずもがな僕の背後から声をかけてきたのはヴァンパイアのレベルだった。

 こちらの気も知らずにニコニコとほほ笑んでいる。こうして見るととても「危険なヴァンパイア」という印象は受けない。その姿こそいわゆる「ヴァンパイア的」ないでたちをしてはいたが(黒の礼服的な)その言動はおよそオドロオドロしさとは皆無で、20代後半くらいのどこにでもいる若者という印象だった。


 「あはははは、ごめん、ごめん、脅かせすぎた~。」


 レベルは右手を頭の後ろに回して、舌を出してからいたずら小僧のようにケラケラと笑った。

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