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第二章 27  最強で最速

 タナカさんのケガの状況は非常に良好で、当初の計画通り1週間ほどで退院となった。僕はタナカさんに用心棒の件を話すために当日彼を病院まで迎えに行った。病室で身支度を整えていたタナカさんの周りには5人の子供たちがいた。タナカさんの話では隣接する孤児院の子供たちが退院を見送りに来てくれたのだという。


 「散歩している時にみんなと仲良くなってね。俺、昔から子供には好かれるんだよね。だからってんじゃないけれど、じつは俺、教育学部で児童教育専攻してたんだよね。」


 子供たちはタナカさんにじゃれついて退院する事を喜びながらどこかで寂しがっているようだった。


 「お兄ちゃん、もう行っちゃうの?また異世界のお話聞かせてよ。」


 異世界の話。そうか、この世界からしたら、僕らが来た世界が異世界か。


 「うん、また必ず遊びに来るからさ。もう少し元気になったらサッカー教えてやるからな。」


 「サッカーって何ぃ?」


 「そっか、こっちにはサッカーないのかぁ。こりゃボールから探さないとな~。」


 タナカさんのそんな姿を見るに、この人は本当に優しい人なんだろうななんて事を感じた。そこへ子供たちの頭を優しくなでながら病院、そして孤児院の医院長でもあるガイガーさんが入室してきた。


 「タナカ君、いろいろ子供たちが悪かったね。ゆっくり休めなかったろう。」


 「いえいえ、みんなと話が出来て元気が出ましたよ。みんないい子達ですね。」


 「ははは、みんな、聞いたか?こりゃタナカのお兄ちゃんの期待に応えていい子でいないとな。」


 その空間はまるでよく出来たドラマのように感動的に暖かい空気が流れていた。正直自分の様な人間には場違いだと卑屈に感じてしまう。それほどそこは木漏れ日の中の様な輝きに満ちていた。僕はただの傍観者となってその光景を見つめ何故か少しだけ寂しく感じてしまった。そしてこんな場面ですら捻くれ者な自分に対してため息が漏れた。




 タナカさんは案の定というか、退院後の行き場所は決まっておらず僕はそのまま「猫の手本舗」の方へ歩く道すがらタナカさんに用心棒の話を振った。


 「つまり、そのなんとかって組織が攻めてくるから、俺にその猫又って子達を守れと……。」


 「そういう感じです。」


 タナカさんはしばらく考えてから「いいよ」と軽く言った。あまりにも安請け合いっぽくて不安になる。


 「あの……、タナカさん……。頼んでおいて何なんですが……、内容理解してもらってますよね……。」


 「うん?ああ、たぶんね。とりあえず、その子ねこちゃん達に会いに行こうよ。なはははは。」


 パーティーを抜けられた事に加えて、退院後どうするかも決まっていなかった不安が軽減された事が彼をある種安穏とさせていたのだろう。とりあえず、ビビッて断られるよりはマシなのでヨシとした。

 うかれるタナカさんを連れて「猫の手本舗」の店舗前まで来ると、僕は振り返り向かいの建物の2階の窓に目をやる。そこにはブスっとした顔のナガイ君がいた。僕が手を上げて合図すると、面白くなさげに彼も手を上げた。どうやらちゃんと見張りの仕事はしているようだ。

 そんな事をしていると店の中から猫又のひとりミネットさんが顔を出して僕達を店の中へ招き入れてくれた。背中に凄まじい坊主頭の視線を感じながら僕はタナカさんと共に入店していった。


 「じゃあ、この人があたしたちのボディガードをしてくれるという事どすか。」


 クロエさんはいつも通りののんびりとした口調で言った。ミネットさん、メルさん、リリーさん、アスタさんの、他の猫又達はタナカさんを見て一目で気に入ったようだった。そりゃ、イケメンだしね。と心の中でなんだかわだかまる。

 タナカさんはと言えば、さすがに散々モテてきただろうと思わせる余裕が全身に溢れている。女の子達の視線にさらさせるのなんて彼的には何てことない事なのだろう。エロ坊主とは全く対極にいる人だ。


 「でも、失礼だけどあんまり強そうじゃないね。かっこいいけど❤」


 ミネットさんがいわゆる猫が顔を洗うようなかわいい仕草で言った。他の猫又達もキャッキャッと言いながら同意した。クロエさんが苦笑しながらそれを諫めた。だが、同じ疑問をおばさんも抱いたようで、


 「ソメヤさん、確かにこの子達の疑問は正しいよ。それこそその人に迷惑がかかってしまうよ。相手はあのいかれたジャンクスだからね。」


 「そこはこちらでもしっかりとした算段がありますから、心配なさらないでください。タナカさん一人にすべてを任せるつもりもありませんから。」


 僕の言葉を聞いて猫又達はある程度信用してくれたようだが、事もあろうに肝心のタナカさんがまた余計な発言をした。


 「でもな~、ソメヤ君の算段、信用できないんだよな~。この間ほら、俺ボッコボコのメッタメタだったもんな、なははははっ!」


 などと、改めてみんなを不安にさせた。僕はナガイ君がしっかりと見張りをしている事、彼がああ見えて非常に優秀な剣士である事を改めて説明し、なんとかその場を収めた。何度も言うが絶対にタナカさんもミシマさんの豪剣「馬鹿力」を持ち上げる事が出来るハズだ。


 最後にミネットさんとアスタさんがこんな会話をしていた。


 「で、その肝心なナガイ君は本当に強いのかなぁ~。」


 「うん、私の時はね、すごい強いけれど、すごい素早いって感じだったよ。数回を数分みたいな。えへ。」


 アスタさんの隠語的な言葉に猫又達はゲラゲラと笑い出した。武士の情けだ、この話は聞かなかった事にしよう。


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