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第二章 25  ゲルフ・バンブー

 僕とナガイ君は猫の手本舗に戻り、ゲルフ・バンブーでの顛末を店のみんなに語った。猫又達は手ぶらで帰ってきた僕達にあからさまにがっかりしていたが、話の内容を聞いたおばさんは「それならば安心かもしれないね。」と安堵の表情を浮かべた。それを見た猫又達も落ち着きを取り戻していった。


 「そのギンジっていう人は『任侠のギンジ』と言って仁義を重んじる人間だって有名な話だよ。にしても、今はそんな組織の頭をやっているとはねぇ。」


 おばさんの残念そうな言葉の後、しばらく店内では、それでも当然の事としてクロエさんを心配し沈黙が続いた。時折、「close」の札が出ているにも関わらず、扉を開ける冒険者たちがいたが、事情を説明の上丁重にお帰り頂いた。僕達が戻って来てから2時間ほどが経ち、再び扉が開かれた。対応した猫又のリリーさんはお客さんだと思い説明を始めたが、来店した男はすぐにそれを制して店内に入ってきた。


 「失礼いたします。私はゲルフ・バンブーのデル・フィースクライトと申します。我が主人ギンジ・デカロの命によりクロエ様をお連れ致しました。」


 ゲルフ・バンブーの屋敷であった若者はそう言うと、深々と礼をしてから入り口を見やった。徐に扉の向こうからクロエさんが少し疲れたような笑顔で姿を現した。


 「クロエさん!」


 猫又達が泣きながらクロエさんに飛びついていく。子猫同士がじゃれあうようなその光景は、とても「夢魔」などと言われているモンスターの一種族である事を忘れさせるほのぼのとした光景だった。クロエさんはおばさんと仲間達に心配かけた事を謝ると、僕とナガイ君に感謝の言葉を口にした。


 「ほんまにおおきに。あんた達がいなかったら今頃どうなっとったか……、ほんまに…。」


 クロエさんは薄っすらと涙をためて、言葉を詰まらせた。おばさんはクロエさんに休むように促してから、他の猫又の子達には「さぁ、店を開けるよ、みんな頑張っておくれ!」と息巻いた。猫又達は「え~」と言いつつも店の状況を知ってか、キビキビと動きながら開店の準備に取り掛かった。

 

 「ナガイ君……、君はなぜ、すでにお客さんモードに入っているんだ。」


 ホールですっかりくつろいでいるナガイ君を連れて僕は店を後にしようとした。その時僕の正面で頭を下げていたのはゲルフ・バンブーのデル・フィースクライトであった。


 「少しお時間を頂けないでしょうか?ソメヤ様にお伝えしたい件がございます。」


 ポーカーフェイスの彼の顔からはどんな系統の話かさえも検討がつかなかったが、僕もゲルフ・バンブーという組織については情報を得たかったので快諾したのだった。話は機密性を含むとの事で、僕達の家に彼を招いてという事になった。ツボミさんを始め女性達はバンブーの名を聞くとひどく警戒した。「猫の手本舗」の内容を詳しく彼女達に話すわけにもいかず、曖昧な返事をしながら僕は一人でデルさんの話を聞く事にした。


 「つまり……、まだこの件は終了ではないと?」


 「ええ、ジャンクスさんはこんな事で引き下がるような方ではございません。」


 デルさんの話では今回は組織の長であるギンジさんの顔を立ててクロエさんを解放したようだが、今後再び同様の行動に出る事は確実だろうとの話だった。そしてギンジさんの力をもってしてもそれを完全に防ぐ事は出来ないという。


 「実は気になっている事があるのですが……。」


 僕はあからさまに言いにくい事を聞きますよといいうポーズを取った。デルさんは表情一つ変えずに「どうぞ」と僕の言葉を促した。


 「ギンジさんと実際にお会いした印象と、いくつかの噂を聞くに、仁義に厚く道理をわきまえた人格者なのだと僕は感じています。」


 デルさんは静かに頷く。


 「なのに、なぜそのジャンクスというような……、失礼を承知で言えば❝輩❞を組織のナンバーツーにしているのですか?そもそも、今回の件も分不相応な権力を持った人間の暴走のように見えてしまいますが……。」


 デルさんの頬がわずかに動く。さすがに深入りしすぎかと思ったが、彼はまさに本質はそこにあると話し始めた。


 「元々ゲルフ・バンブーはギンジ様の兄上が創設した組織でした。創設当時はゲルフ・バンブーとは名乗っておりませんでした。つまりバンブーの一組織ですらなかったのです。ですが弱小であった当組織は同種の組織からの圧力で風前の灯でした。そこでギンジ様の兄上が頼ったのがバンブーへの加盟でした。バンブーの悪名はもろ刃の剣でした。外敵への脅しとはなりましたが、ゲルフ・バンブーはギンジ様が忌み嫌う市民への暴力も容認されるような組織へと変貌を遂げました。そんな状態が何年か続いた後、次のリーダーとしてギンジ様を指名しギンジ様の兄上が急逝致しました。そしてもう一つ今際の際にギンジ様が託されたのがギンジ様の兄上の遺児であるジャンクスさんだったのです。」


 「つまり、ジャンクスはギンジさんの甥……。実際今のゲルフ・バンブーはいわゆる世間のイメージのままのバンブーの組織なんですか?」


 デルさんは少しだけ微笑み首を横に振った。


 「ギンジ様の通り名の通り、かたぎを巻き込まないというのが現組織の理です。ですが、それをよく思わず、かつての様な傍若無人な振る舞いを是とする勢力もいる事は確かです。」


 「それがジャンクス率いる……ってとこですか。」


 「今、ギンジ様も危うい状態におります。お話というのはクロエ様の事を含めてあなたのお力をお借りしたいという内容です。」


 デルさんは初めて感情的な表情で僕に言った。その表情はどこか愁いを纏っていたように思えた。


 「僕に依頼するって事は、始まりの街の話を……。」


 「ええ、私はあそことの転送ゲートをくぐれますので。あなたの事を教えてくれたのはシモンズさんなのです。」


 「えっ!シモンズさんの知り合いなんですか?」


 「ギンジ様は正式なメンバーではありませんでしたが、カイカ・オーキッド様のサポートメンバーとして共に戦われた事があると聞いております。」


 なんと、随分今回の事にもズブズブに足を突っ込まざるを得ない展開になってきた。僕はそう観念してもうひとつデルさんに尋ねた。


 「この僕への依頼はギンジさんはご存知なんですか?」


 「いえ、私の一存でございます。」


 「ですよね。どうもそういうタイプじゃないですもんね。……、分かりました、デルさんにご迷惑が掛からないよう隠密で行動しますよ。」


 「お聞きしていた通りのご聡明な方で助かります。」


 こうして僕は、いや、僕達はゲルフ・バンブーの内部抗争へと巻き込まれていくのであった。

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