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第二章 24  屋敷にて

 その建物の威圧感は半端なかった。仰々しい門構えは武家屋敷のようにも見え、およそこの異世界の街並みとそぐわない佇まいを留めていた。正直スラムに巣くうチンピラ程度の連中を想像していたのだが、それとはかなり様子が異なるようだった。

 僕達が呆然と立ち尽くしていると、屋敷の周りを掃除していたこの組織の一員と思われる若い男と目が合った。外見はかなり(いか)つく、いかにもな様相をしているのだが僕達の存在を認めると礼儀正しく挨拶をしてから、屋敷に用かと聞いてくれた。僕はこの人物にあからさまな悪意を見いだす事が出来ずに、素直にここへ来た内容をその男に告げた。男は「ジャンクス」という名を聞くと一瞬表情を変えたが、すぐに平静を保って上の者に用件を伝えて来ると言って屋敷に入って行った。


 「ソメヤさん……、あんなの信用していいんですか……?今、中で僕達を血祭りにでもする算段を立てているんじゃないでしょうか……。に、逃げます………か?」


 先ほどの「まっかせて下さい!僕は天才剣士ナガイ・ヤスユキです!」の(くだり)はあ一体なんだったんだ……。


 「今の人からは悪意は感じなかったけれどね……、とにかく少しだけ待ってみよう。やばければグレイト・エスケープで離脱するからさ……って何してんの?」


 ナガイ君は離脱の準備か既に僕にしがみついていた。僕がエロ坊主を引きはがしにかかっていると、先ほどの若者が現れて、主人が僕達に会うと言っているという事で屋敷内に案内された。相変わらずエロ坊主は僕の服の裾をしっかりと掴んで離さない。そんなに信頼されていないのかと彼に小声で、


 「僕が君を置き去りにしたりする訳ないだろう。」と言うと


 「何度もあるじゃないですか、むしろ進んで危ない場所に送り込んだり!」


 という答えが返って来て、思い当たりがあり過ぎたので裾を掴むのか勘弁してやった。


 中に入ると外観と同様にやはり和風の屋敷となっており、中庭も趣のある日本庭園のような造りとなっていた。池の水の音が心地よく、どこか凛とした空気が漂った清浄な空間だと感じた。僕は改めて前を歩く若者に聞いた。


 「あの…、ここってゲルフ・バンブーのお屋敷で間違いないんですよね。」


 若者は静かに「そうです」とだけ告げ、長い廊下をさらに歩いて奥へと僕達を誘った。しばらく行くと、縁側に腰を下ろしお茶を啜っている着物姿の壮年の男が目に入った。そのひとつひとつの落ち着き払った所作を見て、この人がこの屋敷の主であろう事はすぐに理解出来た。若者が一礼して奥へと下がると、男は僕達に近くにより、座るように促した。普通の急須で、ごくありふれた茶筒から出した茶葉で男は僕達にお茶を入れてくれた。普通である筈のそのお茶はとても懐かしく、すばらしくうまいお茶だった。


 「お前さん達の話じゃ、ウチのジャンクスが猫又の女を無理矢理拉致したとか……?」


 よく響く低音の声の重量感が凄まじく、男の持つ様々な力の強大さを如実に表すひとつのツールとなっていた。まずい事にナガイ君のエロパワーもその重圧の押しつぶされ、風前の灯のように感じられている。


 「は、はい。詳しくは僕も説明出来ないのですが、『猫の手本舗』という店の借金の形に……、という名目のようです……。」


 男は再びお茶をズズズとすすり、少し思案した後、僕を見た。


 「で、お前さんはその猫又の女とどんな関係なんだ?こんなところまで出張ってくるたぁ、恋人か?」


 「……そう言われると…、正直一度話した事があるってだけで……。」


 男は訝し気に目を細めると「ふん、随分酔狂な事だな。」と鼻を鳴らした。


 「だが、行動には動機づけが必要だろうよ、よくも知らない女のために、こんな場所までくるその『動機』はなんだ?」


 男の質問に僕は戸惑った。正直偽善心を満足させるためなんていうのは半分冗談だ。そう、僕はなぜこんなところまで来てしまったのだろう。


 「知ってしまった……。からですかね。一度話しただけでも、知っている人間が(さら)われたと聞いて、ついこんな所……、あっ、失礼しました。ここへ来てしまったってだけですかね。あと、付け加えるなら、さらわれたクロエさんはとてもキレイな人なので……、いや、それが最大の行動原理なんですかね?」


 「ふん、俺がそんな事知るか。」


 そうは言ったものの、男は口元を緩めてくれた。


 「で、そんなにその子は綺麗なのか?」


 「ええ、あれぞパーフェクトボディでしょうね。」


 「はははは、そうだな男の行動原理なんざ、ほとんど邪なものだ。いいだろうお前の話は信用してやる。」


 そう言うと男は先ほどの若者を呼び、簡潔にいくつかの指示をした。その中でジャンクスという男にクロエさんを解放するようにという内容が確認出来た。どうやらこの男の統べるゲルフ・バンブーという組織はただのゴロツキの集まりという訳ではないようだ。


 「その女の件はこっちで対応しよう。どうだ?俺を信じちゃくれねえか?」


 僕はその男によろしくお願いしますと告げただけで、この件についてはもはや口出しする事はなかった。それほどこの男の言葉には威厳と誠実さがあった。これで裏切られるようならば、世の中は本当に救えない。最後までお茶をいただき僕達は御暇(おいとま)する事にした。


 「あの、もし差支えなければあなたのお名前をお聞きしてよろしいですか?」


 「俺か?俺はギンジと言う者だ。して、お前は?」


 「すみません、先に名乗らずに。僕はソメヤと言います。そして彼はナガイです。今日は急な訪問に真摯にご対応いただきありがとうございました。」


 「……、ほう、お前がソメヤか……。噂には聞いているぞ。」


 その言葉にナガイ君は緊張し、無意識に木刀を握る手に力が入る。僕はすぐに彼を落ち着かせた。


 「やはり、バンブーの名を冠している方々には僕は疎まれているのでしょうか?」


 「そうだろうな。だが、俺は少し異端でな、お前の英雄譚は楽しく聞かせてもらった。まさか、こんな形で出会う事があるとはな。また、気が向いたらここへ来るがいい、酒でも飲みながらお前達の武勇伝を聞かせてくれ。」


 ギンジさんは顔を「くしゃ」っとさせて笑った。その笑みはとても魅力的で気持ちのいいものだった。僕は素直にそんな機会が訪れるといいなと感じた。


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