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第二章 21  みずびたし

 「タナカ~、なんだそのデカい櫛は?ぎゃはははは!」


 唯一、下卑た馬鹿笑いではなく、嘲笑を浮かべたのはリーダーの男だった。


 「ば~か、お前らソードブレーカーも知らねえのか。ありゃ、剣を折るための櫛刃だぜ。タナカ~、お前面白いもん持ってんじゃねえか。」


 僕は空気を読まないだけだが、タナカさんは天然で空気が読めないようだ。


 「あ、うん、友達がくれたんだ。リーダー、辞めない?今ならその剣折らずに済むしさ……。」


 ピキっ。音にならないはずのリーダーの血管が切れる音がした気が……。もう少しうまく立ち回れんか。と肩を落としていると「タカキ君並みの人の食い方だな彼も」、とツボミさんがボソッと言った。人のフリ見て的な感覚を感じつつも、もうこれ以上落ち切った肩は落ちない。


 唐突にリーダーの男が怒りに任せて本気でタナカさんに斬りかかった。正直シャレにならない斬りかかり方だった。だが、当然タナカさんの「お払い箱」はその凄まじいまでの攻撃をあっさりとその刀身の隙間で受け、ほんの微細な角度の傾きだけで、リーダーの剣を真っ二つにしてしまった。

 リーダーの男を始め周りの男達は状況がすぐに理解できないようだったが、徐に一人の男が剣を抜くと触発されたように他の男達も次々と抜刀していった。だが「お払い箱」の前ではそれは無益な行為だった。男達は次々とタナカさんに斬りかかったが、次々とその剣を折られていった。それはまるでベルトコンベアーの上の作業のように淡々と、規則正しく行われた。

 勝負は予想以上にあっけなく決着した。ソードブレイカー「お払い箱」の前ではどんな武器も、まさに「お払い箱」と化してしまうのだ。


 「やった!やりましたね、タナカさん、これで自由になれますね!」


 「うむ、あのソードブレイカーは確かにすごい力を秘めているなぁ!見事なものだ。」


 ナガイ君、ツボミさんの反応に僕は悦に浸る。計画通りだ。さて、あとは僕が渡したお金で借金を返せば終了だ。さすがにこれだけ見事に武器を破壊されては抗う術は素手しかない。だが、まさか武器を持った相手に素手で反撃だなんて……。


 「ん?素手?」


 僕がハッとした時にはもう既に遅かった。リーダーの男の右ストレートがタナカさんの顔面を捉え、その拳が顔面にめり込んだかのようにも見えた。タナカさんは綺麗な放物線を描いてそのまま石畳に沈んだ。ぎりぎりの所で、リーダーの鞄を汚した犬のフンは回避できたようだ。


 「そうか!『お払い箱』は武器にしか有効じゃないんだった!」


 「えっ!そうなんですか!やばいじゃないですか!」


 「確かにな、本来ソードブレイカーは盾ようなものだ。通常、ソードブレイカーの使用者は別に武器を持つものだ。」


 ツボミさんがそりゃそうだ的なうんちくを言うのと同時に、僕達はタナカさんに向かってダッシュした。すでに意識を失っているであろうタナカさんに対して、男達は容赦なく蹴りを入れている。


 「大切な剣を折りやがって!ぶっ殺してやるっ!」


 なんて物騒な事を口しているメンバーもいた。「ちょっと待った!」の掛け声とともに、僕達は男達の前に出張る。が、ガン無視して男達は尚もタナカさんをメタメタにしている。僕は彼らの頭上に1ゴールドコインを放り投げる。そしてそのコインと、文字通り彼らの頭を冷やすためにカオスポケッツに貯蔵してあった大量の水をエレガントチェンジで入れ替えた。およそ600リットルの水が彼らを水浸しにした。量にして風呂おけ3杯分と言ったところか。

 大量の水は頭を冷やすというよりも、かなりの凶器となって彼らを直撃したようで、一様にみな水の打撃に悶絶を始めた。つまりそこに横たわっていたタナカさんにも……。

 僕達3人は僕のスキル、パーフェクトプロテクトで水しぶきすらかかっていない。一日一回限定の絶対防御をこんな事に使ってしまったが、どうしても濡れるのは遠慮したかった。

 ようやく男達は僕達の存在を認め、ボロボロ、ビショビショのタナカさんから離れこちらに怒気を向けた。


 「お前らタナカの知り合いか?こんな事をしてどうなるかわかってんだろうな。」


 テンプレの脅しなのだが、このリーダーの男は本当に顔が怖い。


 「初対面の相手の思考が分かると思うほど傲慢じゃあないですよ。どうなるんです?」


 「またぁ!ソメヤさんはどうしてそういう態度とるんです!あっ、分かりますよ僕、痛い感じになるって意味ですよね。」


 ツボミさんの陰からナガイ君がヘタレな発言をした。そんな彼を白い目で見ながらツボミさんは僕の隣まで歩み出て、剣を抜き放ち男達と対峙した。怯んだ男の一人が素手の相手に剣を抜くとはなんと卑怯な奴らかと怒声を上げた。


 「素手相手に武器を使用する。確かに社会通念上、その行為は『卑怯』と呼称して間違いないとは思います。そうですね、僕達は卑怯者かもしれませんね。ですが、1人の人間に対して7名で襲い掛かるのもまた卑怯と呼んで差支えのない行為ですよね。ならば、卑怯者に対して卑怯な手段を持って対するのになんの引け目を感じる必要があるんでしょう。」


 歯ぎしりをするリーダーの男はタナカさんを一瞬視界に入れた。今度は人質作戦でも取ろうというのだろうか。僕はナガイ君に笑いかける。何かしらを察したナガイ君は凄まじい勢いで首を横に振る。僕も優しく微笑みながら首を横に振って


 「エレガント・チェンジ」


 と囁くように言い、ナガイ君とタナカさんの位置を交換する。タナカさんを人質にしようと殺到した男達をナガイ君は神業で避けていく。機敏なステップで彼らを交わしながらいつも通り僕に「悪魔~!」と泣き言を言った。なんだ、まだ余裕がありそうだなと僕は心から安心した。


 「なっ…なんなんだお前らは……。」


 「ただのタナカさんの知り合いですよ。」


 「ぬぁぁああああああっ!」


 やけくそになったのかリーダーの男は僕とツボミさんに殴りかかってきた。が、ツボミさんの峰打ちが男の胴を一閃した。その体の動きを見てもあからさまに実力差は歴然としていた。それでも男は苦悶の表情で再度迫ってきた。このタフさにはツボミさんも感心していた。

 僕はふらつく男にスタン・ハリセンを取り出し力任せに頭を(はた)いた。リーダーは尚、恨み言口にしているようだったが、マヒした体ではうまく発声することもままならず聞きとる事は出来なかった。どうせ大した内容ではないので無視していいだろう。


 ナガイ君と戯れていた他の男達は、どうやっても殴りつけられない坊主の男に腹を立てながらゼイゼイと肩で息をしていた。だが、リーダーの状態を察知すると条件反射的に僕とツボミさんに向かって襲い掛かってきた。いちいち相手するのも面倒だったのでスタン・ハリセンで地面を叩く。ハリセンから発生した電撃は先ほどの水で濡れた路面を伝い彼らを直撃し、リーダー同様にマヒ状態に至らしめた。


 「あっ、タカキ君……。」


 「あっ……。ナガイ君、さすがに電気は避けられないのか……。」


 もろともナガイ君をマヒさせてしまった事は愛嬌として。僕はすぐにタナカさんの様子を見に行った。このような事態は想定外だったのでシノハラさんを連れてこなかった事が悔やまれる。タナカさんはなんとか意識を取り戻していたようだったが、見るも無残な姿で僕にこう言った。


 「み……、水が一番辛かった……。」と………。

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