第二章 15 お払い箱
店に隣接する空き地から、先日まであったテントが撤去されていた。僕はすぐに店内に入りジャンクコーナーについて店員に尋ねた。店員の話ではあの特設コーナーは、期間的なもので常設はされていないそうだ。系列の店舗を周期的に巡回しているのだそうだ。
現在設置されている店舗を聞いて僕達はすぐにその場所へと向かった。僕は気が焦っていたのだろう、その店舗の場所を聞いたツボミさんが不快感を表していた事にすぐに気が付くことが出来なかったのだ。
店舗のある場所は『タモンカンパニー』に隣接している場所だったのだ。ツボミさんが店舗に近づくに連れて不機嫌そうになっていくのに気が付いた僕は、ようやくその事を認識して、ここからは一人で行く事を提案したが彼女は首を縦には降らなかった。
よく見ればこの辺り一帯の店舗の看板には「タモングループ」という名称が記載されていた。つまり現在僕達はツボミさんが忌み嫌う、あのナルコス・ヴァーデンバーグに関連する店舗、もしくは地域に囲まれてしまったと言っても過言ではないだろう。
ナルコス・ヴァーデンバーグ。
どうも僕自身は未だニアミスしかしていない人物ではあるが、この街の攻略においてキーになる人物のひとりとなるであろう事を感覚的に感じていた。だが、特設のテントに入った後、そんな感覚がシラケそうな状況で、僕は彼との初めての遭遇が導かれたのであった。
「ツボミさん……!あった、このアイテムベロ出しマークがあったよ!」
僕は興奮気味に言った。気分の沈んでいたツボミさんではあるが、それを聞いて笑顔で頷いてくれた。
ジャンクコーナーで僕達が手にしたアイテムは一見したらガラクタのようにも見えた。僕が初見で見過ごしてしまった理由の一つだ。その剣は短剣に分類され刀身部分に櫛状の峰を持っていた。僕は刀身の欠損だと勝手に判断してしまっていたのだ。このアイテムはソードブレイカーと呼ばれる武器で、峰の凹凸にかませて相手の剣を折る防御を主体としたアイテムだった。
ちなみにカタログの説明文はこの通りだ。
妖刀 お払い箱/いわゆるソードブレイカー、相手の武器を無効化する。
(モンスターならば、牙、爪などを粉砕する)使用者が人から裏切られたりした経験 があると、より「お払い箱」の共振性を得て強大な力を発揮できる。
敵対する相手にはとにかく嫌われる。間違っても仲間に対しては使用しない事。
パーティーをそれこそ「お払い箱」にw
ちなみに刀と言いつつ敵を斬る事は出来ない。
敵を無力化したら別の武器で倒してね。
「お払い箱」というネーミングもタナカさんの境遇にみごとにマッチしてる。ナガイくんや、ミシマさんの事例のようにアイテムのシンパシーがタナカさんにきっと力を貸してくれるだろう。
なんて事は口が裂けてもタナカさんには言えないが、このアイテムの発見は大きな光明と言えるだろう。
「よし、ツボミさんコレ買ってすぐに帰ろう。」
「うん、早くこんな場所からは離れたいからな。」
なんて事を言って笑っていた僕達に声をかけてきたのが例の男だったのだ。
「あ~、やっぱりツボミか~。さっき店に入るの見て、もしやと思ったんだよ~。買い物?ここ僕のパパの店なんだよ。どう?なにかいいモノあった?」
ナルコス・ヴァーデンバーグという男は聞いていた通り、その人を食ったような口調が心をざわつかせる印象を持たせる人物だった。(これは事前情報のせいとも言えるかもしれないが)僕は横目でツボミさんの様子を伺った。本当に嫌いなのだろう、息遣いが荒くなっている。これはほとんどアレルギー反応に近い。
「ん~、その隣の子は?彼氏?」
「なっ!」
ツボミさんは思わず反応してしまいナコルスは笑いながら、赤面するツボミさんを「かわいいな~」と揶揄した。これ以上のやり取りはツボミさんの精神衛生上害しかないので、僕は早々に立ち去る努力を始めた。
「僕はツボミさんのパーティーのメンバーですよ。今日はこの剣だけ頂いて行きますので失礼します。」
そう言いながらツボミさんを促して会計を済まそうとした。するとナルコスは再びニタリ顔で口を開いた。
「僕とツボミの仲だ、お代なんていらないよ、他にも欲しい物があれば自由に持っていけばいいよ。ねぇ。」
と言って会計係の店員にも同意を求めた。会計係はへつらいながら「ええ」とだけ言った。
「いえ、そういう訳には、僕達とあなたはなんのゆかりもありませんから。」
そう言って僕は会計係に値段を尋ねた。ナルコスは後ろから
「確か、1億ゴールド。だっけ?そのガラクタ。」
「きっ、きさまっ!」
ツボミさんが声を荒げた。するとナルコスはカラカラと乾いた笑い声をあげてツボミさんを見据えた。
「冗談だよ、ツボミ。君があまんまり冷たいから、からかっただけじゃないか。ジャンク品は一律1,000ゴールドだよ。」
そう言ってテントを出ていくナルコスは最後に僕を見て、不敵な笑みを浮かべた。恐らく僕達にだけ分かるアイコンタクトだっだろう。それは今出会った瞬間から明確にお互いを「敵」として認識した。そんな共通の認識だった。
「同族嫌悪」
僕とナコルスの間にはその言葉がしっくり来る。だが、それは僕とフクスケの間にあるものとは明らかに違う。僕とフクスケの類似点が同じ方向を向いているとしたら、ナコルスのそれは確実に別の方向へ向かうものだあろう。同じような思考を持ちつつもその目的は全く異なるという矛盾した存在。それが僕達をお互いイラつかせたのだろうか。そう考えれば「同族嫌悪」などという言葉で形容するのは甘いのかもしれない。
「同族憎悪」もしくは「同族厭悪」と言い換えるべきなのかもしれない。そんな事を思いながら、僕は改めてナルコス・ヴァーデンバーグという男を嫌いになったのであった。




