第二章 14 アイテム探しとツボミさん
僕はそれから数日、何件かの店舗を回ったがベロ出しマークのアイテムにたどり着くことは出来なかった。そもそもこの街に、それがあるのかどうかも分からない中での作業だっただけに、非常に苦痛を伴う時間を過ごしていた。
そんな中、僕はツボミさんを伴ってタナカさんに会いに行く事にした。タナカさんというよりはタナカさんのパーティーの面々にと言ったところだろうか。彼の現在の状況を正しく把握しておきたいというのが本音だった。ツボミさんを同行させたのは単純にボディガードとしてだ。現状ナガイ君はエロ覚醒の源泉がないのでほとんど役に立たないと言っていいだろう。という事でツボミさんなのだ。
「どうしたの?なんだか機嫌良さそうだね。」
いつになく満面の笑顔でツボミさんは隣を歩いていた。その歩く姿だけでも彼女の内面の明るさが伝わって来てこちらまで楽しい気分にしてくれる。
「それはそうだろう、久しぶりにタカキ君とのお出かけだからな。昨日から眠れないくらいだったよ。」
「あっ……、いや、そう言ってもらえるのはうれしいのだけれどね……、ツボミさん今日どこへ何しに行くのか理解している?」
「いや、全然。で、どこへ行くのだ?お買い物?」
そうだった、そうだった、こういう人だった。とても改めてボディガードとしてついて来てもらったとは言えない。
「今日はこの間ウチに来たタナカさんに会いに行くんだよ。もしかしたら嫌な思いもするかもしれないからね。そこだけは理解しておいてね。」
僕の言葉に笑顔で頷くツボミさんの足取りはさらに軽くなる。僕の話、全く理解していないのだろう。
タナカさんのパーティーは「ゾウチョーエンジニアリング」が所有している寮に住んでいた。冒険者達にとって居住場所は常に心配しなくてはならない問題だけに、この寮という制度は非常に需要が高いそうだ。活動フィールドから、活動時間、さらには住む場所まで管理されているようで、僕的にはありえないのだが客観的には合理的とも言える。
「なんとも簡素で寂しい外観の建物だな。」
無邪気なツボミさんは周りに住人らしき人がいるにも関わらず本音を口にした。
「い、いや、シンプルなデザインで僕は好きだけどなぁ……。」
などと、どうでもいいフォローをしながら、僕はツボミさんの手を引いて寮の向かいにあったカフェへ入って行った。
「なかなか強引だなタカキ君。まぁ、そういうのも嫌いではないがな……。」
「何を言ってんです、空気を読まないと周りの人に怪しまれるじゃないですか。」
キョトンとした表情でツボミさんは
「常日ごろ空気など読まないと言っているのはタカキくんじゃあないか。」
「うっ………。」
うっかり墓穴を掘ってしまった。僕はこの不毛な会話を早々に切り上げて、カウンターでカフェオレを注文した。ちなみにツボミさんはミルクティーだ。そのままオープンテラスに座って再び簡素で寂しい外観の寮を眺め始めた。つまり、ここでタナカさん達が出てくるのを待つつもりでいた。
「まったくタカキ君はよく分からんな。何を慌てたり、怒ったりしているのだ。」
「いえ、僕が悪かったです……。これからは少しは空気を読もうかと思い始めていますよ……。」
「時にタナカさんに合いそうな武器はどうなのだ?なかなか難航しているようだけれど。」
「うん……、正直時間がかかるかもしれないね。そもそも存在するかどうかも分からないモノを探そうとしている訳だからね。」
僕はおもむろにカオスポケッツから「ベロ出しシリーズ」のカタログ兼アイテムの取説を取り出してページをめくる。いくつかタナカさんにマッチしそうなアイテムに目星をつけてはいた。
「例えば、これなんかいいんじゃないかと思っているんだけどね。」
僕はそう言ってツボミさんにカタログを見せて指をさした。そこに記載されているアイテムは
●アイテム名/青二才
・青い刀身の美しいレイピア。恐ろしくしなやかなその剣の素材は青竹。
・使用できる者の条件/とにかく未熟な者
剣の技術はもちろん、人間的にも未熟な者が望ましい。
もし、この剣を軽やかに使用している者がいれば人間的には最悪と考えていい。
「……、タカキ君、君は遠回しにタナカさんをディスっているのか……?」
「うっ……、そう言われると返す言葉も……。」
「しかし、なかなか面白いアイテムばかりだね。本気なのか冗談なのか分からないなぁ。」
ツボミさんは内容を見ながらゲラゲラと笑い出した。そんなアイテムばかりを所有している僕は、正直自分を笑われているようで、いたたまれずツボミさんから視線を外して寮の方を見やった。
ちょうど何名かの冒険者たちがエントランスから出てきたのだが、その中にタナカさんの姿を認めた。タナカさんは男達の荷物を持たされているようでフラフラと最後に出てきた。そんなタナカさんを先頭の男が怒鳴り付けている。それを聞いてタナカさんの隣にいた男がタナカさんの頭を小突く。タナカさんは悔しそうな表情を見せたが何も言わなかった。
「おっ、タナカさんじゃないか?なんだ、ひどい扱いじゃあないか。」
それに気が付いてツボミさんが勢いよく席を立った。今にも走り寄って行きそうな表情だった。僕は慌ててツボミさんを落ち着かせる。
「どうしてだタカキ君。ここまで来て何もしないのか?」
「今はまだ……。タナカさんの中にどうにかしたいという思いが生まれない限り手は出せないよ。」
今日ここへ来て、タナカさんのパーティーの人達と言葉を交わそうと考えていたが、どう贔屓目に見ても話が通じるタイプの人達ではなさそうだった。声をかけるにしても予めしっかりと地盤固めをして置く必要があるだろう。でなければ話した後のタナカさんが何をされるか分かったものではない。
「今日はこのまま帰ろう。」
僕の意を汲んでくれたものの、ツボミさんはもちろん納得がいくわけもなく頬を膨らませて再びカタログを見ていた。どうやら気分を紛らわせたいようだ。
「まぁ、そんなに怒らないでよ、少し時間がかかるけどなんとかするからさ。確かにああいう人種が一番嫌いだもんね、ツボミさんは。」
「ああ、あんな奴らが冒険者を名乗るなんて許せん!出来るならこうしてやりたいものだ!」
と言ってツボミさんはカタログの一アイテムを指さした。
「ああ、本当にそうだね………。」
僕はそのカタログに描かれたアイテムの形状を見て、心の中で唸りを上げた。そしてすぐにツボミさんの手を引いて駆け出す。そのアイテムの形に心当たりがあったからだ。それほど、どこでも見かけるようなものではないその武器は「異様」というのにふさわしい形をしていた。
そしてそのアイテムの名前、ツボミさんがタナカさんパーティーの面々をこうしてやりと言った言葉、それは「お払い箱」と言った。
「お、おい、タカキ君今度はなんなんだ!今日は随分強引だぞ……、まぁ…嫌いじゃないけどな(ぼぞっ)」
「もしかしたらさ、タナカさんにためのアイテムが見つかったかもしれないんだ。とにかく急ごう、売れちゃうような事はまずないけど、本当にそのカタログのアイテムなのか確かめたいんだよ。」
僕はツボミさんの手を引いたまま、先日訪れたリサイクルショップに向かった。店の外に設置されたジャンク品コーナーにその目当ての物があるはずだった。
「………。」
呆然と立ち尽くす僕にツボミさんが声をかける。
「タカキ君……、どうしたのだ……?この空き地に何かあるのか?」




