第二章 12 アイテム探しとヴァンパイアハンター
「で、どうするんだいタカキ君。」
タナカさんの帰宅後、僕達は居間でしばしくつろいでいたのだが、まず口を開いたのはツボミさんだった。
「え?どうするって?」
「彼の境遇を聞いた以上、このまま放って置くような君じゃないだろう?」
「そりゃ、買い被りですよ。僕はそんなに勤勉じゃあないですよ。」
「と、言っているが?シノハラちゃん?」
ツボミさんはシノハラさんに話を振る。僕の隣でソファに座るシノハラさんは事の発端だけに少し申し訳なさそうだ。
「ごめんなさいソメヤさん。勝手に連れてきたりして……。でも、どうしても見ぬふりが出来なくて。」
まったくそんな子猫みたいな上目遣いで来られたら……。無自覚かもしれないけれど、かわいいと思って何でも許されると思っているんじゃないかな。まぁ、その通りなのだけれど……。そこがまたかわいらしい。
冗談はともかく許すも許さないもない訳だ。ただ、タナカさんの今後の事を考えると慎重に動く必要があると僕は考えていた。
「まぁ、そこで見ぬふりしないトコロがシノハラさんのいいトコロなんだけれどね。でも、実際どうしたものか……。」
「単純にあの人の借金を肩代わりしてあげるんじゃダメなんですか?」
という短絡的なナガイ君に僕は両手でバッテンを作って首を振る。
「全然ダメだよナガイ君。肩代わりするのは簡単だけれど、その後のタナカさんはどうする?このパーティーに入れる?別のパーティーを紹介する?それもいいかもしれないけれど、それじゃあ彼は自立出来ないままだと思う。」
と偉そうに語る僕にツボミさんが続けた。
「確かにな、彼の話では彼の実力は未だ『始まりの街』レベルなのだろう。結局は同じ轍を踏むのが関の山だな。」
「やはり、まずはタナカさん自身が自分に自信が持てるようにするのが大前提だね。」
そんな僕を見てツボミさんがクスクスと笑い始めた。僕が彼女に小首をかしげて見せると、
「いやいや、君は十分勤勉じゃあないかと思ってね。」
参ったな……。と感じつつ頭をかき、先ほどから考えていた事をみんなに伝えた。
「正直、今の僕らのパーティーの状況って手詰まり感があると思うんだ。管理フィールドで活動する意味を見いだせないのと、それ以外のフィールドを探索するにしても、しっかりとした下準備が必要な状況だからね。だから当面はその下準備をしつつタナカさんの件を片付けるってのはどうだろう?」
「うん。そういう事にしておこう。」
とツボミさんが言うと、みんなが笑った。だが、実際僕の中では現状見通しがついていないのは真実であった。さて、まずは何から手を付けるべきか………。この時僕は完全なるノープランだったのだ。
管理フィールド探索が手詰まりとは言え、今日は僕以外のメンバーには今まで体験した中で可も不可もなかったジコクコポーレーションのフィールドに赴いてもらっていた。昨日のタナカさんの例もあり、知った顔に出会う事もあるかもしれないし、情報収集という意味では何もしないより幾分ましだと思っていたからだ。
そして僕はバイト前に街の探索に出ていた。みずいろ庵で僕に友好的な冒険者のおじさんから武器屋と骨董品店の場所をいくつか聞き出していたからだ。
もちろん僕の目当ては例のベロマークのシリーズのアイテムだ。僕自身そうであったが、結果的にナガイ君、ミシマさんの実力を発揮させたのは例のアイテムのおかげであった。そういう意味でももしかしてタナカさんの本領(それがどんなものか全く不明だが)を発揮させうるアイテムが存在するかもしれないと考えていた。
初めに訪れたのは案内所にほど近い武器屋だった。この近辺では最大の品ぞろえを誇る店舗という事で、客数も多く店内は随分と込み合っていた。なるほど品揃えと言う観点では始まりの街にはこれほどの店舗はなく、冒険者にとっては買い物のしやすい環境と言えた。広い店内を時間をかけながら歩き回ったのだが、どうやらこの店には僕の望むものは見当たらないらしかった。ある程度予想していた通りだったのだが、僕はその店で思いがけない人物に出会ったのだった。
「あっ、どうも……。」
目が合った気がしてうっかり挨拶してしまった。
「ん?……。ああ、確かこの前、門の前で会ったルーキーか?」
ヴァンパイアハンターのデモン・マリウスは面白くもなさそうに高価そうな短剣を品定めしながら言った。
「ええ、門の前で会ったルーキーです。」
そう言い終えた僕がじっと彼を見つめているとデモン・マリウスは再び面倒くさそうに「何か用か?」と言った。
「あっ、すみません特に用と言う訳では……、あっ、いえ、出来れば教えて頂きたい事があるのですが、少しお時間頂けませんか?」
デモン・マリウスは不思議そうな表情で僕を見つめた。
「お前、この間も俺にいろいろと質問してきたな。」
「あっ…、すみません。」
「いや、別にかまわんが……。別に狙ってやっている訳じゃないが、俺のこの素っ気ない態度で互いのヤツは話しかけないもんだがな。変わった奴だ。」
「基本的に空気は読まない主義ですので。」
デモン・マリウスは「ふん」と鼻で笑った後、何が聞きたいと流し目で僕を見た。
「あなたはフィールドを管理している企業に雇われてヴァンパイアを追っているんですか?」
「ああ、商売でやっているからな。確かに今回の雇い主はそいつらだ。」
「ちょっと気になっていたんですが、あなたはいろんなフィールドでその……『気ままな歩行者』でしたっけ?そのヴァンパイアを追っていますよね。」
「『気まぐれな歩行者』だ。それがどうした?」
その名を口にした時、一瞬デモン・マリウスは眉間にしわを寄せた。
「実は先日僕はヴァンパイアのフィールドの奥地の方から武装した冒険者達を見かけました。普通に考えれば狙いはヴァンパイアという事になりますよね。そう考えると、なぜあなたはフィールドの奥地ではなく別のフィールドで活動しているんだろうって……。小さな疑問というか。」
今度は彼は小さなため息をついて頭をかきながら、ゆっくりと僕に向き直った。
「妙な事に気が付く奴だな。答えは簡単だ、そいつらが狙っているヴァンパイアと、俺が狙っているヴァンパイアは別もんって事だ。」
「えっ?ヴァンパイアは複数存在するんですか?」
「ああ、そういう事だ。お前もヴァンパイアを狩るつもりか?」
デモン・マリウスは不敵に笑った。僕にそんな事が出来るわけもないと言わんばかりだ。まぁ……その通りなのだろうが………。しかし、ヴァンパイアが複数存在するとは……、こんな事セイラさんに言ったら発狂しそうだな。しばらく伏せておこうと密かに思った。
「さすがに今すぐには……とは思いますが。正直に言えば、僕達パーティーは管理フィールド以外のフィールドのいずれかを攻略したいと考えています。」
僕は馬鹿にされるか、笑われるかと思ったのだが、彼は表情を変えずに「ふーん」とだけ言った。
「笑わないんですか?」
「笑って欲しかったのか?」
「いえ、そんな事は……。」
「じゃあ、いいじゃねえか。」
そう言って再び短剣を手に取り、角度を変えながら刀姿を眺めていた。その姿はなんというかとても様になっていて素直にかっこいいと感じた。そして、そんな短いやり取りで僕はこの人が少し好きになった。
僕は自分がカフェでバイトしている旨を伝え、またゆっくりと話を聞かせて欲しいと言った。彼は「気が向いたらな」とそっけなく言ったがまんざらでもないように感じた。僕は深く頭を下げてから店を後にした。




