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第二章 10  バイト終わりのひと時

 「あら、やだ、それじゃお財布届けた時、私余計な事言っちゃったのね。」


 シャロンさんは今日ものんびりとした口調だ。先日の「コウモクエンタープライズ」の御曹司とのやり取りを聞かれ、僕は相当オブラートに包んで内容を告げると、シャロンさんは御曹司にはずいぶんと酷な事を口にした。


 「それにしても、その方ウチのお客さんなのねぇ、全然記憶にないのだけれど……。」


 ほらみろ、僕の存在の有無なんかまったく関係ないじゃあないか……、とは思うまいと、武士の情けで思うのだった。

 セイラさんとヴァンパイアのフィールドから帰ると、僕はそのままバイト先である「みずいろ庵」に来ていた。みずいろ庵は今日もシャロンさん目当てと思われるむさ苦しい男達で大盛況だった。これだけかわいらしい店内なのだから、当然女性客が本来メインのターゲットで、店のメニューもパスタやサラダが充実している。それだけにおっさん達が、カルボナーラやオムライス、さらにはスイーツのシフォンケーキやチーズケーキを頬張っている光景は異様であった。

 そんなおっさん達だがシャロンさんに嫌われるのは嫌なのか、変に絡む事もなく毎日閉店時間の21時にはそそくさと店を後にするのだった。

 閉店後の清掃時に僕とシャロンさんは手だけではなく、いつもこのように会話しながら仕事をこなしていた。シャロンさんは基本的におしゃべりが好きなようだ。


 「そういえば、今日も例のヴァンパイアが出現するというフィールドに行ったんですよ。」


 「そうなのぉ、でもあそこは随分危険だって聞いているわよ、大丈夫?ソメヤ君。」


 「入口付近は本当に低レベルのモンスターしか出ませんから、危険はないですよ。ああ、他にも出るんだった。」


 「他にもって?」


 「う〜ン、そうですね、ものぐさなおっさんっトコですかね。今日はいなかったんですけど、前に行った時に入口付近で昼寝している人がいたんですよ。なんて言うか不思議な雰囲気の人でしたよ。」


 シャロンさんはそれを聞いてクスクスと笑い出した。


 「ものぐさなおっさん……、そうねいい表現かもしれないわ、それ。」


 「えっ?シャロンさん知っている人なんですか?」


 「多分知り合いよ。あの人まだそんな事しているのね。」


 「へぇ、どういう知り合いなんですか?なんていうか意外過ぎます。」


 「う〜ん、それはまだ内緒。そうね、ソメヤ君ともう少し親密になれたら教えてあげる。」


 そう言ってキッチンを清掃していたシャロンさんは右手にブラシ、左手にフライパンを持って肩をすくめて舌を出した。先程迄店内を埋めつくしていた、むさ苦しいおっさんよろしく、僕もキュンとしてしまった。昼間あれだけセイラさんに萌えながら、節操なくキュン死目前の僕は、改めて惚れっぽい男なのだろうか……。でもキュン。


 「あの、シャロンさん、もし知っていたらなんですけれど、今日はそのおっさんはいなかったんですが、代わりと言ってはなんなんですが『タモンカンパニー』のナルコス・ヴァーデンバーグって人を見かけたんです。しかも十数騎の走竜に乗った軍団を引き連れていたんです。この街にはヴァンパイアハンターの方達以外にもヴァンパイアを狙う人達がいるんですか?」


 シャロンさんは少し考えてからまたのんびりと口を開く。


 「まぁ、ヴァンパイアを打倒したとなれば名声も上がるしね。フィールド管理の各会社も知名度上げようと必死なのかもね。ちなみにヴァンパイアハンター達もたぶん管理会社が雇っているんじゃないかしら。会社の知名度が上がればあからさまに利益に直結するのものね。」


 「なんとも拝金主義的な事ですね。」


 「あら、ソメヤ君はお金儲けは嫌い?」


 「いえいえ、正直日々お金儲けのことばかり考えています。前の世界ではお金で苦労しましたからね。まぁ、拝金主義とまではいかないかもしれないですけどね。」


 「ふ~ん。私もお店を経営している事もあって、日々利益を出す事には苦心しているわね。お金はやっぱり大事かも。」


 「はい、愛さえあればお金なんて、なんて言葉を実践できるのはお金に不自由していない人の話かもしれないですよね。死ぬほど飢えている人間にとっては思いやりの小銭より、偽善のお札の方が実際うれしいですもん。」


 僕の言葉に少し驚いたような表情をしたもののシャロンさんも同調した。


 「確かにね、お金事態にはその背景なんて書いてないものね。お金があればなんとかなる事だって多いものね。ちなみにさっきの死ぬほど飢えている人間にとってのくだりは経験に基づくものなのかしら?」


 「ええ、おかげで人の優しさも惨さも小さな頃から身をもって体験済みです。」


 「そう……、苦労しているのねソメヤ君って。」


 そう言ってシャロンさんはキッチンからフロアでモップ掛けをしている僕の所へ来て、そっと僕の頭に手を置いた。その美しい腕の動きを追いながら改めてシャロンさんの色白さに気が付く。透けるようなという形容はこの人にこそふさわしいと感じた。その頭に添えられた手で僕の頭を撫でながら彼女は微笑んだ。


 「何か困ったことがあったら言ってね。私が助けてあげるから。」


 もちろん大人の女性の艶やかさを感じ僕はドキッとさせられたのだが、それだけではなくある種シャロンさんンが醸し出す神秘性に僕はハッとさせられる思いだった。本当に魅力的な人だと心の中で唸っていた。

 

 「それじゃ、その際には甘えさせて頂きます。」


 照れながら言う僕を見て、シャロンさんはソメヤ君ってかわいいと言ってキッチンに戻って行った。これは確かに役得過ぎて、シャロンさんファンの嫉妬を買うのも致し方ないかと一人ごちながらモップ掛けを続けたのだった。

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