第二章 6 幼馴染
フィールドから「我が家」へ戻ると、すでにツボミさん達、別働組も帰宅してしていた。見るからに不機嫌そうなツボミさん、それを気遣うナガイ君とセイラさん。ある意味予想していた通りの展開だったので僕は別段驚きもしなかったのだが、僕が思っていたのとは違う原因でツボミさんは憤慨しているようだった。
「つまり、ツボミさんがそんなに腹を立てているのは、冒険者っぽさがないとかっていう、例の企業による管理システムに対してじゃないって事なんだ?」
「それはそれで、予想通り腹立たしいシステムだったよ!」
僕の問いにツボミさんは改めて怒りを露わにした。それを見てナガイ君がツボミさんをなだめながら詳細を説明し始めた。
「そうなんですよ、思いの他ひどいシステムでしたよ。僕ら今日登録を済ませたんですけど、自由にフィールドでモンスター狩りを出来る訳じゃないんですよ。会社から連絡があったその日……というか、その時間帯だけ活動が出来るみたいなんですよ。」
「えっ?そこまで管理されるの?ああ、そういえば登録料はタダだっけ?で、確か獲得ゴールドの何割かを持ってかれるんだよね?」
「3割ですよ。いろいろ説明されましたけども諸々の諸経費を含めた管理費だそうですよ。」
「3割か…、まぁ、妥当なとこだね。」
「えっ?そうなんですか?意外だなぁ。ソメヤさんなら絶対文句言うと思ったのに。」
「あっ、いや、そりゃ3割は高いけどさ、企業が利益を上げて存続していく事考えればそれくらいは必要かなと。で、肝心のツボミさんの怒りの原因は?」
僕は改めてかわいらしく頬を膨らましてふてくされている勇者の横顔に目をやった。
「ああ、それが今日はお試しという事でフィールドに出ることが出来たんですけど……。」
ナガイ君の話ではそのフィールドでは、各パーティの実力に合わせて当該モンスターを選択してくれるのだそうだ。それ自体大きなお世話ではあるが、実力不足のパーティーには好評のシステムなのだという。確かにリスクを軽減しながら狩りが出来るというのはある意味効率的とも言えなくはない。
お試しということで彼らにあてがわれたのはホブゴブリンだったそうだ。その時点で随分甘く見積もられた自らのパーティーの実力にツボミさんは機嫌を損ね始めたらしいが、怒りの原因はホブゴブリンをツボミさん一人で倒して事務所に戻ったところ、あるパーティーと遭遇した事によるのだという。
「あいつは私も嫌いなのです。嫌い過ぎてむしろ呪いさえしたくないほどです。」
セイラさんが本当に苦々しい表情で言った。呪いさえしたくないほど嫌いとは、一体どうゆう状況なのかとツッコミたくもなったが、そういう雰囲気でもないのでスルーした。
なんでも事務所で遭遇したパーティーのリーダーはツボミさん、セイラさんの幼馴染の勇者の男なのだそうだ。
その男との遭遇をナガイ君が詳細に教えてくれた。彼なりの主観が入っている可能性は否めないが、それは概ねこんな感じだった。
「やあ、やあ、これはこれは。誰かと思えばツボミ・オーキッドにセイラ・デコラティブじゃあないかぁ。久しぶりだねぇ。元気だったかい?」
男の名前は ナルコス・ヴァーデンバーグと言うそうだ。どちらかと言えば整った容姿の長身の男だそうだ。一見しただけでは、笑顔も爽やかな好青年なのだと言う。ただし、ツボミさん達に接して来たその態度はあからさまに軽薄そうで、決して感じの良いものではなかったらしい。
「なんだよ、つれないな、忘れちゃった?僕だよ、ナルコスだよ、ナルコス・ヴァーデンバーグ。ほら小学生の時、一緒に遊んだろ?」
その時、ツボミさんとセイラさんは本当に忌まわしそうな表情をしたそうだ。
「ああ、忘れるものか、ナルコス。お前のねじ曲がった性格は一生忘れる事など出来ぬかもな。」
ツボミさんの辛辣な挨拶を受けて、ナルコスは感情のなさそうな薄い笑みを浮かべて、
「いやだなぁ〜、もしかしてあの頃事、まだ誤解しているのかい?僕はずっと君たちの事気にかけていたんだぜぇ。どうだい?また親友に戻ってくれないかい?」
それを聞いてツボミさんはすぐにでも斬り掛かりそうな勢いだったらしいが、ツボミさんよりは冷静だったセイラさんが必死に止めたそうだ。ナガイ君はその場に留まる事が危険だと判断し、ツボミさん、セイラさんを促しながらその場を後にしたそうだ。
「ツボミ、セイラ〜、僕ここで経営にも携わっているから、いつでもおいでよ。待っているよ〜。」
それがナルコスが最後に発した言葉だという。
『タモンカンパニー』には登録はしたものの、とりあえずこのフィールドでの活動は基本的には不可能なようだった。
「と、とりあえず『タモンカンパニー』での活動は今後はなしの方向で……、だからツボミさんも機嫌直して……。ね。」
機嫌を取ってみたが損なった量は膨大なようで一向に改善の兆しは見えなかった。僕は一瞬セイラさんを見やってため息をつく。あまり話したくはなかったが、話題を変える意味でも僕らが訪れた管理外のフィールドについて話す事にした。
「と、ところで、僕達が行って来たフィールドについても報告するね。」
フィールドの環境などを伝えつつ、ある一人のおっさんに出会った事を告げた。そしてそのおっさんの言った管理外の2つのフィールドには、それぞれ「ヴァンパイア」と「魔族」存在する事実を話した。案の定過敏に反応したのはセイラさんだった。
「あのレベル様がいらっしゃるという事ですね!」
「うん?ああ、そうだね、たぶんそういう事だと思うよ。」
目をランランとさせるセイラさんを尻目に、不機嫌だったツボミさんも「魔族」という言葉に反応したようだ。
「魔族が常駐している街にこんなにも早く遭遇するとはな……。」
おっさんの言っていた、その魔族の中に『ソロモン12騎士』の一人がいるらしい事を告げると、ナガイ君もビクッと肩をすぼませた。
「いずれにしても管理外のフィールドは、情報収集などの入念な準備が不可欠ですね。」
フクスケが冷静な事を言ってくれて助かった。ツボミさん、ナガイ君、シノハラさんは気を引き締めた顔で頷いた。ただ一人浮かれ気味な魔導士は小首をかしげて僕に向き直る。揺れるショートヘアの髪先が可愛らしく映るが、その表情はとても妖しく見える。
「ソ・メ・ヤさん。今度視察に行く時は~。」
「はい、はい、セイラさん連れて行きますよ……はい。」
「しゃっ!しゃ~っ!」
握りこぶしで「しゃ~しゃ~」言う魔導士をスルーして、ナガイ君が、
「でも、そのおっさんって方の言葉は信用していいんですかね。」
もっともな内容であったが、シノハラさんのお尻をかわいいと言う人に悪い人はいない、という持論を持つ僕的には信用していいと感じていた。と言うのは冗談だが、ただ、初めて会う僕達にウソをつくメリットもあのおっさんにはないないだろう。
「たぶん、としか言えないけれどね。でも、2つも管理できない無駄なフィールドがあるって事の理由としてはこれ以上ない答えかもしれないね。」
「ヴァンパイア」に「魔族」
来る戦いを思い、僕達は改めて気を引き締める思いだったのだが……。
そんな後ろでまだ、「しゃ~」という異音は続いていた……。




