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第二章 4  試練は有料

 土地の確認に行く前に案内係に言われた通り、案内所に訪れてまず土地の賃貸手続きをするような冒険者は前代未聞だったようで、改めて案内所で僕は好奇の視線で見られる対象となってしまっているようだ。職員達はもはや何の遠慮の姿勢も見せずに、僕をジロリと眺めている。「始まりの街」の案内所での光景がフラッシュバックする。そんな訳ですっかり気分は下降気味ではあったが、手続き中、僕は案内係の女性に対してこの街で活動するのにおいて最も重要であろうこんな質問をした。


 「この街での最終的な目的はどんなモンスターを倒す事なんですか?」


 「変なヤツ」のレッテルを張られた僕的にはかなりまともな質問だったらしく、彼女は書類を準備しながら再び饒舌に答えてくれた。


 「この街の『試練』は『四獣』の一体を倒す事ですわよ。知っていますぅ?『四獣』って?」


 「ええ、確か東の青龍・南の朱雀・西の白虎・北の玄武でしたかね?四神とも言われる霊獣ですよね。」


 「ええ、詳しいですのね。そのうちの一体を倒す事が出来れば、次の街へ旅立つことの出来る合格ラインと定めているのですわよ。正直、始まりの街のゴーレムが笑っちゃうレベルの難易度ですのよ。」


 「そうなんですか……。『四獣』ですか……。……『四獣』……。四つのフィールド……。もしかして、その『四獣』の発生するフィールドって……。」


 もう完全にフラグが立ちまくりで、改めて聞くのも馬鹿らしいほどではあったが、彼女の表情があまりにも説明したげに見えたので、その欲求を満足させるために口に出した。


 「いい勘していますわね。そう、それぞれの企業が管理しているフィールドに一体ずつ出現するようになっているのですわよ。」


 厚かましい濃厚な笑みを浮かべて案内係はしたり顔で言った。


 「つまり……、今回の資格取得は有料って事ですか……。」


 「まぁ、有体に言えばそうなりますわね。ってじゃ、ここにサインしてもらって手続きは完了ですわよ。」


 なんとも理不尽なシステムだ。始まりの街の自由さが既に懐かしい。ため息交じりに書類にサインをしながら、僕はもう一つ確認したかった事をこのタイミングでぶっこんでみた。


 「ちなみに、この街にはヴァンパイアとかもいますよね。それってどういう位置づけなんですか?」


 なにげない感じで発した言葉に、案内所の中は時が止まったかのように沈黙した。その一瞬でこの街ではおそらくヴァンパイアの存在がタブー視されているのだと気がつく。一応視線を案内係の女性に留めたままでいたが、完全にコチラに視線が戻らない事を悟り、この話はそのまま終了する事にした。


 案内所を出る時の気まずさは半端ないレベルで、この問題の存在の大きさを否応無しに感ぜざるを得なかった。にしても、土地の賃貸に、タブーへの干渉と既にこの街でも完全に僕は浮いた存在になってしまった。別段ワザとそうしている訳ではないので、つまりやはり僕という人間はそう言う人間であるという証左なのだろう。そしてまた、そのような状況について特段どうとも思わない鈍感さが(周りの評価だが)僕の長所であると同時に短所なのだそうだ。


 手続きを終えて借り受けた土地に戻ると既にみんなが待っていた。


 「おお、タカキ君!すまなかったな面倒な事を全て任せてしまって。」


 「いやいや、こういう仕事は自分が一番向いているという自覚はあるから大丈夫だよ。それよりその口元のパン屑的なモノは?なにかおいしいものでもあったの?」


 「えっ、すまん女子たるものパン屑を顔につけているとは痛恨の極みだ。」


 赤面して焦るかわいい勇者に微笑みながら、シノハラさんが続けた。


 「商店街にオシャレなカフェがあったんです。『みずいろ庵』って言うですけど、ワッフルがすっごくおいしいんですよ。」


 「へぇ、じゃあ、今度僕も行ってみるよ。」


 そんな会話をしながら僕はみんなを下がらせて、エレガント・チェンジで僕たちの家を出現させた。後で聞いた話だが近所では突如として現れた一軒家を見て、しばらく「お化け屋敷」的な目で僕らの家は見られていたらしい。


 夕食後、僕は案内所で聞いて来たこの街の最終的な目的について話した。みんな『四獣』というフレーズを緊張感を持って聞いていたようだ。『四獣』といえば伝説の幻獣だ、竜や虎といったあからさまにやばそうな内容なのだから当然だろう。しかし、誰ひとり「有料コンテンツ」である事については言及しなかった。やっぱり僕はこの特異な集団の中でもさらに特異なのだろうか。


 「それにしても、街攻略の試練が企業管轄のフィールドにあるという事は、企業に登録しなければならないという事ですね。登録が絶対条件の上、使用料を取られながらでなくては目的を達成出来ないシステムとは、なかなか関心出来ないですね。どうします?ソメヤさん?」


 僕の心を代弁してくれたのはフクスケだった。


 「うん、そうだよね。フクスケの言う通りかもしれないわね。なんだか管理と搾取って感じでイヤなシステムですね。」


 膝の上にいるフクスケの言葉にシノハラさんがすぐに同調した。うむ。同じ事を僕が言っても、シノハラさんはこんなにサラっと同調してくれただろうか。

 にしてもさすがに同じ思考の持ち主のフクスケの言う事はいちいちその通りなのだが、僕はその話よりもむしろ、もう一つの内容であるタブーについての案内所の人々の反応が気になっていた。


 「うん、確かに思うところもあるんだけれど、いずれにしても登録してフィールドを視察してみよう。ただ、明日はツボミさん、ナガイ君、セイラさんで行って欲しいんだ。僕はシノハラさんとフクスケで、管理外のフィールドに行ってみようと思う。」


 ツボミさん、ナガイ君にはフィールドのモンスターの難易度の測定を、セイラさんには萌魔法が通じないモンスターがいるのかどうかを確認して欲しかった。フクスケには不本意ながらフィールド外の状況の意見を聞きたかった。そしてシノハラさんは、僕とフクスケだけでは言い合いになって(一方的に僕か…)しまいそうなので抑止力として同行を願った訳だ。というような内容を最後の部分だけ誤摩化しながらみんなに伝えた。


 「うん、そうだな、まずはいろいろと情報収集と行こう。して、フィールドはどこにしようか。」


 管理下にあるとはいえフィールドでの冒険が出来る事を喜んでいるようで、ツボミさんは笑顔で言った。


 「もちろん、案内所おススメの、登録をすると商品券をもらえる『タモンカンパニー』でしょう。」


 僕の言葉に一瞬にして沈黙が部屋中に拡散した。そしてみんなの「絶対そう言うと思った」という視線が痛かった。でもどうせなら欲しいじゃん、商品券。

 僕は苦笑いをして一言小声で「頑張ろう」と言ったが、「おーっ」と返してくれたのはフクスケだけだった。

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