第二章 3 フクスケ
「なんというか、そこまでフィールドでの活動を管理されてしまうと、いまいちつまらない感じですね。」
「何をおっしゃるのですぅ〜、狩りの時間、フィールドの手配、いわばドコに何がどれだけ出現するかまで手配してくれるのです。こんなにありがたいシステムはないじゃないですかぁ〜。少なくとも食いっぱぐれるような事はござあせんですわよ。」
僕の言葉に太った案内係はかぶせて来た。
「で、どうします、どの企業に登録しますぅ?個人的には今登録をすると商品券をもらえる『タモンカンパニー』なんてオススメですよ。あとは、寮の設備が充実しているのは『ジコクコポーレーション』だったりするかしらねぁ〜。その他は……。」
「あっ、いや、その情報はまた改めてお聞きします。他に教えて欲しい事があるんですけれど、いいですか?」
案内係は話の腰を折られ少し不満げだったが、質問される事は大好物のようで、どうぞどうぞとすぐに気分を切り替え再び暑苦しい満面の笑みを浮かべた。
「この辺りで空いた土地を紹介してもらえる施設はありませんか?」
満面の笑みは暑苦しさはそのままに、怪訝さを隠さない表情へと変わって行った。
「土地?何?どうして?………………、ええ、ここでもご紹介は出来ますけれどぉ?」
「でしたら、100坪ほどの……、えっと、330㎡くらいですかね、の土地が希望なんですが。」
「……土地ですか……。始めての案内所で冒険者から土地を紹介して欲しいという質問は、わたくし永らくこのお仕事をしていますが、始めてですわね……。」
などとブツブツ言いながら案内係の女性は、ファイルを引っ張り出して来て、町外れの土地を紹介してくれた。いつもの事だが特に案内所では、この世界のお約束から外れる行為はとにかく煙たがれる。脳裏に苦笑する「始まりの街」案内所所長のポルックスさんの顔が浮かんだ。
他の案内所の職員達も奇異な視線を僕達に浴びせていた。いつもの事とは言えあまりいい気分ではない。僕たちは紹介されたその場所を確認するために、一度案内所を出る事にし、再びグレーの街を歩く事となったのだ。
「なんていうか、この街の活気のなさって、さっきの案内所でのシステムのせいなんですかね?」
街を歩きながらキョロキョロと当たりを見回すナガイ君が言った。
「うむ、話を聞いただけで、ある種の閉塞感を感じたよ。」
そんなツボミさんの言葉にシノハラさんが力強く頷いて続けた。
「はぁ〜、なんだかがっかりです。早めにこの街終えて、次の街に行きたいですね。」
一様に失望感に包まれていた僕達だったが、唯一この街に大きな期待をしていたのはセイラさんだった。
「そうでしょうか?私はステキな街だと思います。だってこの街には……。」
「ああ〜、もういいです、理由はみんな分かっているから、その言葉は口にしないで。無力にもなにも出来なかった事がトラウマになっているんだから。」
僕はセイラさんからヴァンパイアの「ヴァ」の字も聞きたくなかった。あの体験は煽りではなく、本当にトラウマになっていたのだった。あの時僕たちは子供の虫かごに捕われた昆虫のごとき存在だった。子供の気分次第で再び自由になれるのか、囚われのままなのか、もしくは無惨にも弄ばれ殺されてしまうケースだって想定出来たのだ。それはいかに呑気に日々生きている僕にしても想像を絶する恐怖だったのだ。
セイラさんは頬を膨らませて子供のように怒りを表したが、サインをもらえた効果は絶大だったようで、どこか気分がハイになっている彼女に僕が呪われる事はないようだった。
「住所的にはここですよソメヤさん。」
そう言ったのはシノハラさんの肩掛けか鞄に収まっている「癒し犬」だった。ちなみにコイツには先頃シノハラさんが固有名詞を与えていた。
コイツの名前は「フクスケ」なんでもシノハラさんが以前飼っていた猫の名前だそうだ。犬に猫の名前をつけるところがシノハラさんのおおらかさを物語っているのだが、正直どうでもいい、コイツの名前なんて。
「あ、ああ、そうだね。」
素っ気ない僕の言葉にいつもの通りシノハラさんからのおしかりの声が、
「どうしてフクスケにいつも冷たいんですか。まだ論破された事根に持っているんですか?」
グサっ!もう僕は血まみれだ。
犬に論破された事をいつまでも根に持つ男。あれ以来完全に心の狭さが露呈されてしまい、そのイメージが定着していた。
「はは、いやだなぁ、そんな訳ないじゃないですか。」
必死に取り繕ったが、みんなの視線は決して好意的ではなかった。どうも「フクスケ」が生まれて以来調子が狂う事が多い。
「なかなかいい感じの土地ですね。街はずれといってもさほど中心地から離れていませんし、これだけ周りに民家があれば治安も悪くないのでしょう。さほど日照の妨げになるような建物もありません。なにより近くに商店街らしきものの存在も認められます。ソメヤさん、賃貸料から勘案してもこの土地で決定して問題ないのではないでしょうか。」
フクスケの理路整然とした発言にみな一様に頷いた。そして僕の発言を待つかのように皆の視線が再び僕に集まる。
「ええ、条件的に問題ないようなのでここにしましょうかね。」
という優等生な僕の発言に、
『なんか普通の発言でつまらないのです。(ぼそっ)』
『らしくなくて、ちょっと気持ち悪くないですか?(しれっ)』
『魂を売るとは情けないぞ(ためいき)』
『ごめんねフクスケあんな感じで(ぶぅ)』
という四面楚歌。と言うより、本来このいじる側の僕がいじられている訳だ。全部あの犬のせいだ……。
なんともやりきれない気持ちのまま、僕は一人案内所に戻り賃貸の手続きを済ますのだった。ちなみに他のメンバーには商店街の中にあるカフェで待っていてもらった。
「同族嫌悪」
以前フクスケに言われた言葉が脳内でリフレインして、偏狭な自分を改めて思い知らされるのだった。




