第二章 2 黄昏の街
レベルは再び優しい表情をセイラさんに向けると、まさに風のように去っていった。
僕達はあまりの出来事に沈黙が続いたが、その沈黙を破ったのはツボミさんだった。
「セイラちゃん!迂闊にも程があるぞ!あれはヴァンパイアだ、下手すれば全員が死んでいてもおかしくない状況だったのだぞ!」
「だって!ヴァンパイア様に会えるなんて奇跡的な事なんだよ!こんなチャンスを逃すなんてありえないでしょっ!」
パーティの誰もがこれは根深いとため息をついた。
そして程なくしてレベルの言っていた「怖い方々が来そうなので」の対象が、僕達の前に現れたのだった。僕達の前方、つまり「第二の街 ファーケン」の方角から馬に騎乗した3人の男達が文字通り颯爽と参上した。
最前の恐らくリーダーだと思われる男は、剣士風の服装に派手な紫色の外套を纏っていた。後列の2人の同じく剣士風の男達が地味なクラフト色の出で立ちをしていただけに、ある種異質な存在に見えてしまった。紫の男は馬上から僕達を見下ろして物憂げな表情をしながらその口を開いた。
「おっす。俺はデモン・マリウスという者だ。お前ら、今ここにメチャクチャ怪しいヤツいなかったか?」
その外見とはギャップのある軽い口調で男は抑揚なく言った。僕はかなり気勢をそがれてしまったのだが、なお警戒心を漂わせながら男に回答をした。
「確かに先ほどまでここに、恐らくヴァンパイアではないかと思われる男がいました。ただ、あなた達の気配を感じてすぐに去っていきましたが……。」
デモン・マリウスと名乗る男は少し考えてから、僕を再び見据えて無事だったのはツイていたなと無表情で言った。
「あの…、もし差支えなければ教えて欲しいのですが、このフィールドにはヴァンパイアのような高位のモンスターが普通に出現するんですか?」
「お前達は始まりの街からきたのだろう?」
僕は頷く。デモン・マリウスは確認するように頷き返した。
「プロメテウスからファーケンに繋がるこの辺りのフィールドには基本的には低クラスのモンスターすら出現しないハズだ。詳しい事は街の案内所で聞いて欲しいんだが、この街の周囲のフィールドは結界により、行き来の出来ない八つのフィールドに分割されている。だから、本来、この場所にヴァンパイアなどが入り込むハズはないのだがな。
しかし、ヤツは特別でな、結界をすり抜けて自由にフィールドを闊歩してやがる。俺らはヤツを『気まぐれな歩行者』と呼んでいる。
だから、答えるとするならば、本来は『いない』、だがヤツに限っては『いる』ってトコロか。」
面白くもなさそうに淡々と言うと、デモン・マリウスは2人の従者に「ゾウチョーのフィールドへ行く」と支持し、再びファーケンの街の方角へ馬を進め始めた。その後ろ姿に僕は、最後にと付け加えて質問をした。
「あなた方は冒険者なのですか?モンスター狩りとしてあのヴァンパイアを追っているんですか?」
その言葉に2人の従者は声をあげて笑い始めた。デモン・マリウスはそこでも表情を変えずに気怠そうに自分達はヴァンパイアハンターだと告げて去って行った。
その後姿に激しい怒りを込めた眼差しを向けたのはセイラさんだった。まぁ、つまり憧れのヴァンパイア様の天敵に対しては当然そうなるって事だろうか。
ヴァンパイアとヴァンパイアハンター。再び王道のファンタジー要素をぶっこんできたな、この世界は……。そんな思いを抱きながら僕は第2の街「ファーケン」の門をくぐったのだった。
ファーケン。
「第2の街」、または「黄昏の街」と称されるこの街は、もう一つの通り名を持っているという。
それが「門の街」
始まりの街同様、この街にもフィールドから街を隔絶するように高い壁が聳え立っているが、その壁には8つの門が存在するところからこのように呼ばれているそうだ。
※ちなみに「始まりの街プロメテウス」は4つの門が存在した。
そして、僕達……、プロメテウスから来た冒険者達はすべからく、この中の門の一つ「暁の門」をくぐり街へと入る事になる。
緑と美しい水に囲まれたプロメテウスと比較すると、この街には自然が乏しく全体的に石造りの建築物群が乱立しているイメージがあった。そう、色に例えるならば、この街の色はグレー、もしくはカーキといったところだろうか。洗練されていると形容する事も出来るが、いささか殺風景さを感じさせるとも言える街だった。
「とりあえず、案内所に行こうか。どうもこの街もいろいろとルールがありそうだしね。」
僕の言葉にみな頷いて歩き出す。初めての街という事で誰もがキョロキョロと周りの様子を伺う。
「にしても、イマイチ活気のない街だな。出歩く人間も少ないし、いてもなんだか元気がない感じだな。」
ツボミさんの言うように、この街の殺風景さは何も街の景観だけによるものではないように思われた。暁の門を潜ってすでに20分ほど歩いているのだが、すれ違った人は数える程で、ツボミさんの言うようにその表情は明らかに暗い。
初めからいい印象を持ち得なかったファーケンの街だが、その案内所はさらに僕を引かせる外観をしていた。それは街の風景とは対照的にきらびやかに装飾された建物だった。建物の壁面は他の建物から完全に浮いてしまっている「赤色系」の石を建材として使用している。案内所と書かれた看板はピンク地に紫の文字、でフォントはポップ体というドギツさだった。
僕達は等しく不安を感じながらその恥ずかしい建物に入っていった。
「いらっしゃいませませ!ようこそファーケン案内所へっ!」
入るなり押し付けがましい笑顔で、太った大柄の女性が僕達を歓迎してくれた。
「さぁ、さぁ、中へどうぞ。え〜と5名のパーティーでよろしかったかしら?」
「ええ、そうですね。5名です。」
ツボミさんが呆気に取られながら言った。その後、始まりの街で受けたようにこの街での不文律をトクトクと語られた。その内容は以下のようなものであった。
ファーケンには基本的にモンスター狩りをするフィールドが6つのエリアに分かれているという。(残りの2つのエリアは始まりの街と結ぶ道と第三の街へ続く道の2つだ。)道中出くわしたデモン・マリウスというヴァンパイヤハンターの言うように、その各フィールドは結界が張られ、各門を経由してしか基本的には行き来が出来ないそうだ。
ここで問題と感じたのは、そのうちの四つのフィールドは民間の企業体が管理をしていて自由に入る事が出来ない事だ。そのフィールドで狩りを行うためには、まずそのフィールドを管理している企業への登録が必要なのだという。しかも、狩りを出来るのは企業から指定され日時のみとなり、その上獲得したゴールドの一部を管理料として徴収されるそうだ。
当然、多くの冒険者達は自由に狩りが出来る残りの2つのフィールドへと考えるのだが、そこにはゴブリンのような低ゴールドのモンスターしか出現せず、始まりの街ほど日々の生活費に優遇措置のないこの街ではとても暮らしていく事が困難なのだそうだ。それ故、冒険者達は渋々ではあるが各企業に登録し、ある種管理されたモンスター狩りをせざるを得ないようだ。
この内容を聞いただけで、この街の活気のなさの原因が少し分かった気がした。そして、この街の通り名である「黄昏の街」についても……だ。




