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第二章 1  いきなりヴァンパイア

 始まりの街「プロメテウス」から、僕達が目指す第二の街は徒歩で1週間の距離にあった。その道程は乾燥した原野や、巨大な樹木が茂る大森林など、まるでテーマパークのアトラクションのように、異なる世界が隣接して続いていた。通常、冒険者達はこのような過酷な環境でモンスターを警戒しつつ、テント等を用いて野営をしながら旅を続けるのだろう。そう…あくまでも通常は。


 香るダージリンティーと、焼きたてのピザが今日の昼食だった。


 「ソメヤさんさすがにピザの作り方うまいっすね。本当にピザキャットのピザかと思いましたよ。」


 行儀悪くチーズを伸してピザを食べているのはナガイくんだ。

 窓の外では砂塵が舞い、窓を開けて新鮮な空気を取り込めないのが残念だったが、旅の途中での休息としてはあり得ない程の待遇と言っていいだろう。

 「プロメテウス」を発ってから六日目、もう少しで第二の街に到着という荒野で僕たちツボミパーティーの一行は5LDKの一軒家で優雅な時間を過ごしていた。


 「セイラちゃんの紅茶も本当においしいよっ。」


 シノハラさんがセイラさんに言う。ネガティブな魔導師は戸惑いながらも小さく笑って、ありがとうと言った。ただ一人イマイチこの状況に納得いっていない風なのが、我らがリーダーのツボミさんだった。


 「あ〜、なんとなくツボミさんの言いたい事は分かるんだけど……。やっぱり……、やり過ぎかな?」


 「やり過ぎもいいところだろう!なんだこの豪華な一軒家は!旅の途中で手作りピザ?紅茶?こんな冒険があってたまるか!」


 つまりこういう事だ。僕は始まりの街でこの5LDKの一軒家を購入した。建物の基礎部分を通常よりも頑強な補強を行い、全体的に耐震強度も相当に強化してリフォームをした。そしてこの一軒家を僕はカオスポケッツに収納して旅の途中、休憩や就寝時などに可能な限り平坦な場所を確保してはエレガント・チェンジでフィールドに家を出現させていた。

 当面問題となりそうだったのは「水」の確保だったのだが、非常に都合がいい事に「癒し犬」は水属性の魔法を使う事が出来た。彼は「癒し水」と言ってまさに「岩清水」のごとく奇麗な水を供給してくれた。

 そうなると、当然旅先とは言え料理も十分に可能で、僕はナガイ君のリクエストでピザを振る舞っていたという訳だ。


 「本来の冒険の醍醐味や要素が皆無ではないか!こんな事ではみんなの精神力が鍛えられないぞっ!」


 「ツボミさんの言う事も重々承知はしているんだけれどね……、そうは言っても、あれだけ激しい戦闘を経験した後だしご褒美的に……はは。やだな、その顔怖いなぁ……ツボミさん。」


 「以前から言おう言おうと思っていたのだが、タカキ君はなぜ人がやらないような方向にばかり行くのだ。たまには世の中の慣習に従おうとかは思わんのか?」


 「……ごめん。あんまり思わない……かも。」


 と口ごもる僕に歩み寄るツボミさんに、一瞬殴られるのかもと思ってしまった。それだけ険しい顔をしたツボミさんは僕をスルーして窓際に向かった。同じくナガイ君もオドオドしながらツボミさんに続いた。


 「ナガイ君、君は何か感じたらしいな。」


 「残念ながら……。」


 本当に残念そうなナガイ君と、窓の外を伺うツボミさんの横顔には緊張感が漂っていた。僕とシノハラさん、セイラさんは沈黙して2人の回答を待った。


 「どうやら近くにモンスターいるようだ。どの程度のモンスターかは不明だが、この魔力の圧力はかなりヤバい感じだ。私が外に出で伺ってくるが、家は収納した方がいいかもしれん。いい標的になってしまうからな。」


 そう言ってツボミさんは素早くフィールドへ出て行った。ツボミさんを見送る僕らの視線を感じたのか、ナガイ君がツボミさんを追っていそいそとドアを開けた。僕達も食事は諦めてすぐに家をカオスポケッツに戻し、2人の後を追った。

 砂塵の中、視界は非常に悪い。僕とシノハラさん、セイラさんは身を寄せ合って前方に見える岩陰を目指した。ちゃっかりシノハラさんの胸元に収まっている「癒し犬」に僕はムッとする。

 先行した2人もやはりその場所で砂塵を防いでいたが、僕たちが到着するとツボミさんは音や声を出さないよう身振りで指示した。そして消え入るような小声でモンスターの正体を教えてくれた。


 「あれは……おそらくヴァンパイア、もしくはそれに連なる眷属だ…。」


 誰もが声を押し殺した。ヴァンパイアと言えばモンスターの中のモンスターじゃないか。


 「どうひいき目に考えても、私達の手に負えるようなものではないと思う。」


 ツボミさんはいつなく冷静に判断した。僕の隣りでセイラさんが震えていた。僕はびっくりして彼女の表情を伺った。


 「えっ?セ、セイラさん?」


 彼女の震えは「恐怖」意外のそれだったようだ。セイラさんは信じられないくらいの笑顔を浮かべていた。


 「ツイて……ツイているのかもしれません。こんなに早くヴァンパイア様に会う事が出来るなんてっ!」


 「しまった、セイラちゃんは闇の眷属ファンなのだったな。だが、セイラちゃん、あれはダメだシャレにならん。」


 「わ、私、サインを頂いてこようかな……。」


 普段ツイていない魔導師は、(彼女的にと注釈が付くが)目の前のラッキーに対して完全に冷静さを失っているようだった。僕は今にも岩陰から飛び出してヴァンパイアにサインをねだろうかというセイラさんを後ろから羽交い締めにした。


 「何をするのですソメヤさん!話して下さい!」


 セイラさんは暴れ、そして騒いだ。当然の帰結として。


 「あれ?君たちルーキーの子達かな?どうしたの、仲間割れ?」


 「!」


 僕たちは絶句した。緊張で一気に喉は砂漠化し叫び声すら出ない。ヴァンパイアの男が僕達の傍らに立ち、体を傾け僕達の表情を覗き込んでいたのだ。情けない事に、僕はこの時なんの打開策も見いだせなかった。頭の中では、力では太刀打ち出来そうもないこのモンスターを、どう騙して逃げ切るのかをようやく考えようかと思っていた程度だった。そんな折、セイラさんは本能の赴くままに目を輝かせた。


 「ヴァンパイア様!大ファンです!サインを頂けませんか!」


 ツイていないのです。このパーティー最大の危機に際してこのポジティブな魔導師は、最強級のモンスターにこともあろうにサインをねだっているのです。僕は……誰を呪う?


 「ああ、いいっすよ。うれしいなぁ〜サインなんて初めてっすよ〜。」


 ヴァンパイアは気さくに答え、セイラさんが用意していたサイン帳にサラサラとサインを始めた。セイラさんを除く僕達はあっけに取られその光景をただ見送った。


 「ありがとうございます!……すみません…これはなんとお読みすれば……。」


 「ああ、レベル……、僕の名前だよ。ところで、他の子達と違って君は僕を怖がらないんだね。」


 「ええ、私は闇の眷属ファンですから!」


 セイラさんのおバカな回答にレベルと名乗るヴァンパイアは優しく微笑んだ。その表情に猜疑心の塊の僕ですら気が緩みそうになったが、その刹那、彼の表情は厳しさを発現させ、素早く振り返ると遥か遠くを見据えた。その方角は僕たちが向かう第二の街「ファーケン」のある方だった。


 「さて、怖い方々が来そうなので僕はこれで失礼しますよ。お嬢さん、今度そのサイン帳の最初に書かれたサインについておしゃべりしましょう。では。」


前回投稿から随分経ってしまいましたが再開させて頂きます。

また、お付き合い頂けましたら幸いでございます。

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