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第一章 53  旅立ち (第一章最終話)

 案内所。ポルックスさんと。


 「また、あなたは無理難題を言うものですね。」


 ポルックスさんは苦笑いで言う。だが、いつかのような心から忌み嫌うような表情ではなくなったのが、僕的にはうれしい限りだ。


 「すみません、どうしても気になる事がありまして、こんな事ポルックスさんにしか聞けないものですから。」


 「まったく口がうまい。ですが残念ながら今回は役に立てそうもないですね。召喚された人物のリストはここでは記録を残してはいないのです。しかもご存知の通り『始まりの街』はここだけではありませんからね。過去すべての情報が集まっている場所など存在しないのかもしれませんよ。」


 ポルックスさんの言葉は真実なのだろう。だが、僕はあの白々しい宇宙空間の部屋、つまり始まりの街に転送される前のあの空間。そこにはそれが存在するのではとどこかで思っていた。ただ、それを目にする事は難しいだろう事も分かっていた。


 「すみません、いつも変なお願いをしてしまって。」


 「もう慣れましたよ。しかしそんな情報、なぜ必要なのです?」


 「もしかして僕が知っている人間がこの世界にいるのかもしれない、そう思いまして。大した理由ではないんです。」


 「そうですか。そう言えば明日この街を旅立つそうですね。」


 「ええ、いろいろお世話になりました。なんていうか……本当にすみませんでした。」


 「はははは、あなたにそんな事を言われると体がムズ痒くなりますよ。しかし、ようやく落ち着いて暮らせそうです。」


 ポルックスさんは優しく笑ってくれた。どこか寂しそうに見えたのは、きっと僕の自意識が過剰なだけなのだろう。




 出発の日、旅立ちの門にて。みんなと。


 僕達ツボミパーティーはついに「始まりの街」を旅立つ日を迎えた。

 この一歩が「魔王討伐」への第一歩となるわけだが、まぁ、その日はまだ随分遠い日の事なのだろう。僕達が向かう次の街は「第2の街ファーケン」と呼ばれる街だ。その街へ向かうためのは通常フィールドに出るための門とは別に用意されており、始まりの街で経験を積み、次の街へ行く「資格」を得た者だけがくぐれる門だ。当然次の街へ行く「資格」とは、次の街で簡単に死なない者達という意味の「資格」だそうだ。


 「うう、タカキ、本当に行ってしまうのだな……。私はこれからの日々何を慰めとして生きていけばよいのだ。」


 メアリーさんが一応気を使って僕にだけ聞こえるように言った。訝しそうな視線を向けているのは、今日はシノハラさんだけではなく、ツボミさん、セイラさんも同様だ。僕は仕方なくメアリーさんに愛想笑いをするしかなかった。


 「タカキ、次の街を攻略して第3の街に向かう資格を得ると、この始まりの街への転送ゲートが開き、自由に行き来が出来るようになる。それまでは我慢するので、ゲートが開いたらすぐに会いに来てくれよ!約束だぞ!」


 ゲートが開いて始まりの街にいつでも来れる。正直このRPGゲームノリのシステムに感謝した。いや、なにもメアリーさんとの「行為」についてと言うわけではなく、(たぶん…、ね…。)懸念していたナガイ君の今後についてであった。

 今のままではナガイ君の木剣「気のせい」を発動させる「色気」の源泉であるタカキーズでのお楽しみをネタに出来ないからである。しかし第2の街攻略さえ何とか乗り越えれば、タカーズとの往来が自由になり再びナガイ君の力を発揮させる事が出来るという事だ。そう考えていたその時の僕は、きっと目をランランとさせていたのだろう。

 メアリーさんは僕が自分に会える事に歓喜していると思い込み、強烈に抱きしめて来た。

 当然3人の視線が冷たい。


 その状態を助けてくれたのはシモンズさんだった。


 「メアリーさん!僕にもタカキ君との別れを惜しませて下さい!」


 涙目の猫顔のおっさんの姿にメアリーさんも同情して僕から離れてくれた。ありがとうシモンズさん……、と思う間もなく今度はシモンズさんが僕を力強く抱きしめて来た。

 おっ……、おっさん臭い!

 メアリーさんの後だけに最悪の感触に僕はゲンナリしてしまった。だが、横目で見る限り例の3人の表情が穏やかになったので、まぁ、いいとしよう。


 「タカキ君、困ったらいつでも言いな!この不肖アルフレッド・シモンズ、君たちパーティーのためなら、いつでも馳せ参じるぜ!」


 こんなに心強い言葉はなかった。かつて伝説の勇者の右腕と呼ばれた剣士がこんな風に言ってくれているのだ。


 「シモンズさん、本当にお世話になりました。」


 僕は心からこの泰然とした剣士に深々と頭を下げ、感謝の意を表した。だが、僕が長い礼から頭を上げると、そこには恐ろしくブサイクなデレッとした猫顔のおっさんが、メアリーさんの胸元を眺めている光景があったのだった。

 このおやじ……。


 「タカキっち、俺はしばらくこの街に残ってみんなの警護続けるよ。いつか、俺もお前に追いけるように頑張ってすんごいパーティー作るからさ。」


 ミシマさんが割り込むように言って来た。


 「ちなみにパーティーの性別は……。」


 「もちろん、全員女の子に決まってんだろっ!」


 「ですよね……。」


 冗談めかして言っていたが、完全に本気だろう。

 僕はそんなどうしようもないミシマさんだが、この街に残ってくれるというのは、本当に心強かった。この後もタカキーズに対する嫌がらせの類いは、続くかもしれないという心配があったからだ。彼の「馬鹿」と剛剣「馬鹿力」がある限りタカキーズは安全と言っていいだろう。


 「でも、本当にみんなの事よろしく頼みます。」


 「おう、まかせとけって!」


 それぞれの分かれを惜しみつつ僕たち5人は、慣れ親しんだ「始まりの街プロメテウス」を後にするのだった。 


 新たな冒険の初日は抜けるような青空にわた雲が少しだけ浮かび、安閑とした雰囲気で始まった。緊張感を欠く出だしではあったが、こんな雰囲気もいいじゃないかとパーティーの5人は足取りも軽かった。


 「う〜ん。なんか……。」


 そんな雰囲気の中、そんな事を口にしたのはシノハラさんだった。


 「どうした?おトイレ?」


 「もう!ソメヤさんってどうしてデリカシーがないんですかっ!」


 「ごめん、ごめん…。で、何かあった?」


 「う〜ん、なにか忘れているような気がして……。」


 シノハラさんの疑問に僕たちは立ち止まって、しばし思索にふける。徐にセイラさんが指を指してパーティーの人数を数え始めた。


 「イチ、ニィ、サン、シィ、ゴォ…、うん、みんないますしね。」


 うちのパーティーは5人。さすがに、誰かいないとかはないだろう。と言いつつ僕も数えてみた。


 「僕、シノハラさん、ツボミさん、セイラさん、癒し犬。うん、5人。」


 僕たちはさらにしばらく潜思した。そして同時に丸坊主のスケベ剣士を思い出し、みんなで彼の名を絶叫したのだった。



 追伸。

 ナガイ君に同情する必要は1ナノメートルすらない。

 なぜなら彼はローズさんとの「約束」を果たしていた最中だったらしいのだから。何日か姿を見ない気がしたが、つまり何日も「約束」を果たしていたのだろう。つくづく凄い奴だナガイ・ヤスユキ。

第一章完結でございます。

しょうもない話を読んで頂いたみなさまありがとうございます。

第二章もバカバカしい内容ですが執筆中でございます。

少しストックが出来ましたら順次アップして参ります。

よろしければまた読んで頂けると幸いでございます。

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