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第一章 52  「不安」と「ぎゅっ」

 タカキーズの屋上。ツボミさんと。

 シノハラさんとタカキーズへ帰ると、みんな癒し犬に夢中になった。僕は大人気もなく気に入らないので、一人屋上で時間を潰していた。「同族嫌悪」癒し犬が言った言葉が何度も胸に突き刺さる。あの理屈っぽい態度は直した方がいいのかも知れない、なんて事を漠然と考えていた。19年の人生の中で、始めて僕は自分という人間のいやらしい部分を外側から垣間みたのだ。

 

 夕暮れ時ではあったが、始まりの街は多くの人がまだ通りに留まっていた。復興に向けてたくさんの人が仕事をこなしていた。不幸な紛争ではあったが、現在の熱の籠った街の状況を目の当たりにして、僕は少しだけ心が軽くなるような気がしていた。


 「なんだ、ずいぶんと黄昏ているじゃあないか、タカキ君。」


 そう言って冷たく冷えたアイスティーを手渡してくれたのはツボミさんだった。それはとても甘くてやさしい味に調整されていた。


 「いや、どうも僕は癒し(あいつ)とは相性が悪いようで……、ツボミさんはいいの?」


 「うん、大人気でなかなかだっこも出来ないしな。それに君に話したい事があったのだが、タカキ君と2人になれる事も少ないので今がチャンスだと思ってね。」


 「そんな、いつでも声をかけてくれればいいのに。」


 「君は君が思うよりもずっと、みんなから注目されているんだぞ。その自覚は持って欲しいものだ。誘うこちら側はそれなりに周りに気を使っているんだぞ。」


 「そんなもんですか……。」


 「ああ、そんなものだ……。……時にタカキ君、その、これからの事なんだが……。」


 「次はどうします?リーダーはツボミさんなんだから、決めていいと思いますよ。」


 「ああ、そう言ってもらうと助かる。」


 ツボミさんはどこかでまだ自分の目的である「魔王の討伐」をパーティーのみんなが敬遠していると思っているのだろう。この自信のなさは、まだ彼女がこれまで味わってきた、他から阻害され続けて来た経験が根強く影響しているのだろう。

 ツボミさんはその後もなかなか自分の意見を言えずにいた。普段底抜けに明るく、呆れるくらいの天然な少女がそんな状態にいた。困ったな……、とは、僕は思わなかった。むしろ、こんな所がかわいいなと思うくらいだった。

 だが、そうは言っても話も進まない。僕は彼女が話たいであろう事を会話のテーブルに広げた。


 「正直に言えば僕も含めて、魔王を倒すなんていうイメージは、なかなか湧かないのが実際のトコロだと思う。でも、今回の事も含めて、パーティーのみんなは少しだけ成長出来たと思うよ。」


 「うん……、だけど、みんな本当は嫌なのではないかと……、私のわがままに本当につき合せてしまってよいのだろうかと……。正直、不安でね……。」


 「確かに僕自身、正直に言えば不安はたくさんあるよ。なにせ知っての通り戦闘力なんて皆無に近く、ペテンまがいの方法でやり過ごしているだけだからね。でも僕たちパーティーみんなの『不安』、そしてそれに対するツボミさん『不安』も、これから、みんなでいろんな経験を積んでなくなっていくものだと思うよ。だから今はたくさんの『不安』込みで前進してみよう。経験を積んでそれでも自分は魔王討伐なんて無理だと感じたら、ちゃんとツボミさんにそう伝えるよ。そん時は……、うん、ごめん。」


 驚いた事にツボミさんは僕を見据えたまま一筋の涙を流した。あれ?無理だと感じたらのくだりが余計だったかな?僕は激しく狼狽えた。


 「あっ、いや無理だと感じないように頑張るんだけどね。」


 ツボミさんは尚もポロポロと漫画の中の美少女のように、大きな瞳から涙を零していた。

 

 「ごめん、大丈夫!ナガイ君もいるし、僕ももっといろんなアイテム探して強くなるから!ねっ!」


 なんて付け焼き刃な発言をしてしまう僕を、人はウソツキと呼ぶだろうか。


 「あはははは、君は本当にやさしいな。いや、すまん、この涙は君の優しさに対して流しているのだ。無理な時はちゃんと言ってくれ。ただ、私ももっと、もっと強くなってみんなに不安を与えないように頑張るつもりだ。これでもあのカイカ・オーキッドの娘だからな、大風呂に入った気でいてくれ、タカキくん。」


 そこにはパーティーのリーダーであり、伝説の勇者の血を引くツボミ・オーキッドの自信に満ちた顔があった。僕は素直にこの勇者の願いを叶える手伝いをしたいと思った。


 僕たちは、まだよく冷えていたアイスティーのグラスを傾けながら、しばらく通りの人々の往来を眺めていた。それはあたかも数日後にも離れるであろうこの街の姿を、しっかりと目に焼き付けるための時間にも感じられた。とても気持ちのいい風が吹き抜け、いつまでもこうしていたいなんて感じていた頃、グラスの中に残った氷が解けカランと澄んだ音を鳴らした。それを聞いたツボミさんが、ふいにこんな事を言った。


 「本当は少し気弱になっていたので、タカキ君への『借り』を行使して『ぎゅっ』ってしてもらおうかと思ったのだが、それはまた今度、もっと『効果的』な場面で使うとしよう。ちゃんと覚えておいてくれよ、タカキ君。」


 ツボミさんはそう言って、とてもかわいい仕草でウインクした。


 「あっ、ああ、あの『借り』ね。うん、大丈夫、覚えてるよ。」


 と言いつつ『効果的』な場面って一体?と少し『不安』になり、僕の方が『ぎゅっ』ってしてもらいたい気持ちになったのだった。

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