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第一章 49  僕の戦い


 ナガイ君の発する圧倒的な気合いを感じたのか、ラウムはナガイ君に向けた刃先を返し、振るわれた木剣を刀身で受けた。衝撃と風圧でラウムは数メートル後方へ飛ばされた。空中でトンボを切り着地した彼は2本のダガーナイフを落とした。彼の腕は満足にナイフが握れない程の衝撃を受けてようだ。


 「なんなんだ、その棒切れはっ!なんなんだお前はっ!」


 ラウムは完全に余裕をなくし絶叫した。再びナイフを握ろうとする彼を制したのは白黒模様のミノタウロス、アステリオスだった。自身の流した血に染まり今では赤と黒のホルスタインに見える巨漢のモンスターは意識を取り戻し疲弊しながらも冷静な表情を留めていた。


 「ここまでにしようラウムさん。もう契約分は働いただろう。これ以上やると、俺たち死ぬかもしれないぜ。認めよう、こいつらは強い。」


 「くっ……。こんなめちゃくちゃな奴らにこの俺が……。」


 ラウムはヨロヨロ立ち上がりながら、僕をにらみつけ完全に八つ当たりに近い事をぶつけて来た。


 「きさまっ!きさまは結局高見の見物かっ!これだけ仲間が傷ついてる中、ヘラヘラしやがってっ!俺はきさまのようなヤツが一番嫌いだっ!」


 え〜、関係ないじゃん。いいじゃん、そういう役回りだもん。なんて思っている刹那、僕の本当の役目がやって来たようだった。マジックミラーをかけている僕には既にしばらく前から分かっていた。今この瞬間を狙っていた彼らの存在が。彼らはしばらく前からモンスターの影に潜み、両陣営が疲弊するのを待っていたのだろう。モンスター達の群れをかき分け彼らは僕に凶悪な刃を向け突進して来た。


 「パーフェクトプロテクト!」


 完全防御の壁に阻まれ、ブラッシェド・バンブーの忌避(きひ)の「アンジェ」、変態兄弟の「クシー」と「ラムダ」は舌打ちをした。


 「ちっ、なぜ気がついた。」


 「言ったでしょ、いろいろ見えるんですよって。今日のピンクの下着もステキですね。」


 アンジェは赤面しスカートの裾を押さえた。多くの男達の視線がそこへ集中した。ズタボロのバーサーカーも例に漏れず、ローズさんにゲンコツされていた。


 「戦闘の後、あなた達がおいしいトコロを持って行くストーリーは折り紙付きでしたからね。僕はなるべく戦闘に参加せずにあなた達の動向に神経を使っていたんですよ。」


 と、講釈をたれた瞬間アンジェはいつぞやの電撃を僕に向かって照射した。ナイフの剣先から放たれた雷は生き物のようにうねりながら僕に向かって来たが、僕はすでにマジックミラーの2つ目の機能を発動させていた。右目のダブルウインクで発動した物を透かす能力。これによって僕はアンジェ達の行動を戦闘中から把握していた。そして、左目のダブルウインク。これにより発動する能力は魔法属性の攻撃への「倍返し」だ。

 アンジェの雷撃は僕に触れる事なく数ミリ直前でパワーを倍に増幅して、発射元の少女の元へ跳ね返っていった。一瞬の攻防だったが、アンジェの恐怖した表情が僕の視界に移りそしてスグに消えた。アンジェのすぐ前に双子のひとりラムダが立ちふさがり、アンジェに変わり電撃を受けたのだ。


 「お…お頭……。」


 「ラムダっ!お前っ!」


 アンジェは僕に憎悪の視線を向けた。


 「きさまの絶対防御は何度も発動しないのではなかったのか!このペテン師めっ!」


 「ペテン師呼ばわりは……、まぁ悪くないっすね。にしても、自分の能力の事ベラベラ敵に話す訳ないでしょ。」


 「クシーっ!」「おうっ!」


 アンジェとクシーは厭悪(えんお)の詰まった形相で僕に再び刃を向けた。まともにやっても瞬殺は決定的なので、散々シミュレートしたセコセコ戦法を実践する。2人の攻撃をグレートエスケープで避け、カオスポケッツからスタン・ハリセンを取り出した。さらに予めカオスポケッツに装備して置いた巨岩(マダガスカルの世界遺産「ツィンギ・デ・ベマラ」のような尖った4、5メートルある岩だ)をクシーの足下の小石とエレガントチェンジした。その光景は僕が魔法で地面から巨大な岩の剣を隆起させたように見えたかもしれない。完全に虚をつかれたクシーは空中へ弾かれたが、かろうじて致命傷を防ぎ、翻り地面に着地した。しかし、そこは運悪く(僕的には運良く)僕の目の前だった。労せず僕はスタン・ハリセンを全力で振り抜き、クシーをマヒ状態へ追いやった。


 「さあ、あとは君だけだぞ!」

 大袈裟に指を指すポーズを決める。ビシッと決まったような気がしたが、僕は背後から羽交い締めにされ身動きを完全に制約されてしまった。マヒしていたハズのクシーが全身を痙攣させながら最後の力を振り絞り、僕を拘束する事に成功したのだ。前方に見えたのは白く能面のような冷たい笑みを浮かべるアンジェの顔だった。握りしめられたナイフに込められた力は怒りか、憎しみか。クシーはすでにほとんど意識を失っているような状態だったが、その拘束力は強力で僕は全く身動きができなかった。


 「すぐには殺さない。まずは腸をえぐってやろう……。」


 アンジェは一直線に僕の腹部を目がけて鋭利なナイフを突き立てた。

 僕とブラッシェド・バンブーの一連のやり取りはこの戦場においてあまりにも「おまけ」「蛇足」的なものだったせいか、周りの者達はもしかしたらどこか非現実的な光景として見ていたのかもしれない。誰も声を上げず、動かず、静まり返っていた。その静寂を破ったのは、シノハラさんの絶叫だった。


 「ソメヤさんっ!」


 僕はアンジェに再び腹部をナイフで刺された。

 おそらく誰からもそう見えただろう。だが実際に吐血したのはアンジェの方だった。


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