第一章 48 ほとばしる剣士
「私は魔王を倒す者!こんなトコロで立ち止まってはいられぬのだぁぁぁぁぁぁぁ!」
ツボミさんのソニックブレードは一直線にミノタウロスに向かって風を切り裂き向かって行った。
「こんなぁ、ものぉぉぉぉ!」
ミノタウロスは風の刃を叩き落とすために剛剣を振るった。シモンズさんの強烈な攻撃を受けた劣化もあるだろうが、剛剣は根元から砕け、風の刃は分厚い 身躯を直撃した。ダメージは十分に与えたがそれでも強健な荒ぶる牛のモンスターは怒声を上げ、自らの頭部に隆起する二本の角でツボミさんを貫かんと頭部を下げ突進を開始した。縮まる距離の中でツボミさんは剣を構え直す。が、ミノタウロスの鋭い角が振り上げられ、その上空に放り投げられたツボミさんの姿があった。
「エアソニックっ!」
赤髪の勇者は空中で数回剣を振るった。彼女は空中に放り出されたのではなく、振り上げられた力を利用して自ら空中へと舞い上がったのだった。振るわれた刀身からはソニックブレードほどの威力はなさそうだが、複数の斬撃がミノタウロス目がけて降り注いできた。斬撃の雨に打たれミノタウロスは体中から鮮血を吹き出し、その場に崩れ落ちた。
落下してきたツボミさんをシモンズさんががっちりと受け止める。先ほどの戦闘といい、この食堂の店主は一体何者だろう。そんな僕の疑問に答えたのは、ナガイ君との戦闘に間を取っているダークエルのラウムであった。
「まさかアステリオスを倒すヤツがいるとはな……。貴様、アルフレッド・シモンズだな……。通称『猫かわいがりのシモンズ』弄ぶように多くの魔族を切り刻んできた伝説の剣士……か。かつてカイカ・オーキッドの右腕と呼ばれた男が、なぜこんなチンケな場所にいる?」
僕は心の中で唸っていた。あのどうしようもないスケベなだけのシモンズさんが伝説の剣士とは!しかも知り合いとは聞いていたが、ツボミさんの父、やはり「伝説」と形容される勇者、カイカ・オーキッドのパーティーの一員だったとは。
「いろいろ訳アリでね。あんたともやりあった事あったんだっけ?ソロモン12騎士の一人、ラウム・ズキンガラさんよ。」
「相変わらず食えない奴だ。貴様がいる以上早めにこのガキも始末しないとな。」
ラウムは再びナガイ君を睨め付け剣を構えた。
「あ~、言っとくけど、その子、俺より強いぜ。」
「はざけ。」
ラウムは一言残し、改めてナガイ君への攻撃を再開した。シモンズさんの存在を知ってか、ラウムの攻撃には一切の遊びがなくなりナガイ君は一方的に押され始めた。絶対防御と言っていいナガイ君の「いなし」のテクニックを上回る高速の突きが視認できない程繰り出されている事が分かる。視認出来ないになぜ?その回答はナガイ君の全身から出血が確認できたからだ。全身に切り傷を付けられナガイ君もミシマさん同様に見る間に鮮血に染まっていった。
「いやぁ~っ!ヤス!負けないでぇ~!」
かわいい声質のローズさんの声が恐怖でひきつり金属音のように響いた。完全に押されていたナガイ君はその声に反応し、ラウムにカウンターの突きを入れる。その際こめかみを切り、さらに鮮血がほとばしった。まさに捨て身の反撃と言っていい。虚をつかれたラウムも木剣を反って避ける際に、完全に避けきれずに額を打たれ割られた。ラウムは動揺すらせず、ナガイ君の反撃の原動力だと思われるローズさんを一瞥した。その挙動はナガイ君も認めていた。
ラウムの笑みと同時2人はローズさんに向かって跳躍した。種族のポテンシャルの違いだろうか、ラウムの方が確実に早く、ローズさんへの攻撃は避けられないかと思われた。
ナガイ君は前進する事に全ての力を注いでいた。ラウムの狙いはまさにそこにあったのだろう、ローズさんの手前で踵を返し全速力で突進してくるナガイ君に突きを見舞った。その剣先は確実にナガイ君の心臓を捉えていたが、彼はかろうじて左腕をたたみ、それを盾として胸への貫通を防いだ。だがナガイ君の左腕は手首の下辺りから一度貫かれ、さらにもう一度上腕を貫かれるという凄惨な状態となっていた。
「ぐはっ……!」
思わずうめき声を発したナガイ君にローズさんが絶叫しながら駆け寄ろうとした。だが、それを制止し、血まみれのバーサーカーは左腕を貫かれたまま、ラウムの剣に「気のせい」による強烈な一撃を与えた。ラウムの黒剣は刀身の三分の一をナガイ君の体内に残して砕け散った。
「絶対守りますから……、ローズさん……。」
優しく微笑んだナガイ君の笑顔には、いく筋もの赤い滴りが汗とまじり滝のように流れていた。
「ナガイ君、そいつダガーナイフを2本持っている!」
僕は新アイテム「マジックミラー」を使用してラウムの次の動きを予想した。
「ちっ!なんだこいつ等は!」
さすがに動揺してくれたラウムは焦りながら、案の定ダガーナイフを2本抜き跳躍して頭上からナガイ君に襲いかかった。
「ヤスーーーーっ!私も約束守るからっ!」
叫ぶローズさんの声に呼応するように、片手上段に構えたナガイ君の口から咆哮がほとばしった。
「やぁぁぁぁいっ!」
それは剣道の気迫を出した時の声のようだったが、僕にはどこか「イエィっ!」って聞こえたのは気のせいだろうか。ローズさんが約束(おそらく相当エロい)を守ってくれる「イエィっ!」みたいな。




