第一章 45 ダークエルフとホルスタイン
タカキーズの50名に及ぶ男達、20名のサッキュバス、そして僕達5名に加えて30名近くの騎士や勇者達が僕達の列に加わって来た。およそ100名の軍団となった僕達は勇んで魔族達に蹂躙されているであろう門へと向かった。
「ソ、ソメヤさん!こんなにたくさんの人がいるなら勝てますよね!大丈夫ですよね!」
僕の横を走るナガイ君は顔を紅潮させ、いつなく弱気の虫が影を潜めていた。僕はただ頷いたが、本当はなんの脈絡もない頷きだった。こちらの相対的な数が敵よりも優っているという情報は今の所皆無である事、そしてそもそも数の有利が戦いの有利さに比例するのかどうかも現段階では判断しようもなかったからだ。ただ、現状の高まる士気を下げるような発言をする必要もなく、ただの無味乾燥な頷きになってしまったのだった。
門に近づくにつれ鼻孔をつく火煙の刺激臭が濃くなっていった。喉にも刺激を感じるほどの濃度になった頃、ようやく視界にもその破壊の惨状が飛び込んできた。店舗に張られていたと思われる日よけのシェードが勢いよく燃え、石造りの多い建物を煤で黒く染め上げていた。石畳の路面にいくつかのクレーターのような衝突痕があり、舗装下の地面をも穿っていた。それにより火煙だけでなく、砂塵が空間を漂い呼吸を困難にさせていた。
至る所で被害にあった人々の阿鼻叫喚が聞こえ、さながら地獄絵図を具現化したように思われた。そしてその視界の悪い中、僕達が目撃したのはナガイ君の弱気を一瞬でマックスに上昇させるような光景だった。
「あ~、うぜぇ、なんでこんなショボい街で暴れにゃならんのだ。俺は早くシューティングスターとやりあいてぇってのによぉ!」
「もう、しょうがないじゃないですか……、もう、上の命令に逆らったら廃棄ですよ、もう、俺らなんて。」
「ちっ!まぁいいや、適当に暴れて引き上げようぜ、日当分くらいは働いてやらぁ。」
そうがなり立てていたのは比較的小柄な浅黒い肌の青年だった。尖った耳の形状、肌の色からファンタジーで描かれるダークエルフという種族なんだろう。騎士風の黒衣を身に纏い、胸の甲冑はカラスをモチーフにしているようで非常に目につく。その隣で話していたのは巨体のミノタウロスだった。だが様々なメディアに登場するような荒々しさは感じられず、頭の部分も白と黒、つまりホルスタインのような配色だった。穏やかな表情と相まって、どこか牧歌的なのんびりとした風景を思わせる不思議なモンスターだった。
「おっ?なんだ、この街の勇者、剣士どもか?……ふん、どうにも冴えねー感じだな。ん?あれ?淫魔どもがいっぱいいるじゃん。おい、お前ら、やり放題だぞ!」
僕達に気付いたダークエルフが魔族達を煽る。その場にいたモンスターたちはグレムリン、コボルト、ゴブリンを中心としたこの街の付近にいるモンスターが中心だったが、ダークエルフが声をかけたのは人語を解する高位のモンスター達のようだった。彼の言葉を聞き色めき立っていたのは様々な獣人達だった。犬系、猫系、リスなのかネズミなのか、いずれにしてもげっ歯類の獣人もいる。狼男などが有名だが、およそこのような獣人達をライカンスロープと呼ぶのだろう。
ナガイ君の勇気はすでに風前の灯と化していた。いや、ナガイ君だけではない、ここに集まった僕達の仲間は息をのみその光景を見守っていた。彼らの総数は優にこちらの3倍は存在したのだから。
「ソ、ソメヤさん……。」
ナガイ君の動揺に答えてやる時間はなかった。僕はすぐに当初の計画通りの動くために指示を始めた。まずは聖職者達で組織した救急チームに対して、街の負傷者の治癒を行うため、その負傷の度合いを判断して優先順位をグループ分けし重傷者を優先的に治癒させた。ナポレオンの時代にフランスで考案されたトリアージという方法だ。これについては予めシノハラさんに訓練を受けてもらい、最終的には指揮系統を委ねた。「出来ない」そんな言葉が返ってくると思っていたが、彼女は弱音を吐かずに快諾してくれた。
彼女なりにツボミパーティーで役に立ちたいという思いが強かったのだろう。
そしてその救急チームを護衛するために堅牢な重騎士で組織した通称「壁」を配置する。さらに補助として数名の防御魔法を得意とする魔導士を加えた。これにおよそ全体の半分の人員を割いた。
つまり僕達は50名ほどで300のモンスター、魔族を相手にしなくてはならなかった。
すでにこの時、こズルく計算高い僕の中でも勝機のパーセンテージは分からなかった。ただひとつ分かっていた事は、もう後には引けないという純然たる事実だけだった。
「なんだ?妙な事してやがるな。お前が隊長か?こんな状況で人助けとは酔狂な奴だな。」
「ラウムさん、あいつがソメヤっていう人だよ。もう、ちゃんと手配書見てればすぐ分かるでしょ。」
「うっせーよ、この牛がっ!」
ラウムと呼ばれたダークエルフは改めて僕を見据えて、ニヤリと笑った。
「よし、お前は俺が直々にぶっ殺してやる!」
「残念だけど、君の相手は僕じゃないよ。彼がお相手しよう。」
僕はナガイ君を指さし出来るだけ不敵に笑った。当然ただの強がりだ。そして指さされたナガイ君からはすでに弱気な言葉は発せられなかった。なぜなら彼は今、彼の耳たぶを甘噛みするローズさんを軽々と抱え、すでにエロバーサク状態と化していたのだから。
奇跡の戦士エロバーサーカー「ナガイ・ヤスユキ」からはかつてないほどの圧倒的な圧力を感じた。ローズさんは一体どんなエロい約束をしたんだろう。ナガイ君はローズさんをそっと下し自分から離れさせると木剣「気のせい」を上段に構えた。




