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第一章 42  2人の赤ちゃん

 「なるほど、それはゴアールホテルだな。この街で一番高級なホテルだよ。基本的に外からこの街に来る要人なんかが使うホテルなんだがね。一体どうなってるんだい。」


 僕の報告を聞いてメアリーさんは腕組みをして言った。


 「ホテルの方は僕が見張ろうと思います。タカキーズは今まで以上に警戒した方が良さそうですね。」


 「ああ、それはタクマがやってくれるハズだよ。それよりいくらグレートエスケープが使えるからと言って、一人で奴らを見張るだなんて私はタカキが心配だ。どうだ、私も一緒に見張るぞ。」


 「ちょっと待ちたまえ、メアリー殿!あなたは仮にもここの代表だ、そんなあなたが不在ではどうにもならんだろう。タカキ君との見張りは私が適任だと考えるが。」

 

 ツボミさんが僕らのやり取りに割って入ってきた。


 「元来、見張りは影が薄い方が有利なのです。今回は存在感ゼロの私が行くべきだと、呪いの神が告げています。」


 セイラさんも参戦してきた。しかし、呪いの神のお告げはいかんだろう……。


 「残念ならがらセイラちゃんは別の意味で、存在感はアリアリだ。しかも、今回、対象は女性とオカマだ、セイラちゃんの天敵とも言える。やはりここは私だろう。」


 再びツボミさんが出張る。


 「何言ってんの、見張りは長期になるかもしれないんだよ、そうなったらタカキの目の保養だって大切さ、そう考えたら………、ふぅー、あんた達じゃ………ねぇ。」


 「って!どうでもいいですけど、メアリーさん、なんでソメヤさんの膝を枕にしているんですかっ!」


 部屋の中の全員が抱いていた違和感のある状態に対して、シノハラさんが業を煮やして突っ込みを入れた。


 「あら、いいじゃないか、ここは私の家だよ、居候させてあげているんだからこれくらいの特典はあっても罰は当たらないだろ?」


 「うっ……、ソ、ソメヤさんも何、黙って枕に徹しているんですか!」


 「あ、ああ、ごめん、考え事してた…………。やっぱりシノハラさんに一緒に行ってもらおうかなと思ってたんだけど、どうかな?」


 「えっ!本当ですか!行きます、行きます!」


 シノハラさんが弾けるように笑顔で答えた。ツボミさん、セイラさん、メアリーさんからのブーイングがすさまじかったが、単純に治癒魔法が念のため必要だと言うと沈黙した。


 次の日から僕とシノハラさんは、ゴアールホテルの一階のカフェでブラッシェド・バンブーの周知の3名に対しての張り込みを行った。忌避(きひ)の「アンジェ」、オカマの双子の「クシー」と「ラムダ」いずれも非常に危険な存在だけにシノハラさんを危険な場所に連れてきてしまった事は本当に申し訳なかったのだが、彼女を連れて来たのには、実は別の目的があったのだった。


 「ごめん、実はシノハラさんにも、みんなにも昨日ウソついたんだ。」


 シノハラさんはキョトンとした表情で小首をかしげて僕を見た。


 「シノハラさんを連れてきたのは、正直に言うとシノハラさんの治癒魔法が目的じゃなくて、これなんだ。」


 僕はテーブルの上にカオスポケッツから取り出したモンスターの卵を見せた。


 「昨日の卵……。卵が理由って、どういう事なんですか?」


 シノハラさんの問いに対して、昨日、室長と呼ばれる男が言っていた内容を改めて説明しながら回答した。シノハラさんは一層いぶかし気に卵をしげしげと眺めていた。


 「…つまり、これは温めた人間の中身を反映するモンスターが作られるらしいんだ。昨日僕が大分温めたんだけど、僕を反映するって考えたら少しゾッとしてさ。後は別の人の中身を混ぜた方がいいんじゃないかって思ってさ。」


 「えっ……、じゃあ……、もしかして、後は私が温めるんですか?」


 「嫌じゃなければ…………ね。あ、ただ卵がかえる時期は僕が温めるよ。何が出てくるか分からないからさ。」


 「どうして、私なんですか?」


 シノハラさんがうつむきながら言った。何か気分を害すような事だっただろうかと心配になる。


 「あ、ああ、だってあの中じゃ一番性格がいいし。例えば、ツボミさんじゃ天然すぎるし、セイラさんは改善したとはいえ、相変わらずネガティブだし、メアリーさんはエロ過ぎだし。って事で必然的にシノハラさんが『親』としては最良だと判断しまして……。迷惑だった?」


 うつむいていたと思ったシノハラさんは、僕の両手を取って、ぜひ温めさせて欲しいと言ってくれた。


 「じゃあ、私とソメヤさんが混ざったようなモンスターが生まれるんですよね。」


 「う、うん、そのハズだけど…。」


 「うふ……。やだ、ソメヤさん……。」


 「えっ?なにが?」


 「だって、二人の赤ちゃんみたいなんだもん。」


 と言いながらシノハラさんは大事そうに卵を撫で始めた。なるほど、そういう考えもできなくないか。僕とシノハラさんの赤ちゃんか……、確かにちょっと照れる。


 「と、とりあえず、またもめると面倒だから卵の件はみんなに内緒でね。」


 「2人のひ、み、つってヤツですね。いいですよっ。2人のひみつです。」


 こんなやりとりをしながらの、なんとも緊張感のない張り込みだったが、卵に頬ずりすら始めたシノハラさんを尻目に、僕は周りの警戒を続けていた。


 「ところで、ソメヤさんその新アイテムの眼鏡どういう機能があるんですか?私がかけても何も不思議な事起きなかったですけど。」


 と、彼女は今日は朝から新アイテムの眼鏡「マジックミラー」をかけている僕に聞いてきた。


 「これは、相手がどんな武器を持っているのか察知出来たりするアイテムなんだけど、発動条件があってね。今のトコロいろいろ試しているところ。」


 というのも半分ウソだ。まったくウソばかりついてしまうが、これも仕方がない。この眼鏡マジック・ミラーは男にとっては夢のアイテムと言えた。今まで誰もその秘められた力に気が付かなかったのは、発動の方法を知らなかったからだろう。このアイテムの発動条件は2回連続の瞬きだ。説明書にはさもパソコンのダブルクリック風に、「ダブルウインク」と明記されていた。

 右目のダブルウインクでアイテムを発動させる事で、この眼鏡越しではどんな物でも透視が可能だ。例えば敵が隠し持った武器を発見する事も出来る。

 断っておくが、僕が今すでに能力を発動させているのは、あくまでも急に敵が現れてもしっかりと対応できるようにという目的があっての事だ。その副産物として、目の前のシノハラさんをずっと全裸で見ているが、あくまでも目的ではなく、結果である事を強調しておこう。

 にしても、僕の目の前にはいい意味で意外な光景が広がっている。

 そうだったんだねシノハラさん。正直すごいじゃないか。


 なんてバカな事を考えていると、僕の視界には見覚えのある黒髪の少女の姿が入ってきた。今日は真っ赤なひざ丈のワンピースを着ていた。つまりこれはマジックミラーをずらして見た風景だ。


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