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第一章 35  探索

 本来ならばそんな行為にメアリーさんは激怒したかもしれないが、ミシマ・タクマの姿を見てそんな感情は湧きようもなかったようだ。彼は額から血を流したのだろうか、すでにその血は黒く凝りかたまり、さらに砂埃にまみれていた。他にもその顔には殴打された痕跡がいくつも残っていた。


 「タクマ!どうしたんだい、あんたその顔!」


 ミシマ・タクマは口惜しさに身を震わせるようにその口を開いた。


 「くっ…、すみません!ふぉっ……、おっ、俺がふがいないばかりに、うっ、ローズちゃんが………、ローズちゃんが(さら)われましたっ!ぶぉぉぉぉぉ!」


 ミシマ・タクマは号泣を始め、拳で床を殴打した。血染めの拳は自らを傷つけ罪を償おうとしているかのように見えた。


 「しっかりしなっ!タクマ!順を追って話な!それじゃ何も分かりやしないよ!」


 叱咤するあメアリーさんを尻目にミシマ・タクマは、嗚咽がなかなか止まらなかった。


 「お願いします!ミシマさん!ちゃんと教えて下さい!ローズさんに何があったんです!答えて下さい!」


 普段大声を出す事のないナガイ君の声は、裏返って奇妙なキーを奏でたが、その緊迫した訴えがミシマ・タクマを正気へと戻した。ローズさんはナガイ君にとって心身ともに特別な存在になっていた事が伺えた。


 「す、すみません……、ちゃんと話します……。今日、俺とニシオカという男で護衛をして、ローズちゃんと買い出しに行っていたんです。そこでチンピラみたいな連中に絡まれたんです。そんな事はココのところ、しょっちゅうでしたから正直気にも留めずにいつもみたいにギタギタにしてやたんす。

 それで、その後もかまわず買い物をしていると、またその連中が現れて、今度は黒づくめの盗賊風の男を連れ来て……。俺、これでも最近はかなり腕も上がって大概の奴には負けない自信があたんすけど、そいつが滅茶苦茶なヤツで……。ニシオカもボロボロにされて、ローズちゃんが奴らに連れていかれちゃったんです!すみません!すみません!」


 ミシマ・タクマは床に額を打ち付けて、再び流血しながら詫びた。


 「止めなタクマ。あんたのせいじゃない。で、ローズが(さら)われた場所は?泣いている暇はないよ、すぐに助けに行ってあげないとね。」


 メアリーさんはミシマ・タクマに柔らかな優しい眼差しで言った。だが、その瞳の奥に凄まじい怒りの炎が揺らめいているを僕は見逃さなかった。そして、その怒りの感情は等しく、僕にもナガイ君にも宿っていた。


 「タカキ、早速で悪いがやはり力を貸してくれるか?ローズを助けたい。」


 「当たり前です!ローズさんは必ず僕が助けて見せます!」


 僕が回答するまでもなくナガイ君が憤怒の表情で怒りに燃えていた。

 

 


 

 「急がば廻れで付近の聞き込みをしてみてください。可能な限り男女の組み合わせがベストです。かならず2人以上で行動し、礼儀正しく、丁寧な会話を心がけて欲しいです。その方が確実により正確な情報を引き出すことが出来るからです。

 最初は網目状に点在して行動してもらいますが、有力な情報が取れ次第、網を狭めて行きます。点を線で結んで行き、いくつかの仮定のルートを設けます。それを繰り返して最終的に目標の『動線』をあぶりだしましょう。」


 僕はタカキーズのサッキュバス、護衛の男性隊員たちにローズさん救出の、聞き込みと追跡の心得を話した。


 「ソっ…ソメヤさん、なんでそんな事知っているんです?なんだか探偵みたいじゃないですかぁ。」


 ナガイ君が興奮気味に言う。


 「短期間だったけど探偵のバイトもしたことがあってね。高給だったんだけど、浮気調査に来た人妻に惚れられてクビになったんだ。もっとやりたかったんだけどね。」


 「その、やりたいって深読みした方がいい感じの『やりたい』ですか?」


 「何を言っているんだ君は……。まぁ、いいや、とにかくナガイ君はツボミさん達を呼んで来てくれ。僕は先発してみんなを指揮するから。」


 


 すでに日が傾き始める時刻となっていた。タカキーズのメンバーをすべて動員して、事件のあった通りへ出かける。街の人に威圧感と不信感を与えないように、広く散開して聞き込みを始めた。恐らく黒づくめの盗賊風の男と言うのはそれほど人目につくような行動はしないだろう。

 むしろ印象としては(さら)われたローズさんを問うべきだろう。強引に腕を引かれて行く、もしくは肩に担がれるなど、いずれにしても人目に付くはずだ。


 「ソメヤさん、その2本先の通りで……」

 

 「タカキ君~、酒屋の裏の路地を……」


 「金髪の女の子を抱えたガラの悪い連中が……」


 続々と集まる情報を整理しつつ、即席で描いた地図に印をつけていく。誤った情報も当然考慮しているが概ね2ルートほどの選定が出来る程に点と線がかさなりつつあった。その中で、明らかに異質な情報がいくつかあった。異質とはあまりに有力でないという意味でだ。恣意的な違和感が漂う情報と言ってもいい。僕はその情報に着目し、その情報源を複数のスタッフに聞く。するとある特徴のある一人の人物が発信源であることが浮上してきた。


 「そいつに会ってみようかな。」

 僕は一人ごちる。


 2本の人通りの多い通りと通りを結ぶ、比較的目立たない通りにその男は立っていた。まだ若く、青年であると思われるが、その表情はどこか影を留め退廃的な印象を与えた。その男は僕とメアリーさんが聞きたいことがあると尋ねると、その容姿とは対極的に愛想よく笑い「なんだい?」と言った。

 すでに何度か聞かれたであろう質問「この辺りで女性を強引に連れているような連中を見かけなかったか?」これに応えるべく男は用意していたのだろう。

 だが、僕はその予定調和を想定していた男の表情を変える質問をぶつける。

 僕は手製の地図上の複数の線の終着点を指して言った。


 「ここって、何があるの?」


 男のニタリ顔は一気に青ざめ、僕を押しのけ、いきなり駆け出した。


 「ビンゴ的なヤツですね。」


 そうメアリーさんに言いながら、先日、武器屋で購入しておいた「まきびし」と男のサンダルをエレガントチェンジで入れ替えた。

 

 「ぎゃぁぁぁぁぁぁ――――――――――っ!」


 男は派手に転倒して全身を殴打し、石田畳の上で悶絶していた。我ながらこういう陰険な方法を思いつく自分が嫌になるが、なかなか使える技じゃないかと一方で自分を褒めたりしていた。


 「もう一度聞くね、ここって、何があるの?」


 「知らねーよ!バカじゃねーのか!こんな事してただで済むと思うなよ!」


 「僕らかな―――――――――り急いでいるんだよね。答えてくれない?」


 「答えるかよ!死ねっ!」


 「ふーん。さっき君の『サンダル』とその『まきびし』入れ替えたの僕のスキルなんだけど、ちょっと試してみようかと思っていた事があるんだよね。例えば君の身体の中のどっかとか『まきびし』を入れ替えられんのかな?なんてね。さっき言った通り急いでいるんだけど、間に合わないなら時間も出来るし……。やってみようかなぁ。」


 僕は清々しい程の作った笑顔で男に笑いかける。男は空気が抜けていく風船のように虚勢がしぼみ、大きく溜息を何度かつき従順になった。


 「そっ……、そこには酒場がある……。その2階が…アジトだ……。」


 「メアリーさん、急ごう。素直に答えてもらえてよかった。」


 「あっ、ああ、しかし、改めてタカキは敵にはしたくないと思ったぞ、私は……。」


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