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第一章 34  メアリーさんの気鬱

 「色」狂戦士、ナガイ君が正気に戻った頃、僕たちはタカキーズへ向かう通りを歩いていた。再び記憶があいまいなナガイ君であったが、タカキーズに向かう道程である事に気が付き表情を明るくした。


 「ちなみに、今日は基本話に行くだけだよ……。」


 僕の言葉に赤面したナガイ君は慌てて言う。


 「なっ、何言っているんです、僕は別に変な期待してついてきたわけじゃないですよっ!やだなぁ~ソメヤさん、僕を色狂いみたいに~はははは。」


 知らないと言うのはなんと幸せな事なのだろう。

 そんな予定調和な会話を交わす僕たちの表情が曇ったのは、メロンパンが自慢のパン屋の前を通り過ぎた辺りだった。

  

 タカキーズへと続く大通りはこの「始まりの街」では大きな部類に入り、直線距離にして2キロメートルあると言う。本来の名称はオルレイズ・ストリートと言う。しかし、ここ最近若い男性の間ではタカキーズ・ストリートと呼ばれているそうだ。それほどタカキーズはこの街に影響力を発揮する存在となっていた。

 それ故に、先日メアリー・ファニングが語ったように、タカキーズに対して快く思わない物騒な勢力の拡大も招いている。僕たちの表情が曇った理由も、そんな存在に起因していた。僕たちの進む前方に見るからにガラの悪い3人の男たちが道を塞ぐように立っていた。それぞれ二十代中ごろから後半の屈強そうな大男達だった。薄汚い革製の衣服がさらに威圧感を演出するのに一役買っていた。どう見ても友好的な感じには見えない。


 「よう、お兄さん方、まさかタカキーズに行くわけじゃないよね。」


 一番長身の白目の黄色い男が話しかけてきた。僕はしれっと「行くわけです」と答えた。


 「あ~、よくないね~、あそこの女どもはみんな病気もちだぜぇ~。遊びたいなら俺らがもっといいトコ紹介するから着いてきなよ。」


 なるほど、類似の組織が客を奪おうという算段か。にしても仕事が粗い。威嚇してしまったら、気の弱い男は性欲なんて減退するだけじゃないか。せめて、勧誘する役は女性だろ。


 「残念ですが、遊びに行くわけではないんです。知り合いに会いに行くだけなんですよ。」


 長身の男は思いがけない言葉だったのか、一瞬間をおいて再び不遜な表情で続けた。


 「ほう、あいつらの知り合いねぇ。なら、それはそれでただで通すわけにもいかねぇなぁ。」


 なんと言うか、すごく面倒くさい。もうしゃべるのも面倒くさい。という訳で無視してパーフェクトプロテクトで壁を張る。見えざる壁の出現で3人の男たちはその壁に押され後ずさった。僕が何かしらのスキルを発動させた事に気が付き、男たちはナイフを抜き何やらわめき散らしていた。内容を脳に入れるのも億劫なのでガン無視をし、僕はナガイ君に最近発見したスキルの使い方を披露した。


 「パーフェクトプロテクトの出現範囲を最低限に絞って出力しているんだけどさぁ、そうする事で持続時間が延びる事が分かったんだよね。」


 呑気に語る僕とは対照的に、ナガイ君は壁の向こう側でがなり立てる男たちの怒り顔に恐怖していた。


 「ナガイさぁん、どうするんですか……。相当怒っていらっしゃいますよ……。」


 「さらに昨日気が付いた事なんだけど……、ちょい歩くよ。」


 僕はナガイ君を促して歩き出した。持続時間、走行速度などまだ不明な点は多いが、パーフェクトプロテクトを起動したまま移動できることが分かった。


 「どう?ちょっとした移動シェルターっぽいよね。まぁ、壁が切れたら逃げよう。」

 

 そう言って僕らは再び何事もなかったかのごとく歩き出した。男たちは見えざる壁にナイフを立てて、さらに喚いていたが疲れ果てたのか途中で諦め去って行った。ナガイ君がようやく胸をなで下ろした頃、僕たちはタカキーズに到着した。




 「『ヘブンズドラゴンの谷』を攻略したそうだね。おめでとう。」


 早速通されたいつものピンクの部屋で、タカキーズの長は待っていた。よほど現状が緊迫しているのだろうか、メアリー・ファニングは服を着ていた。白い清爽な膝丈のワンピースのようないでだちだった。そして、その表情も少しやつれて見え、いつも彼女を纏う妖艶さも、いくぶん影を潜めて見えた。


 「ありがとうございます。だいぶ、疲れているんじゃないんですか?状況が悪そうですね。」


 「ああ、正直なかなか厳しい状況なんだ。だが、タカキが『ヘブンズドラゴンの谷』を攻略して、ここへ来たという事は、残念だが『さよなら』が近いという事かい?」


 メアリーさんは寂しさが混ざったような、優しい笑みを浮かべて言った。


 「近いうちにはそうなると思います。ただ、まだ僕らのパーティーも準備がいろいろありますから、すぐって事はないですよ。今日はそれを話そうと思って来ました。先日の用心棒の話ですが、期限は限定的かもしれませんが、ぜひお受けします。」


 「そうか…そう言ってくれると助かる……。」


 メアリーさんの表情は尚、暗い。少しは喜んでくれるのではないかとの期待は( おご)りだったのだろうか。


 「だがなタカキ…、今後私たちが対峙する相手は危険すぎる……。正直、それにお前を巻き込んでしまっていいものか、今はそんな風に考えているんだ。」


 「実は先ほどここへ来る途中にガラの悪い男達に絡まれました。どうもここへ来る客を奪う、もしくは近づけないというのが目的のようでしたが……。正直、極めて危険と言うほどではないような気もしましたが……。」


 メアリーさんは両腕を組み、少し考えてから溜息をついた。


 「ここのところ、この街のいわゆるアンダーグラウンドな勢力が、一斉に私達に敵対的な態度を取ってきているのだ。それはちょうど私たちが『ダスク・バンブー』を解散してすぐに始まったんだよ。そう考えればヤツらの裏にいるが誰かは容易に察しがつく……。」


 メアリーさんは苦々しく爪を噛んだ。いつもの余裕をそこに見つける事は困難なほどに彼女を不安が包んでいるようだった。


 「犯罪ギルドの『ブラッシェド・バンブー』……って事ですか?」


 僕の言葉に頷く彼女の顔には絶望にも似た、やりきれなさが見え隠れしていた。


 犯罪ギルドのブラッシェド・バンブー。

 いつかシモンズさんに聞いた話では、この世界で表の悪が「魔王」ならば、裏の悪が「ブラッシェド・バンブー」だという。分かったような分からないような話だが、「魔王」を「表」と呼ばせるほど地下に潜った組織であり、その実態は要としてしれない事からそのような比喩が広まったのだと言う。各都市に傘下の組織を置き、その収益を吸い取って肥大した巨大な組織であり、反社会的な住人は誰もがその「名」に背くことが出来ぬ恐怖の象徴でもあった。


 「私達は『始まりの街』でたかだか細々とした上納金しか収めていなかったからねぇ、まさか傘下から脱退したって事でここまでやられるとは思っていなかったんだ。正直甘かった……。おそらく『金』云々じゃなくて、他の下部組織への見せしめなんだろうね。懇意にしていた組織もあって、そこの子が教えてくれたんだ。だいぶ圧力があるらしい。」


 「って事は、さっきのような連中を叩いても意味はないという事ですね…。少なくともこの街に入ってきている『ブラッシェド・バンブー』の人間をなんとかしないと……って感じですか。」


 「なにより怖いのは、店の子が危険な目に会わないかって事なんだよ。とかく私達サッキュバスは慰み者的な目で見られる事もあるからね……。そう考えると店じまいも仕方ないのかななんて思ったりするのさ……。」


 「ダっ!ダメですよ!そんなの絶対ダメです!」


 押し黙っていたナガイ君が大声で叫んだ。キャラにないその行動に僕たちが凍っていると、


 「あっ……、その…すみません……。」


 と言って、再びソファに座る。が、おしりが座面に触れるや否や再び立ち上がり、


 「いや、やっぱり止めるなんて、絶対ダメです!ありえません!だって、僕はタカキーズのみなさんのおかげで変わる事が出来たんです。勇気を出す事が出来たんです。きっとたくさんの人達が同じ思いでいると思うんです!」


 両こぶしをギュッと握りしめナガイ君は興奮気味に語った。

 ……あっ、いや、実は「勇気」出てないんだけどね。とは、とても言えない……。


 「そうか、確かナガイが8体ものゴーレムを倒したと聞いているぞ。そうか、私たちが少しは役に立てたのだな。」


 「立つどころじゃないですよ!勇気がビンビンでしたよ!ヘタレな僕があんな恐ろしい場所にイケたのも、すごい戦闘をヤレたのもみなさんのおかげなんです。気持ちいいくらいに体中のパワーを出し切りました。確かに激しく動いて、終わった後はクタクタでしたけど、なんだかすごくすっきりしたんですよ!ホント全部出し切りました!」


 なんだろう、もうナガイ君の口から出る言葉が卑猥な意味にしか聞こえなくなって来た。


 「そう言ってもらうとうれしいよ。だがな……。」


 再びメアリーさんが憂いの表情を浮かべた時、けたたましく階段を駆け上がってくる足音がドアの外から響いてきた。ノックもせずにドアを激しく開けた不届き者は、愛すべきキャラ、ミシマ・タクマであった。

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