第一章 33 誕生エロバーサーカー
寄宿舎の食堂では、相変わらず僕たちパーティーの面々は奇異な目で見られていた。だが、それは昨日までの「変わった連中」「頭のおかしい連中」というものとは確実に違っていた。
僕たちパーティーが初心者が「始まりの街」を出て次の冒険に向かうための試金石とも言える、ゲンイチロー討伐をクリアした情報は一気に広まったようだ。僕らが奇異な目で見られた理由はその攻略を「アンラッキーデイ」になし得た事、また全くの無傷で凱旋した事によるようだった。ただでさえ、ツボミさんを覗いて戦力と呼べるようなものを有していないように見えていた僕たちが、12体ものゲンイチローを倒した事は誰もが俄かには信じられなかったのだろう。
「あの……、もしよければ、どうやって大多数のゴーレムを倒したのか聞いていいですか?」
周りの視線を感じながら朝食を取る僕らに、実直そうな勇者の青年が声をかけてきた。いつもなら話し声、笑い声で包まれる食堂が、今日はひそひそと話す声のみで静かな空間を構築していた。誰もが青年の問いに対しての僕の答えに注目しているようだった。
「今回はこの剣士のナガイ君が8体倒して、勇者のツボミさんが4体倒したんですよ。正直2人の戦闘力が高かっただけと言うしかないんですよ。」
食堂内ではどよめきが起こった。ツボミさんの強さは周知の事であったが、どうみても弱そうなナガイ君が8体のゲンイチローを倒したという情報は衝撃的だったようだ。ツボミさんは再び暗い顔していて、シノハラさんとセイラさんが慰めている。
ナガイ君は恐縮していたが、実際にはその日の事はあまり覚えていないようだった。セイラさんの萌魔法によりかなり夢うつつ状態だったらしい。そしてあの日の驚異的な力は表向き「萌え」+「勇気」によるものにしているが、実際には「萌え」+「色気」である事は、ナガイ君本人にも伝えていない、僕だけの秘密となったいた。つまり、ナガイ君はあの日の約束である、タカキーズでのお楽しみについても記憶にない。僕は彼の今後のためにもこれについても封印した。
その後も食堂内では直接ではないが、場内からいくつかの質問が飛び交った。食堂の迷惑も鑑みて、僕は書式で応えられるよう質問の受付を設置する事を約束してその場を去った。誰もが通る道である初心者の第一関門なので、出せる情報はなるべく出そうと考えていた。当初、質問は有料も考えたが、シノハラさんに嫌われそうなので止めた。
「クールダウンって訳じゃあないけど、今日もフィールドに出てみない?ナガイ君の力がいつでも使えるのか、限定的なのかを確かめたいんだ。」
今後の事を考え、改めてこのパーティーの状況を把握したかった僕の提案にみんな賛同した。特にツボミさんは昨日の戦闘が消化不良だったらしく、あからさまにナガイ君に対抗心を燃やしているようだった。フィールドはリザードマンが出現する草原にした。ナガイ君に「気のせい」のコントロールが出来るのか否かを試させたかったのだが、ツボミさんがナガイ君の正面に立ちデュエルを申し込んだ。
「ええっ~、無理ですよぉ~。ツボミさんに敵うわけないじゃないですかぁ~。」
「君は昨日、私のソニックブレードを簡単に弾いたではないか!」
かなり根に持っているようだ。ここに来た理由はナガイ君の状態の確認だったので、僕は彼にツボミさんと剣を交えるように促した。その上で、とりあえず「色気」発動のスイッチを押すことを試みるため、耳元で囁く。
「ナガイ君……、後でまたタカキーズに用があっていくつもりなんだけど……。ココ、早めに終われたら一緒に行こうか。」
ナガイ君は分かりやすく即座に「エロパワー」を発動した。
僕の「始め」の掛け声とともに2人は剣をぶつけ合った。双方達人と言っていいレベルの剣士だけにその攻防は見る者を魅了する激しさと、美しさがあった。
素人ながらに分析すれば、攻撃の能力においては双方互角と言ってもいいのかもしれない。
もし、2人の差を分かつものがあるとするならば、それは防御力と言ってもよかろう。ナガイ君は「気のせい」の力を借りる以前から、攻撃を回避する能力は誰にも負けない力を持っていたからだ。
戦いはしだいに持久戦となっていったが、それは不利と考えたツボミさんは距離を取り独特な構えをした。
「ナガイ君、私は君に敬意を表し全力でソニックブレードを打たせてもらう!」
ツボミさんの剣の剣先が空間を切り裂くように鋭利な残像を残して弧を描く。振り切られた刀身から眩い閃光が放たれた。ツボミさんのスキルのひとつ「ソニックブレード」。空気に振動を与え衝撃波の刃を生成させる必殺の剣だ。
「カンっ。」
乾いた間の抜けた音を残し「ソニックブレード」はナガイ君の木剣になんなく弾かれた。かなり無造作なそのナガイ君のしぐさはツボミさんの心を折った事だろう。
弾かれた衝撃は数十メートル離れた所を歩いていたリザードマンを捉えその巨体を真っ二つにした。
ツボミさんはうな垂れて負けを宣言した。だが、そこには昨日のような悲壮感は伺えなかった。
「ナガイ君、私の完敗だ。ここまで私の剣が通じないとはな。だが、いつまでもクヨクヨしてはいられん。ぜひ、私の剣の師匠となってはくれまいか。」
ツボミさんのハツラツとした言葉にナガイ君からの回答はない。
覚醒状態のナガイ君はどうやら、満足なコミュニケーションを取るのも難しいらしい。鼻孔をぴくぴくとさせながら、ツボミさんを頭からつま先まで舐めるように見つめている。このままではいかがわしい事の師匠になりそうなので、僕は間に入り覚醒状態のナガイ君には近づかないように女性たちに勧告した。
「まさか、ナガイ君はバーサーカーなのか?」
ツボミさんは心配そうに言った。バーサーカーを知らないシノハラさんに、興奮状態に陥り鬼神のように戦う狂戦士の事だと告げた。ナガイ君の興奮状態を見てツボミさんはそう思ったようだ。とりあえずめんどくさいのでナガイ君は今後バーサーカーという事にしておこう。まぁ色に狂ったエロガキである事には間違いなののだから………。ここに史上初のエロバーサーカーが誕生したのだった。




