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第一章 32  覚醒

 「ツボミさん、作戦通りナガイ君がどこまで出来るか分からないけど、それに合わせてゲンイチローへの攻撃をお願いするよ。僕も可能な限り頑張ってみる。ヤバくなったら各自撤退。いいね!じゃあ、行くよ!」


 僕は拳を振り下ろし続けるゲンイチローのタイミングを見つつ、パーフェクトプロテクトの障壁を解除した。同時にグレートエスケープで全員をゲンイチローの群れから離れた場所に移動。続けて主に積極的に僕らに拳を叩きこんでいた、3体のゲンイチローの位置も、エレガントチェンジで後ろ側にいたゲンイチローと交換させた。振り下ろされたそれぞれの拳は前列へ移動させたゲンイチローの背中を強烈になぐりつけた。

 岩石同士がぶつかり合い、激しく砂埃が立った。殴打されたゲンイチローの背中は大きく穿たれクレータのような凹みを作った。殴ったゲンイチローの拳もまた砕かれその腕を喪失させた。この一瞬で6体のゲンイチローの動きは分かりやすく緩慢なものとなった。


 「ツボミさん、ナガイ君、行くよ!」


 再びエレガントチェンジでゲンイチローの足元の岩石とツボミさん、ナガイ君を交換し2人を送り出す。ナガイ君はその時、ひどい興奮状態に陥っていた。移動させる否やまだ無傷のゲンイチローに木剣「気のせい」で攻撃に移った。


 「あれ?ソメヤさん……、私はまだナガイ君を操っていないのです……。」


 セイラさんの口から零れた言葉を待たずして、ソメヤ君は人間とは思えないほどの跳躍を見せ、ゲンイチローの頭上から猛然たる上段切りを浴びせた。

 僕らはその時実際に見ていたのにもかかわらず、なかなか理解出来ない光景を目の当たりにした。木の刀が岩石のモンスターの上半分を粉砕したのだった。いや、木の刀ではないだろう、それはまさに「気の刀」と言っていいだろう。


 「やっぱりな……、ようやく『気のせい』がナガイ君の『気』を感じ取って力を覚醒させているんだよ。」


 僕は、口をあんぐりと開けて呆気(あっけ)にとられるセイラさんとシノハラさんに言う。


 「そっか!ナガイ君ついに『勇気』が出せたんですね!すごい強いじゃないですか!」


 無邪気に言うシノハラさんに姿を見て、そういう事にしておこうと固く誓った。ナガイ君が「気のせいに」送った気の力は「勇気」などではない。彼が今身に纏っている「気」はあえて言うならば「色気」であろう。「色気」には当然、最も一般的な意味での「人をひきつける性的な魅力」というものがあるであろう。しかし、ナガイ君の少し違う。彼の纏いし「色気」とは「異性に対する関心や欲求」という意味の方だ。いわゆる、色気づきやがって、の「色気」だ。

 僕は作戦開始に伴いナガイ君にこう囁いた、


 「今日のアンラッキーデーにゲンイチロー討伐が出来れば大金が手に入るよね。だから今度、タカキーズに行ったら、ゲンイチロー1体倒すごとに1人のサッキュバスが追加が可能です。」


 と。

 セイラさんの「萌魔法」の効果も継続しているのも作用したのか、ナガイ君はその言葉で一気に「色気」を放出した。恐らくどんな種類の「気」であろうと木剣「気のせい」は「気」の供給を得てその使用者の潜在的な力を引き出すとともに、自ら持つ力についても使用者に貸与したのではないだろうか。

 まさにナガイ君の類まれなき「エロパワー」のなせる業と言えるだろう。


 ナガイ君は1体目のゲンイチローを半壊すると立て続けに2体目、3体目とエレガントチェンジにより動きの止まっていた傷ついたゲンイチローを粉砕して行った。その光景を見て動きを止めてしまっていたツボミさんに僕は声をかける。


 「ツボミさん!ナガイ君は大丈夫そうだよ!攻撃に移って!」


 「あっ、ああ!すまぬ!」


 ツボミさんは慌てて、やはり動きが鈍っている2体を剣戟の衝撃波により粉砕した。行動が止まってしまっていたのはナガイ君の変貌ぶり、および、その戦闘能力に吃驚していたようだ。

 残りは無傷のゲンイチローが5体と弱った個体が2体だ。ある程度の時間内で全滅をさせないとゲンイチローは再び蘇生を始め振り出しに戻ってしまう。遅ればせながら僕も戦闘に参加すべく2人の元へ走り出した。セイラさん、シノハラさんも僕に続く。せめて動きの鈍い2体はコチラで担当したい。


 僕はエレガントチェンジでスタン・ハリセンを手元に出現させた。軽くタッチ出来れば岩でも破砕出来る攻撃力を有している武器だ。しかし、いかに弱っているとはいえ、生身の体に岩石の攻撃を受ければただではすまない。僕はシノハラさん、セイラさんを残し、ひとり慎重にゲンイチローに接近する。派手に立ち回るツボミさんに気を取られ僕には気付いていないようだ。足音にも気を付けゲンイチローの足元に到達した僕は爆発的攻撃力のハリセンをゆっくりと繰り出した。まずは足元を破壊して、倒れたところにトドメの一撃をかますつもりだった。だが、その攻撃がゲンイチローに届く事はなかった。

「えっ?」


 「えっ?あっ、いや、ソメヤさん、ここは危険ですから自分にお任せください!」


 ナガイ君が僕の腕を掴み、攻撃を阻止したのだった。ソメヤ君はそう言うと再びゲンイチローへと向って行った。めちゃくちゃ鼻息が荒く、いつもの彼の面影は皆無だ。その勇ましさは傍から見て、頼もしいと言うよりは、悲しいかな男の|性<さが>的なものを感じさせ哀愁を漂わせた。


 「あいつ…何Pする気だよ………。」


 僕はバカバカしくなってグレートエスケープで戦線を離脱した。早々に戻って来て、冷めた目で戦場を眺める僕にシノハラさんがどうしたのか心配そうに言った。


 「あとはナガイ君がやるそうなので……。まぁ、今日の彼なら大丈夫そうだよ。精力が|漲<みなぎ>っているから……はははは……。」


 乾いた笑いの僕を(いぶか)しげに、シノハラさんとセイラさんは見ていたが、それも戦場の激しい戦いにかき消された。


 実際、ナガイ君の活躍は目覚ましかった。僕が攻撃しようとしていた動きが緩慢になっていたゲンイチローは全く苦にせず、その2体をそれぞれ、一刀づつで粉砕し起動停止にした。

 残りのゲンイチローは無傷の5体。ツボミさんの斬撃が再びゲンイチロー2体を切り裂き残りは3体。


 「あぁぁぁっ!どんどん減って行くぅ~!」

 ナガイ君が叫びながら1体のゲンイチローの頭をまっぷたつに割る。ナガイ君の凄まじさに触発され、当初4体までが限度と語っていたツボミさんもまだいけそうだ。ツボミさんは剣を振り下ろし斬撃をゲンイチロー目がけて解き放った。

 再び、僕は頭を抱える光景を目にする。ナガイ君はその斬撃を薙ぎ払い、そのまま振り返り残りのゲンイチローを信じられないスピードの連続の突き攻撃で粉々にした。残りの2体も飛び上がってからの袈裟斬りと、返す刀での斬り上げにより破壊した。その凄まじいばかりの戦闘力に誰もが息をのんだ。


 最後の一体が地面に倒れ凄まじい振動と砂埃が巻き上がった。だが、僕らは沈黙の中にいた。ナガイ君、ツボミさんの両名が膝をつき、地面にひれ伏している。シノハラさんはすぐに飛び出し、治療に向かう。当然女性であるツボミさんに駆け寄ったのだが………、


 「ツボミちゃん!大丈夫?どこか怪我したの?」


 心配そうにシノハラさんがツボミさんを覗き込む。


 「わ…私の渾身のソニックブレードがあんなに簡単に弾かれるなんて……。しかも…ナガイ君は8体倒し、私は4体だけだと……。くやしいぞぉぉぉぉ!」


 「………。」


 シノハラさんは急激に冷めた表情をして立ち上がりナガイ君と、様子を伺った僕を見た。シノハラさんは自分以上に冷めた表情の僕を見て心配した事に溜息をついた。

 ちなみに僕の表情を冷めさせたナガイ君の言葉は「夢は二桁のハーレムだったんです……」だ。


 ともあれゲンイチロー退治はこうしてコンプリートという運びとなったのだった。僕は抜かりなくゲンイチローのボーナスコインを手に入れた。ゲンイチローを倒すことで得られるゴールドは通常50万ゴールドとの事だが、今回はアンラッキーデーにより1体につき5倍の250万ゴールド。さらに12体を倒した事で、僕らは一挙に3000万ゴールドを手に入れた。それを告げるとさすがにパーティーの面々も僕を守銭奴的な目で見る事はなかった。

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