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第一章 29  剣士の初体験

 「ソメヤさん……、最近シノハラさんの機嫌悪くないっすか?なにかあったんですかね。」


 ナガイ君の何気ない一言にひどく動揺する。

 僕は先日シモンズさんからダスク・バンブー改め、タカキーズの代表であるメアリーさんが僕に用があると聞いていたので会いに行く途中だった。ナガイ君を誘ったのは、正直かなり気まぐれだった。連れて行くことでそれなりに面白い事が起きそう…、それだけだった。そんなナガイ君の一言がなかなか重かったのだ。


 「本意ではないんだけど、最近ツボミさんやセイラさんと接する事が多かったからなぁ。仲間外れにされたように感じたのかもしれない……。」


 「女の子って難しですよね~。さっきまで普通に話していたと思ったら、急に不機嫌になったり、話すの怖いですよ。」


 「ナガイ君って前の世界とかで彼女とかいたの?」


 「いる訳ないじゃないですか~、碌に話もした事なかったですよ~。この世界来て、シノハラさんやツボミさんが話しかけてくれるのが本当にうれしいですよ~。」


 「なるほど、ではこれから向かう場所はなかなか刺激が強いかもしれないけど頑張ってね。」


 先日以来僕の中で急速に育ったゲスなSっ気がほくそ笑む。


 「ああ、シモンズさんがタカキーズは夢を叶えてくれるお店だって言ってましたけど、どんなお店なんですか?事故とは言えダスク・バンブーの一員にされちゃってましたけど、結局どんな組織なのか全然把握していなかったんですよね。」


 シモンズさんの夢って………。


 「あ~、つまり、ありていに言えばエッチなお店ってトコかな。」


 ナガイ君はしばらく自分の中で僕の言葉を反芻して得心したように静かに言った。


 「僕は確かに経験もない童貞ヤローですが、僕にも僕の考えがありまして……、僕はそういう行為は心から愛した人としかするつもりはありません。」


 「そっか…。そういうのっていいと思うよ。なんていうか、純情っていうのかな、すごくナガイ君がまぶしく見えるよ、うん。」


 昔はそんな感じの心持っていたような気がした。ずいぶん久しぶりに触れた感じに僕は新鮮さすら感じていた。ナガイ君は僕が失ってしまった無垢な部分を持ち得ているんだな~なんて感心してしまった。


 タカキーズに着いて、まず辟易とさせられたのは店の看板だった。数名のサッキュバスをはべらかす軽率そうな男性のイラストが描かれていた。その男性はどう見ても僕がモデルだ。著作権侵害だろ……。

 事務所の部屋は相変わらずバラの香りとピンクの壁紙、高い湿度で満たされていた。お茶を出してくれたサッキュバスがナガイ君を物珍しそうな表情で眺めていた。見かけない顔だったので、最近増えていると言うよそから来たサッキュバスなのだろうか。去り際、彼女は僕の耳元で「お友達かわいいね」と囁いた。それを話すとナガイ君は赤面してバレバレなのだが、平静を装う努力をしていた。


 「タカキ、来てくれてうれしいよ。それからあんたがナガイだね。」


 そう言って現れたメアリー・ファニングは今日も下着姿だ。ピンクのブラにピンクのショーツ。その姿を見てナガイ君は飲んでいたお茶を吹き出してしまった。オロオロ謝まるナガイ君を落ち着かせるのが大変だった。


 「メアリーさん、とりあえずガウンかなにか羽織ってもらえます。ナガイ君には刺激が強すぎるようなので。」


 メアリーさんは「そうかい?」ととぼけながらやはりピンクのサテン地のガウンを羽織った。開いた胸元、座った際組んだ足もガウンからモロにはみ出していて、もしかしたら余計にエロかも。そんな僕らの思いも知らずにメアリーさん朗らかに微笑む。


 「ナガイ、直接会うのは初めてだったね。以前は悪かったね、あの頃は私らも碌でもない組織だったからね。タカキに抱かれて私たちは会心したんだよ。今では毎日多くの男どもに夢を売る毎日さ。」


 再びナガイ君はお茶を吹き出す。僕を見ながら何かしら言いたげだったが、話が進まないので無視してメアリーさんとの話を続ける。


 「『物憂げな猫亭』のシモンズさんから、メアリーさんが僕に用があって聞いて来てみたんですが?」


 「ああ、シモンズから聞いたのか。シモンズの店で働いているんだって?本当に変わっているね、タカキは。それはそうと、ナガイは遊びに来たんだろう?もうだれか決めたのかい?」


 ナガイ君はその言葉に反応して表情を険しくした。何か言いたげな彼を制して僕が代弁する。


 「ナガイ君はとても無垢で純情な心の持ち主でして、性行為に対しては心から惹かれあう女性としか行わないという崇高な理念を持っているんです。」


 僕の言葉にナガイ君は満足げに頷く。つまらなそうに聞いていたメアリーさんは、


 「で、結局誰にすんだい?」


 ナガイ君は失笑して「だからぁ~」と言いかけた。僕は再びそれを制して、


 「さっきお茶を運んでくれた女の子は新入りですか?」


 「ああ、実は私の姪でね、ローズって言うんだ、キレイな子だろ?」


 「ええ、じゃあ、彼女でお願いします。」


 一瞬、なんの事か理解できずにナガイ君はキョトンとしていた。そして慌てて。


 「ソメヤさん!何言ってんですか!最初の説明はなんだってんですか!」


 「いいかい、ナガイ君。君は純潔や純情をはき違えている。例えば童貞の君と、様々な経験をしているここで働くサッキュバス達、果たして君の方が純粋なのだろうか?純粋とは無菌室の中で、下界の汚れが付かないようにする事なのだろうか?いや、違うね。本来の純粋とはどんな環境にいようが、どんな経験をしようが汚れる事のないモノや人こそが持ち得るものだ。ここにいるサッキュバス達はいずれもやさしい心を持っていて、とても純粋だと僕は思っている。しかも、残念ながら『心から惹かれあう女性』なんて事を言っているけど、果たして経験値の乏しい君が『心から惹かれあう女性』の可否を判断出来るだろうか?はなはだ疑問に思うよ。」


 「ソ、ソメヤさん……、なんで急にそんな事を……。」


 「君にいろんな経験を積んで欲しい、そんな親心的な……。さぁ、やってこい!ナガイ君!」


 僕は最高の笑顔で親指を立ててナガイ君に答えた。ナガイ君は3人のサッキュバスに拘束され、引きずられて行った。わめくナガイ君にメアリーさんの姪であるローズさんが、優しくするねとナガイ君の坊主頭を撫でるとナガイ君は抵抗を止めた。頑張れナガイ君。これで秘密を共有した君が、パーティーの中で僕がここでいかがわしい事をした事実を口にする事はないだろう。


 「さて、茶番はこれくらいにして本題に入りましょうかメアリーさん。」


 「あっ、ああ、しかし相変わらず、いい事を言っているのか、適当な事を言っているのか、よく分からんな君は。」


 「世の中の事なんて大概は見る角度でどうにでも解釈出来るって事ですよ。」


 「それでも、私はタカキが私達を純粋だと言ってくれて、冗談でもうれしかった。」


 「そこは、まぁ本気ですよ。」


 メアリーさんはテーブルを乗り越えて僕に強烈にハグをする。息が苦しいほどの締め付けだ。


 「タカキ~!話はベッドの中でもかまわないぞっ!」


 「あっ、いや、今日は遠慮しておきます。とりあえず要件を…。」


 「む~、そうか、残念だが私も大切な話があるので、諦めよう。」


 メアリーさんの話の趣旨は僕にタカキーズの用心棒をして欲しいと言ったものだった。現在タカキーズは新規に2店舗の出店を準備していると言う。その中でそれをよく思わない勢力、例えば同業者などが従業員のサッキュバスに対して街で嫌がらせなどを行うケースが増加したのだという。その中でミシマ・タクマのようなタカキーズの隊員が護衛を行っているが、今後の業務拡大を考えると外部からの力を借りたいと考えたのだという。そこで信頼のおける人物として僕に白羽の矢が立ったという訳だ。


 僕はいずれ近いうちにこの街を離れるだろう事は、この時はメアリーさんには伝えなかった。しかし、それでもタカキーズと名乗って僕を慕ってくれるサッキュバス達を放ってはいけないので、前向きに検討すると回答しておいた。


 「ありがとう、タカキ。期待しているよ。………、ところでだ、意外と話も早く終わった事だし……やっぱり……ねえぇ。」


 メアリーさんがガウンを着崩しながら小首をかしげる。うわぁ~誘惑に負けそう。だが、早く終わった話よりも早く終わったらしいナガイ君がローズさんに伴われ事務所に戻ってきた。あからさまにメアリーさんが舌打ちしたのが笑えた。ナガイ君は半ば放心状態でいた。僕は彼の目の前で手を振りながら反応を見る。


 「ナガイ君……、大丈夫?」


 「あ……、ソメヤさん……。夢を見てきました。ソメヤさんの言う通りでした。ローズさんも、キャミーさんもアマンダさんも、みんな純粋でした。そして、僕はみなさんと心を通わすことが出来たんです。」


 「ってか、いきなり複数だったのナガイくん!」


 「僕は一生ソメヤさんについて行きます!兄貴って呼んでいいですか!」


 「いや……、やだな……兄弟的なのは、ここでは生々しすぎだろう……。」


 「とんだ心酔者を作り上げたものだなタカキ。まぁいい、今日はさすがに諦める。ただ今度はタカキ一人でくるんだぞ。必ず一人でな。」


 僕は改めて用心棒の話もパーティーで話し合ってまとめて来ますと言い残し、タカキーズを後にした。帰り道、巡回中のミシマ・タクマに会った。彼もまた現在の境遇になれたのは僕のおかげだとして感謝の意を示した。


 「本当に俺、タカキっちを尊敬しているよ。俺頑張って出世していずれタクマーズ作るからさ!期待しててな!」


 ミシマ・タクマは最高の笑顔でタカキーズに戻って行った。本当に逞しい人だと改めて感心した。


 「しかし、タクマーズはないよね……。」


 そうつぶやく僕の傍らでナガイ君が、


 「ナガイーズ……。」


 と、つぶやくのが聞こえた……。


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