第一章 27 魔女のモジモジ
「よく再び私の淹れたお茶を飲めるものです。警戒しないのですか?」
僕は次の日再び、黒と紫色で埋めつくされている、魔導士の部屋を訪問していた。と言っても、まぁ自室の隣なのだが……。セイラさんは改めて僕が訪ねてくるなんて事を想定していなかったらしく、ひどく狼狽していたように見えたが、強がりっぽい冷静さを装い僕を部屋へと入れてくれた。
「だって、仮にまた何か入っていたら僕が君を襲っちゃうだけでしょ?今日はツボミさんもいないしね。さすがにそんな危険な事しないでしょ?」
「……相変わらずなんでも道理立てて考える人ですね、あなたって。」
「話が分かりやすくていいでしょ?」
「というか鼻持ちならないです。」
「うっ……、しょっぱなから辛辣だな……。」
「ちなみに、そのお茶の入ったビーカーの横に雑然と置いてある小瓶の粉末は、昨日僕を『セイラ♥ラブ』にした原因?」
「……、昨日の事は悪かったですよ……。これは、しょうもない失敗作ですよ。」
「いやいや、昨日の事はもう……。でも、その粉末って誰が使っても効果あるの?」
「……なんです?あなたもツボミちゃんと同じで、これが欲しいんですか?確かにこれは誰が誰に使っても効果があると思いますよ。でもあげませんからね、悪用されたら堪りません。まったく、いやらしい。」
お、お前が言うなと思ったが、話が進まないで必死に堪えた。まったく厄介な人だ。
この攻略が難しそうな魔導士を仲間にするために、僕は「うやむや」「なんとなく」を持って当たる事にした。どうやっても首を縦に振りそうもないなら、別に降らさずに引き入れてしまえばいい。
「相変わらずのパーティーへの勧誘の件で恐縮なんだけれど、今日は提案しに来たんだ。」
「提案?どんなのです?あなたは口がうまいので警戒しながら聞きたいと思います。」
「ははは、そういう感想は普通心の中でするものだけどね……。まぁ、いいや、インターンシップって知っているかな?有体に言えば就業前の職場体験と言ったとこだね。僕らのパーティーに体験的に参加してみない?」
セイラさんはさして思う所もないように、無表情でつまらなそうに聞いていた。
「もう一度参加したじゃないですか。ヘンテコとは言えあなたちのパーティーはいいパーティーだとは思いますよ。でも参加出来ないのです。」
「その…、やっぱり理由は教えてくれないんだよね。」
「くれないのです。私はこの話は二度と誰にもしないと、神に誓ったのです。」
え~っ、日頃さんざん八百万神の神々を呪っておいて……。
って、まぁ、ここまでは想定済みの展開。では、作戦を実行しよう。
「あぁぁぁぁ―――――――!」
突然の僕の大声にセイラさんは耳をふさいで目を閉じた。さすがにナガイ君程ではないが、なかなかビビりなのだな。なんでもないと告げると「ビビらせないでください」と紅茶を飲んで一息を突いた。僕は一連の流れに満足して話を続けた。
「じゃぁ、改めて聞くね。どうして僕らのパーティーに加入してくれないの?」
セイラさんは眉間にするどい皺を寄せて、僕を侮蔑の目で眺めた。
「あなたバカですか?何度同じ事を言うのです。呪いますよ!」
「うーん、いや、だからね、どうしてそんなに理由を言うのを嫌がるのかを聞かせて欲しいのですよ。」
セイラさんは当然イライラを募られていったのだが、同時に彼女はモジモジとし始めた。胸の位置で両手を握りしめ、内股の下半身のモジモジは激しさを増して行った。彼女はふいに立ち上がり僕に近づいてきた。
「おっと!そこでストップ!僕の聞きたいことを教えてくれないとこれ以上は近づいちゃダメだ!」
「なっ……、なんでそんな意地悪を……。も、もしかしてあなた……私に何かしたの?」
僕は彼女の後ろにあるテーブルを指さす。先ほど確かめたビーカーの横の小瓶には1ゴールドコインがボトルシップのようにギリギリ入り込んでいた。
「さっき、驚かせた瞬間にコインを紅茶の上に落としたんだ。紅茶に落ちる瞬間の小瓶の中の薬とコインを交換して、さらにそれを君のティーカップと差し替えたってわけ。なかなかの手際でしょ?とりあえず、昨日の君の行為はコレでチャラって事にしよう。」
「つ、つまり…私のあの薬を私に飲ませたの………?そ、その上で私の秘密を聞きだそうだなんて!ひどいっ!なんてゲスなヤツなの!最低!最悪!そして……なんて素敵な人なの❤」
「よっしゃーっ!予想以上の効き目だね。それじゃ、僕が聞きたい事に答えてくれるよね。」
「はぁ、はぁ、答えたらあなたに近づいていいの?」
「よし、こうしよう、答えるたびに1歩づつ近づいていいよ。」
そんな感じでゲスい僕は彼女との主従関係を築くことに成功し、彼女の闇に触れる事となった。
「仲間になりたくないのは……、私の魔法が人に言えないような恥ずべきものだからです。」
一歩を踏み出すセイラに、一歩が大きすぎると叱る。なぜかセイラは苦悶の表情を浮かべながら、その言葉がまんざらでもないようだ。あれ?もしかしてMっ気があるのか?
「なんで恥ずかしいと思うの?」
「私の魔法が特異で、奇異でとても人には言えないような属性の魔法だからです……。ぐすん。」
瞳に小さな涙を溜めながらセイラは再び一歩前へと進んだ。
「その属性って……?」
セイラは、そこでモジモジとしながらどうしても言わないとダメですかと、何度も繰り返した。何度かそんなやり取りをし、結局それに応えれば3歩進んでいいルール落ち着いた。その3歩はもう僕に最接近出来る歩数だった。セイラは葛藤の末、重い口を開く。この薬の恐ろしさを僕は目の当たりにしたのだ。




