表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/116

第一章 21  助けていいですか

 その後、僕らはさらにフィールドの深部へと進んで行った。途中3回ほどホブゴブリンや、コボルトの上位ハイコボルトなどに遭遇したが、いずれもセイラさんの不思議な魔法でモンスターは戦意を失い、戦う事なく進むことが出来た。ちなみに僕は人知れずホブゴブリン、ハイコボルトのコインを獲得していた事は言うまでもない。このクラスのモンスターは1万ゴールドを有していた。真面目に戦闘してハズレをひく今後の挑戦者たちに申し訳なく思ったが、それも一瞬で、僕はすぐに忘れてしまった。


 「セイラちゃん……、このフィールドのボスモンスターってドラゴンなんでしょ。セイラちゃんの魔法、ドラゴンにも聞くの?」


 シノハラさんがいい質問をしてくれた。コイン集めに夢中になり、すっかりドラゴンのことなど忘れていた。こういう時自分を客観的に見て、周りが言ってくれるように本当に大物なのか、ただのバカなのかと考えてしまうのだった。


 「えっ?ここにはドラゴンなんていませんよ。」


 「ええええ――――――――――――っ!」


 シノハラさんに同調するように、僕とナガイ君も叫んでしまった。


 「だって、『ヘブンズドラゴンの谷』って名前だよね、ここって!」


 「ああ、それはいつの頃からか召喚された冒険者たちが言い始めて、それが定着しただけなんです。もともとは確か『天パゴーレムの谷』だっと思います。」


 なんだか、訳が分からなくなってきたが、とりあえずドラゴンがいないと言うのは朗報だった。ホブゴブリン、ハイコボルトってたぶん、ゲームなんかで言ったらそれでもまだザコキャラ扱いだろう、それでも逃げ回る僕達には、やっぱりどう考えてもドラゴンと対峙など出来ようハズもない。


 「じゃあ、一体どんなモンスターが出てくるんだい?」


 僕の問いにセイラさんは記憶を呼び起こすように眉間にしわを寄せて考えていた。


 「確かですね、『ゲンイチロー』っていう名前のゴーレムだったと思います。巨大な顔で、しかも天パの。」


 「ゴーレムって確か石で出来たモンスターですよね。どうしてドラゴンの谷なんでしょう……。」


 ナガイ君をはじめ皆、首をかしげていた。

 「天パ」「ゲンイチロー」「ヘブンズドラゴン」、諸々の情報を聞いて、どうやら思い当たる節があるのは格闘技やプロレスが好きだった僕ぐらいのようだ。

 おそらく皆に言っても「はぁ」という感想しか返ってこないくらいくだらない理由だ。とりあえず黙っておこう。しかし『ヘブンズドラゴンの谷』とはよく言ったものだ。


 「でもドラゴンじゃないからと言って油断できないのです。『ゲンイチロー』は常に5~6体の群れで行動するという話です。それ故、このフィールではパーティーとしての団体行動が重要となってくるのです。だからこそツボミちゃんが心配なのです。あと、私の魔法が有効かどうかは正直現状では不明です。」


 ドラゴンではないにしろ、危険なモンスターである事は変わりはないようだ。僕らは改めて慎重に行動する事を確認してさらにフィールドの奥へと入って行った。

 その後は驚くほど静寂の中を進んでいった。まるでホブゴブリン、ハイコボルトですらゴーレムを恐れ最深部には近づかないのだろうかとの疑念すら感じさせた。聞こえてくるのは僕たちが踏みしめる砂地の音のみであった。かなり深く分け入り疲労感を感じ始めた頃、遠くで金属音が聞こえた気がした。ナガイ君も同じく気が付いたようで、


 「これって剣戟の音じゃないでしょうか?誰かが戦っている。」


 「ツボミさん?」


 「恐らくは。とりあえず急ごう、ただ、いきなり足手まといになってもなんで、慎重に行こう。」


 僕たちは身を隠しながら甲高い金属音の発生場所を目指した。金属音が近づくにつれ、それとは別に人の話し声が聞こえた。それは複数の男性の声で、僕らはその声に聞き覚えがあった。


 「どうした、どうした!それでも伝説の勇者の娘かよ!ほれ、後ろからもう一体行ったぞ!」


 「ぎゃはははははっ!すげぇ、よく(かわ)せるなあんなの!切られたかと思ったぜ!」


 「お前の親父のせいで、どんだけ皆が迷惑したのか分かってんのかよ、おい!」



 それは、先日寄宿舎の食堂で僕らに難癖をつけてきた勇者の一行だった。例の勇者と剣士、そして装備を見るにアーチャー、魔導士、聖職者といったところだろう。彼らは円形に繰り抜かれた谷の上に立ち、その谷底でひとりゴーレム「ゲンイチロー」の群れ6匹を相手に戦うツボミさんに罵詈雑言を浴びせていた。


 「ど、どういう状況なの?これって!あの人達許せないっ!」


 シノハラさんが拳を握りしめながら言う。その悲惨な光景に半分泣きそうになりながら、悔しさが満ち満ちているのが伝わってくる。

 ナガイ君もまた悔しさをその表情に留めていたが、巨大な岩石のようなモンスターを複数目の当たりにして、全身の震えが止まらないようだった。意外だったのはセイラ=デコラティブで、彼女は冷静に現状の光景を眺めていた。


 「ツボミちゃん……、すごい……。」


 「えっ?」


 セイラさんの意外な言葉に驚く僕に、彼女は改めてツボミさんの戦いの様子がすごいと言い直した。もともと彼女は天賦の才能に恵まれた勇者ではあったが、一人でゴーレムを相手にできる程に成長していた事に驚いていたのだ。そしてその表情には同時に強い憧憬の感覚も見て取れた。

 しかし、いつまでも感心している訳にもいかなかった。それほどの戦闘スキルを持っているツボミさんが昨日ケガをしたのは、おそらく彼らに原因があると考えるのが妥当だ。そしてその予想はすぐに的中した。


 アーチャーのひとりがツボミさんに向けて矢を放った。さすがに殺傷力のない矢尻が弾力のある素材のようで、足元を狙い、明らかに戦闘の邪魔をする目的で放たれたようだった。ツボミさんはゴーレムの攻撃を防ぎつつ、放たれた矢から飛び退る。うまく避けたが、ゴムのようない矢尻が不規則に弾みツボミさんの足を強烈に殴打した。彼女はバランスを崩しながらも別のゴーレムの攻撃もスレスレで避けていく。素人目に見ても凄まじい戦闘センスと集中力だと感じた。


 「ああ、もう見てられない、ソメヤさん、どうにか出来ない?」


 両手で顔を覆うシノハラさんに、どうにかするさと声をかけ、僕はツボミさんからも、勇者達からもよく見通せる崖の際に立った。

 この状況を打開するにしてもツボミさんに筋を通す必要がある。彼女は僕たちを大切なパーティーと言ってくれたが、結局は自分が守らなければならない対象であると考えている。言葉は悪いが僕達はツボミさんにとって、セイラ=デコラティブが言う「足手まとい」である事は否定しようもない。


 「なぜ、来たのだタカキ君!ここは君が来れるようなレベルのフィールドではない!早く帰りたまえ!」


 僕の姿に気が付いたツボミさんは、器用にゴーレムの攻撃を避けつつ言い放った。勇者たち一行もそれにより僕の存在に気が付き怒声を上げた。


 「なんだフリーター野郎か、何しに来た!まさかお友達助けようとか考えてんじゃねーよなぁ~?」


 僕はその言葉は無視してツボミさんに問う。


 「ツボミさん、僕たちは確かに弱い、確かに足手まといだ。それでも君を心配してここまで来た。僕らは君を助けてもいいの?」


 「あなたは何を言っているのです?」


 他の三人も姿を現し、セイラさんが僕にイライラしながら言った。


 「君が本当に僕らに戦いにおいて何も期待していないなら、僕たちはこのまま帰ろう。でも、君が望んでくれるなら、僕らは弱いながらに君の助けになれるよう頑張るよ。結局、パーティーってそういうもんじゃないのかな?一人でなんでも出来るなら初めから一人でやればいい。そうじゃないのか、ツボミさん!」


 僕の言葉にツボミさんはどう読み取ればいいのか分からない表情をし、勇者たちはゲラゲラと笑い揶揄をし始めた。


 「くさっ~。青春ドラマかよ。バッカじゃね~。ぎゃははははは!」


 「おーい、フリーター、おまえキモいぞ。恥かしくねーの?」


 「たまにはこういうシーンも悪くないって思ってましてね。特段恥かしくはないですよ。ところで、下衆な僕だからこそ、下衆なあなた達の行動原理も理解出来てしまいうんざりなんですが、ツボミさんにゴーレムを弱らせてその上前を撥ねようってセコイ算段ですか?しかもよく分からないが、ツボミさんへの私怨も同時に解消したいと……。僕的にはそんなあなた達のがよほど恥ずかしいと思うんですがね。」


 僕の言葉に勇者たちの怒りは一気に頂点へと達した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ