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第一章 20  僕達弱いんで

 結局その場はツボミさんの体調も鑑みて退散する事にした。明日、改めてパーティーの今後を話し合う事を約束して。

 僕はそのまま「物憂げな猫亭」のバイトに入った。そして仕事の終わりに再びシモンズさんに今日の出来事について相談をした。


 「まぁ、俺にはなんとなくの概要が掴めてはいるが、ツボミちゃんが『自分の矜持に係る話』と言っているならば、ここでソメヤ君にいろいろ言ってしまうのはルール違反だからなぁ……。」


 シモンズさんは本当に心配そうに言った。


 「確かに……、すみません、いつも変な相談ばかりしてしまって。」


 「いや、正直相談してもらえてうれしいよ。ソメヤ君。

 ああ、一つだけ……ツボミちゃんは何よりも人から嫌われるという事に恐怖を感じる。それはたぶん君が考えているよりも大きな闇と言ってもいい。僕にもどうしてあげる事も出来ない闇なんだ……。碌に質問に回答せずに勝手を言うが、彼女の事、くれぐれも頼む。」


 「彼女も言っていた通り、僕にとっても大切なパーティーですからね、出来る限りの事はしてみます。」


 シモンズは改めて「頼む」と言って僕の肩を叩いた。



 「えええええええっ~、どうしてですかっ!」


 次の日、寄宿舎のエントランスで大きな声を出したのはシノハラさんだった。ツボミさんと同じ階のナガイ君が彼女の部屋に声をかけに行ったところ、ドアにメモが挟んであったそうだ。そのメモの内容は――


 (すまない、みんな。今日は急用が出来てしまった。話し合いは改めてにしてもらいたい。本当にすまない。ツボミ)


 「逃げたな……。」


 僕は独り言のように言った。シノハラさんがそれを聞いて反応する。


 「そんな言い方……、本当に急用かもしれないし……。」


 たぶん僕は当然として、シノハラさんも、ナガイもそんな事を信じている訳はなかった。そして彼女が向かったであろう場所もみな共通の場所を連想している。


 「昨日、改めて聞かなかったけど、ツボミさんが特訓している場所って………。」


 ナガイ君が恐る恐る口を開いた。


 「うん、十中八九『ヘブンズドラゴンの谷』だね。」


 自分を含めてだが、『ドラゴン』という単語は強烈に初心者の心に恐怖を植え付ける。


「ドラゴンってやっぱ竜ですよね。よくゲームのボスキャラだったりするあれですよね……。」


 「そうなんじゃないかな……やっぱり。」


 僕らは再び沈黙に陥る。だがある意味、初心者が別の街へ行くためには通る道であると考えれば、決してドラゴンに対峙するのは無謀な事ではないのだろう。


 「よし、とりあえずツボミさんを追おう。大丈夫、危険回避の(すべ)なら一応僕が装備しているから。」


 僕は形ばかりではあるが、2人を安心させて『ヘブンズドラゴンの谷』へと向かった。


 『ヘブンズドラゴンの谷』は「始まりの街」から徒歩で1時間ほどかかる山岳地帯にあった。草原地帯を歩いていた時には青空が広がり清々しい風が心地よかったのだが、山道を進むにつれ空には怪しげな鈍色(にびいろ)の雲がかかり、火山帯なのかひどく熱気を帯びた空気が漂っていた。あまりにも「それ」っぽ過ぎて、誰かの恣意的な悪意すら感じる分かりやすさだった。


 「まさか、この雰囲気も演出とかじゃないよな……。」


 僕の独り言には気付かずに、行く先を指さしてナガイ君が突然叫んだ。


 「あれって、モンスターじゃないですか?で、でかいですよぉ~!」


 そこにはゴブリンの大型種であるホブゴブリンが僕らを眺めていた。ナガイ君の叫び声に反応してホブゴブリンはニヤリと口角を上げた。(ように見えた)


 「ナガイ君……、完全に君の声に反応しているように思うのですが……。」


 そしてホブゴブリンは信じられないような跳躍をしてから、僕ら目がけて全力で駆け出してきた。僕はシノハラさんの腕をつかみ、「逃げろ~っ!」と叫び、全速力で駆け出した。どう考えてもホブゴブリンの方が早く、追いつかれるのは時間の問題だ。


 「ナ、ナガイ君、あれほどモンスターを倒して来たんだから、君なら倒せるよ!たぶん!」


 「た、たぶんってなんですか!適当過ぎですよ~!」


 まさかドラゴンに会う前に使うと思わなかったが、僕は絶対逃避のスキル「グレートエスケープ」の発動を準備した。が、その直後、ホブゴブリンが突然速度を下げ、僕らの追尾を止めてしまった。運良く僕らの事に興味を失ったのかと思ったが、どうもそうではないようだった。その理由は僕らの前に顔なじみが現れたからだ。


 「よく、ホブゴブリンごときも倒せない状態で、このフィールドに入って来たものですね。」


 ホブゴブリンの陰から現れたのはセイラ=デコラティブだった。妙な事にホブゴブリンは彼女になついているようで巨体を横たえて足元でゴロゴロと甘えているようなしぐさを見せた。


 「それって……、どういう状態?」


 僕の質問にセイラは少し恥ずかしがるように、自分の魔法の力によるものだと言った。あまり深くは聞かれたくないと言うオーラが半端なかった。それを察知し誰もそれ以降その件には触れなかった。


 「あなた達はもしかしてツボミちゃんを止めに来たのですか?」


 「うん、今朝部屋に書置きがしてあって姿が見えなかったんでね。ここにいるんじゃないかって思ってさ。あの身体じゃ、いかにツボミさんが強いっていっても心配だからね。君も心配して来たの?」


 「まぁ、そんなトコロです。」


 「出来れば一緒に探さない?見ての通り僕らはどうにも『弱い』んでね。」


 シノハラさんも、ナガイ君も申し訳なさそうに頭を下げた。


 「こんな所でツボミちゃんじゃなくて、あなたに会ってしまったのはツイいませんでしたが、まあ、いいでしょう、私も一人よりは心強いですから。」


 こうして、僕らのツボミさん探索の一行に、ネガティブな魔導士が加わったのだった。

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