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第一章 17  食堂での出来事

 「おはようっ!いやぁ~みんな昨日はすまなかった!昨日のあれは忘れてくれ!ははははっ!」


 ツボミさんは朝の食堂で僕らを見つけてハツラツと言い放った。

 ちなみにナガイ君もダスク・バンブーの事件以降、僕らと同じ寄宿舎で生活をしている。最近はパーティー4名で食事する事も多い。この日もツボミさんは変わらず僕らと食事を取ったのだが、その第一声が以上のようなものだった。当然僕らは少なからずぎこちない態度にならざるを得なかったが、彼女はそんな僕らに逆に気を使ってくれていたくらいだった。

 食事後、僕らは今日もフィールドへ向かう予定であったが、ツボミさんは今日は急用があると言い、休ませてくれと謝って先に退席して行った。

 そんな時、僕らが動揺する中、声をかけてきた一団があった。


 「今日も頭悪そうに無駄に元気だね、おたくのリーダー。君らの中でも完全に浮いてるみたいじゃん。」


 というあからさまに頭の悪そうな発言をしてきたのは、この寄宿舎では古株の勇者の男だった。気の弱いシノハラさんとナガイ君は当然沈黙したままだ。そして僕も正直関わりたくないので完全にスルーした。


 「女だてらに勇者とか言ってるけど、(けが)れた血筋だしな。いや、女といってもありゃレズって噂だしな。お嬢ちゃん、気をつけないと食われちゃうぜ。」


 シノハラさんはあからさまに不快感を募らせた。


 「ばーか、その噂、お前が流してんじゃねーか。まぁ、そのおかげで孤立してくれたから、他に迷惑かからなくなってグッドジョブだったけどな。」


 勇者の言葉に、隣にいた剣士風の男がかぶせて言った。

 なるほど、こういう類いの連中が面白半分に下らない噂を流している訳だ。


 「ありゃ、ホント最悪だぜ、君らもあんまり関わらない方がいいんじゃない?」


 「おいおい、この人達だって頭イカれている系なんだから言っても無駄だって。ごめんね~、変人軍団だもんな、変人同士でしか(つる)めないもんな~。」


 溜まりかねたナガイが立ち上がり男達を(ねめ)め付けた。


 「おっ?何か反論があるのかい?あれ?何?震えてるのガリガリチビすけ君。ははははっ~!ウケるよ、こいつ。」


 勇者の言葉にナガイはさらに震えながらも必死に相手を(にら)み続けた。


 「止めとけよ、ナガイ君、もういいから座りなよ。」


 僕の言葉にナガイは悔し涙を流しながら再び着席した。勇者の仲間は5人らしいが、その5人が食堂を占拠したかのように我が物顔でゲラゲラと下卑た笑いで、他の者達にも同意を求めた。同調する輩もいたが、概ね無関心を決め込んでいた。僕らの事をよく知らないのだから、否定も肯定もしない、まぁ正しい判断だろう。


 「なんだよ、確か未だに飯屋でアルバイトしてるんだっけ、君?仲間をコケにされて悔しくないの?チンチンついてる?ははははははは~!」


 僕はなるべく表情を変えずに彼らに向かって返答する。


 「もし、僕らを蔑む事で君たちの抱えているストレス発散できたなら、もう行ってくれませんか?周りも迷惑していますよ。まだ、足りなければ場所を変えていくらでも蔑んでくれて結構ですよ、僕で良ければ協力して差し上げますよ。

 ただし、この食堂で見る限りあなた達への同調は少なく、本来容易であるハズの集団連鎖には至らなかった。つまり、僕らがマイノリティーならば、あなた達もまた同様だという事の証左じゃないですかね。また、少なくとも僕はあなた達の意とした、弱い者に対して深刻な苦痛を与えたいという行為に対して、さほど心を動かされていません。そんな空しい状況でもよければ続けましょう。」


 僕の言葉に勇者たちは一瞬、(ひる)んだようにも見えたが、余計に怒りを留めたのかさらに罵詈雑言を僕に対して浴びかけてきた。


 「あんた達、いい加減にしなっ!聞いてりゃ一方的に、それでも勇者を名乗るのかい!恥を知りな!今後食堂に出禁にするよっ!」


 すごい迫力だった。食堂中に響き渡るその凛とした怒鳴り声は、誰あろう食堂の人のよさそうなおばさんだった。勇者たちはその声に気押されたのか、はたまた周りの目が気になったのか、すごすごと退室して行った。


 「ありがとうございました。でも、すみません食堂を騒がせてしまって。」


 僕の言葉におばさんは半ば呆れように、溜息をつきながら、


 「ふぅ………、あなたも少しは感情を出してもいいのかもね、なんだかそこまで冷静でいられるって、見ていて逆に心配になってしまうよ。でも、まぁ、実はあなたは大物なのかもしれないね。」


 「あれ?そんな感じの事、他の誰かにも言われたような……。まぁ、いいか。

 自分の事は正直何言われても平気なんですよ。さすがに仲間の事を言われたのはムカつきましたけどね。ただ、なにも僕らが彼らのレベルまで下がって対応する義理もないですからね。まぁ、このまま終わるとも思えないので、僕なりの道理は通します。僕、僕以上に性格の悪い人間を知らないんで、きっと彼ら後悔しますよ。」


 僕の言葉におばさん、そして2人の仲間、その他の聴衆が若干引き気味だったのが印象的だった。後からシノハラさんが、僕だけは敵に回したくないと呟いた。それは褒め言葉なのか、その逆なのかどっちなのだろう。



 「うぉぉぉぉりゃぁぁぁぁ~!」


 その日、フィールドで凄まじく気合が入っていたのはナガイ・ヤスユキであった。ナガイ君は食堂での一件でも勇気を出すことが出来なかった事がよほど悔しかったらしい。自分も早くパーティーの戦力となれるよう死ぬ気で頑張ると新たに誓いを立てたようだ。

 そして彼は今、怒りを込めて全力でフィールドで最弱のモンスターであるグレムリンを狩り続けていた……。


 「……、あの、ナガイ君……、もうグレムリンはいいんじゃないかな……。もう少し骨のあるモンスターで稽古した方が……。」


 ナガイは僕の方を一瞬見て、すぐに視線をはずし、再び気合を入れてグレムリンに向かっていった。


 「確かにヘタレだなぁ……、とりあえず『気のせい』の能力を発動させる『気』を『勇気』から別のモノに変えた方がいいんじゃないかな………。」


 僕はナガイに聞こえない程度の声でつぶやいた。シノハラさんには聞こえたようで、彼女は例えばと聞いてきた。


 「あっ、うん、そうだね、例えば今日彼が見せた怒りの感情『怒気』とか、あんだけ最弱とは言えモンスター狩りを持続できる『根気』とか。それが役に立つのかどうかは正直よく分からないけどね。シノハラさんは何かいい案ない?」


 「う~ん、『ドキドキ』とか『ウキウキ』とかは?」


 「………。いや、それはちょっと違うような……。」


 「あ~ソメヤさんが私をバカにした~っ!」


 「いやいや、してないって、それこそ『気のせい』だって。」


 結局その日ナガイ君は78匹のグレムリンを狩った。少なくとも『根気』だけでは木剣『気のせい』はなんらその力を発動しないようだった。

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