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第一章 16  温度差

 「結局、今回はタカキ君一人で解決してしまったからな、ナガイ君、君の実力を無理やり開眼させるに至らなかった。なので、今日から私との特訓の中で力を発揮できるようにして行こう!」

 

 翌日からナガイ・ヤスユキの実力アップの特訓が始まった。と言ってもやる気を出しているのはツボミさんだけだったが……。当然ナガイ君の表情は冴えない。

 フィールドでの特訓は他のパーティーの面々から見たら随分と奇異なものに映ったらしく、ツボミさんとナガイ君の2人のやり取りをヒソヒソと囁きながら人々が通り過ぎるといった有様だった。

 僕とシノハラさんはそれを少し離れた場所に座って眺めていた。


 「ソメヤさん……、昨日の勝負ってさぁ、何をしたの?」


 やっぱりなぁ、この子は絶対に聞いてくると思った……。


 「うん。なんていうか忍耐を試す勝負っていうか、責めに耐えるっていうか……みたいな……。」


 「サッキュバスっていやらしいモンスターなんでしょ?その…いやらしい事されたの?」


 ウブっぽい感じで実はそうでもないのかな?


 「少しはね……。まぁ、大したもんじゃないよ。まぁ、なんとか絶えて勝ったみたいな……ね。」


 積極的に責めて勝ったとか口が裂けても言えない……。彼女達にも硬く口止めしといたけど、条件として時々は顔を見せろとか……。まぁ、役得だけど。


 「ふうーん。まぁ、いっか。」


 完全に何かを読み取って、完全に少し軽蔑されている気がする感じの「ふうーん」が、僕の中にわずかばかり残こっている純粋な何かに突き刺さる。


 「ぎゃああああああぅ!」


 不意の悲鳴に僕らの妙な雰囲気はかき消された。悲鳴の出所はナガイ君だった。どうやらツボミさんの一撃がヒットしてしまったらしい。


 「おーい、演習なんだからほどほどにしないと……。」


 僕はツボミさんに投げかける。すると彼女はひどく真剣な顔でナガイ君……、いや僕らも含め、みんなに言った。


 「こんな事ではいつまで経っても、魔王討伐の旅に出かけられないではないか!ナガイ君!君は本当はすごい力を持っているのだ、もっと真剣に剣に向き合ってくれ!」


 それはとても鬼気迫る叫びで、僕らは正直唖然としてしまった。そこには普段の明るいツボミ・オーキッドという女の子の姿はなかった。僕は初めてこの闊達な、一見悩み事とは無縁そうな女の子にも当然抱えている闇がある事に今更ながらに気が付いていた。


 「ツボミさん……。ごめん、たぶんまだ、僕らと君ではパーティーに対する温度差があると思う……、君は今、魔王討伐の旅と言ったけれど、このパーティーの最終目標はなんなんだい?」


 ツボミさんは拳をぎゅっと握りしめ、詰まる声を振り絞るように話してくれた。


 「私は…私は勇者だ……。勇者の目指すものはただ一つ、魔王の討伐だ。当然、私はこのパーティーで魔王を倒しに行きたいと考えている。」


 「えっ!魔王を倒す?えっ?」


 シノハラさんの反応は至極当然だと感じた。同様にナガイも目を丸くしてキョトンとしている。正直僕でさえ魔王と対峙するなんて未来は考えた事もなかった。ツボミさんはその状況を見据えて力なく笑った。


 「そりゃそうだな……、魔王討伐なんて言ったら大概はこんな反応になる。私はさんざん味わってきたなずなのに……。すまない……、もちろん押し付けるつもりは毛頭ない……。君達ならもしくはなんて勝手に考えてしまっただけなんだ……。忘れてくれ……。」


 ツボミさんは今日は先にあがらせてくれと言い残しフィールドを後にした。残された僕らはその後ろ姿にかける言葉を持ち合わせてはいなかった。


 「ツボミさん……、本当に魔王と戦うつもりなのかな……。」


 シノハラさんは改めて確認するようにつぶやいた。


 「あの子のあんな表情は初めてだし、きっと本気なんだと思うよ……。」


 僕の言葉にシノハラさんは再び押し黙る。ナガイ君は痣だらけの顔で何か思いつめたような感じだった。その日のフィールドでの活動は結局そこで終了となった。



 寄宿舎に帰宅後、僕は予想もしない人物から訪問を受けた。


 「あの……、そんなに部屋の中をキョロキョロと眺められると恥ずかしいんだけど……。」


 「ああ、申し訳ありません。あまりにも何もない部屋だと思いまして。この質素な生活ぶりは何かの宗教的な教えに基づくものなのですか?」


 予想もしない人物とは寄宿舎三大変人で、ネガティブな魔導士であるセイラ=デコラティブであった。ボケたのか本気なのかの彼女の問いはスルーして、僕は改めて訪問の理由を問う。


 「で……、その要件はなんでしょうか?」


 「ツボミちゃんがひどく落ち込んでいるのを見て気になりまして。あなたは同じパーティーの仲間なので仔細を聞きたいと思った訳です。」


 そういや、この子と普通に話すのって初めてかもしれない。いつも「ツイてない」「呪います」の定型文を一方的に言われて終わりだったもんな。


 「ちなみに、君とツボミさんって知り合いって事?」


 「私とツボミちゃんは幼馴染なのです。もし、あなたが彼女に何かしたのなら私はあなたを呪います。」


 「いや、いや、何もしてないから……。呪わないでください。」


 僕は簡潔に今日の出来事をセイラ=デコラティブに伝えた。僕らも悪気があったわけではないが、正直魔王討伐の話は今日初めて聞き、それについての戸惑いもあった事を話した。


 「なるほど。それはツボミちゃんが悪い。」


 「いや、別に悪いとかなんて思っていないけどね……。そういや、君、ツボミさんのパーティーへの誘い断ったんだってね。そんなに心配しているのになぜなの?」


 「ツボミ=オーキッドは魔王を倒すべき宿命を背負わされている者です。そんな人物のパーティーに私のような者が入っていい道理は存在しないのです。」


 セイラ=デコラティブはそう言ってゆっくりと席を立ち、ドアへ向かった。


 「そして同様にあなた達のような者もまた、彼女の崇高な目的達成には不必要と考えます。私が彼女が悪いと言ったのは、結局はパーティーの人選に問題があったという意味です。あなたのような者に係ってしまった彼女はツイていなかったと言わざるを得ません。では、おじゃましました。」


 去り際に強烈な言葉を投げかけられた僕こそ、マジでツイていなかったと思っていいハズだ。


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