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第一章 13  『気のせい』

 翌日、僕とシノハラ・リサ、ツボミ=オーキッド、そしてナガイ・ヤスユキは4人でフィールドにいた。

 見た目には僕と3名の女性のパーティーといった感じだ。ナガイ君は細見で色白のため女装がよくにあった。当然ダスク・バンブーの連中に見つからないための変装なわけだが、本当に地味な女の子にしか見えなかった。

 昨夜シノハラさんには「物憂げな猫亭」でのやり取りを話たところ仲間が増える事を素直に喜んでいるようだった。そしてツボミさんはナガイ君の真の力を引き出すとかなんとか言い出して、フィールドで特訓をするとどうしても聞かずに今に至ると言う訳だ。


 「彼は強いな。うん、間違いなく強いはずだ。私も本気を出して勝てるかどうかだな。」


 などとそれっぽい事を言ったが、だいたい君の強さを知らないのに判断のしようがないだろうと心の中で思ってしまった。だが、それはフィールドに来て思い改める必要があるようだった。

 ツボミ=オーキッドは本当に強かった。この初心者用のフィールドでもっとも恐れられているモンスターの一つ、イノシシ型の獣人ボアファイター。この身の丈4メートルの怪人を一撃の元に切り伏せた。この怪人のゴールドは10万。ふと、これほどの勇者がなぜパーティーを作る事が出来なかったのか疑問に思った。


 「さぁ、ナガイ君、君の番だ。とりあえずリザードマン辺りを倒してみるか。剣を抜きたまえ。」


 ツボミさんにそう言われたナガイ君はおどおどしながら袋につつまれた剣を抜き放った……。


 「そ、それが君が選んだ武器なのか……。」


 ツボミさんは心から驚いていた。それはそうだろう、ハリセンの僕が言うのもなんだが、このファンタジーな世界でなぜその武器を選択したのか?それは誰もが思うだろう。彼の手の中には木刀がにぎられていた。どう言いつくろっても木の棒だ。


 「……さんざん笑われましたが……、僕は剣道を習っていたので、これが一番合うかなって思いまして。すみません……。」


 「大丈夫だよ、ナガイ君。ソメヤさんの武器はハリセンなんだよ。もっと大笑いされてきたけど、こうしてりっぱに生きているよ!」


 「シノハラさん……そういう励まし方は、僕を落ち込ませるとは思いませんか。」


 シノハラさんは舌を出して笑った。

 僕は彼女を見て、一時の落ち込んだ雰囲気がもう見受けられない事に心から安心していた。そんな言葉に励まされたのか、ナガイ君は気を取り直し木刀を構えた。その瞬間大袈裟ではなく周りの空気が凛として澄んだように感じられた。素人目にも剣の達人……そんな印象を受けた。

 そしてしばらくして、草原の茂みからリザードマンが現れた。


 「さあ、ナガイ君、君の実力を見せてくれ!」


 ツボミさんの声にリザードマンが反応し、ものすごい勢いでこちらに突進してきた。


 「わぁぁぁ~、ダ、ダメです、やっぱり怖いです!」


 ナガイ君は頭を抱えてしゃがんでしまった。ナガイ君に襲いかかるリザードマンはツボミさんが軽く両断した。


 「うむ………なかなか深刻だな、もう少し弱そうなモンスターから始めるか………。」


 ツボミさんが言ったが、ナガイ君からは返答がなかった。かなりの怖がり……、恐らく心的なトラウマのようにも感じられた。意外と根深いのかもしれない。

 僕は彼が投げ出した木刀を拾って彼に戻そうとした。が、その時、木刀の一番底の部分、塚頭に刻印を見つけた。ベロを出して笑うキャラクターの絵だ。実はこれと同じ絵のついたアイテムを僕も持っていた。スタン・ハリセンだ。この僕の武器にもこのマークが描かれている。僕は当初これは誰かの落書きかと考えていたが、そうではなくブランドのロゴマークのようなものである事は間違いなかった。


 「ナガイ君、この木刀の名前は?それから取扱い説明書ついてなかった?」


 ナガイをはじめ、みな不思議そうに僕を見た。


 「あっ…はい、木刀は確か『気のせい』という名称だったと思います。説明書はあったかもしれませんが、ちゃんと見ては……。」


 「ぜひ見せて欲しい!その名前からしてかなり期待の持てるアイテムだよ、これ!」


 「あ、一応今もカバンに入れてあります。ちょっと待って下さいね……。」


 僕はナガイ・ヤスユキから取説を受け取ると内容を眺める。

 木刀の名前は『気のせい』。

 まさにこの木刀は使う者の「気持ち」次第でその力を変化させるという。このなんともセンスのないネーミングと、バカみたいな性能は間違いなく僕の持つ一連のアイテムと同一人物が作った物だろう。僕は内容を一通りナガイ君に伝えた。


 「例えば『気』の付く言葉を思い浮かべると、元気、強気、弱気、呑気、様々あるけど、その数だけこの木刀は君に力を与えてくれるらしいよ。今の君はもちろん『弱気』に支配されている。でも強さに求めらているのは、たぶん『勇気』なんかだと思うよ。この木刀が君に力を与えるか否かは結局は君次第らしい。」


 「なるほど……、では答えは簡単ではないか。彼は潜在的には実力もある、そして勇気さえ出せば力を引き出せる武器もある。ならば、ここは荒療治と行こうではないか。」


 ツボミさんはハツラツと言い放った。


 「ちなみに、どうするんですか?」


 シノハラさんの問いに明朗なる勇者は、みんなでナガイ君の所属していたパーティーの本拠地に交渉に行くと言った。(その言い方は完全に殴り込みと言い換えても問題ない感じだったが……。)その際、強制的にナガイ・ヤスユキの真の力を開眼させると息巻いた。


 「昔から『枝先に行かねば熟女は食えぬ』と言うではないか。ここは心を鬼にして彼に試練を与えさせてもらう。」


 「ないっ!言わない!熟した柿ね!熟女は危険を冒してまで食いたいのはマニアだけだと思うよ。」


 こいつはワザとやってんのか、ただの天然なのか……。気を取り直して僕は続ける。


 「で、いつ行くつもり?」


 「今からに決まっているだろう。『思い切り起ったので吉日』という諺もあるしな。」


 「それは悩む中年のおじさん限定の吉日じゃねーかっ!君は本当に下ネタばっかりだな!」


 僕と勇者のくだらないやり取りにシノハラさんは赤面し、ナガイ君は完全に嫌な予感しかしなかったのか、ひきつった笑いを浮かべるのみであった。

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