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第二章 63 オレンジの陽に向かって(第ニ章最終話)

 徹頭徹尾、ハチャメチャな冒険から数日後。

 シャロンさんは「みずいろ庵」を開店させていた。ブラドさんのいなくなったフィールドの管理もあるので常勤と言う訳にはいかなくなったが、新たな店員にレベルさんと、なぜかライカンスロープのアウネーテさんを迎えての再スターとなった。


 「さぁ、今日はツボミパーティーの、旅立ちのお別れパーティーだからね。みんなたくさん飲んで食べて楽しく過ごしてくださーい!」

 

 レベルさんの挨拶を皮切りに、この街でお世話になった方々との最後の食事が始まった。

 特筆すべきはナガイ君だろう。猫又のアスタさんと、ライカンスロープのアウネーテさんに挟まれてご満悦だ。左右に2人をはべらせて、いつになく締まりのない表情だ。さりげなく腰やお尻の辺りに手を回すのを、しっかり忘れないところがさすがだ。


 「ちょっと、あなたは店員さんでしょう。ナガイは私が面倒みるから、あなたは働きなさいよぉ!」


 「私はまだ研修中だ。まずは先輩の働きっぷりを目で盗むのが仕事だ。お気遣いなく。ナガイは私の膝が大好きらしいぞ。」


 アスタさんとアウネーテさんの間で火花が散っていた。しかし、なぜか彼は人間以外の女性にはよくモテる。ただの丸出しスケベヤローなんだけどな。

 アウネーテさんがそんな感じだったので結局、僕はフルで働かざるを得なかったのだが、シャロンさんと働くのが最後だと思うと、少し感慨深かった。


 「それにしても、レベルさん、ウェーターが板についてますね。」


 「でしょ、意外と器用なのよ、彼。」


 「心配はシャロンさんに、性懲りもなく言い寄ってくる輩の処理くらいですかね。」


 「まぁ、弱いと言ってもその辺の冒険者辺りなら勝てるでしょ。困ったら記憶消す魔法も使えるし。」


 ああ、ジャンクスに使ったヤツか。ある意味最強だなレベルさん。


 「あっ、そうだ恥ずかしいからあの夜のソメヤ君の記憶消してもらおうかしら。」


 「いやいや!あれは僕の宝物ですから!ってかレベルさんにそんな話出来ないでしょうよ。」


 シャロンさんはクスクスと笑って、再びキッチンで料理の盛り付けを始めた。


 「ふ~ん。あの夜か~、何があったんですかね~。」


 刺すような冷たい視線でシノハラさんが僕の後ろを、オレンジジュースを持って通り過ぎた。レベルさんに頼んで、シノハラさんの今の記憶を消してもらおうかと真剣に考えてしまった。


 僕は下手な咳ばらいをしてから、シャロンさんからチキンとアボカドのコブサラダを受け取り、ギンジさん、デルさん、タナカさんが座っているテーブルへ向かった。ギンジさんはジャンクスの死の報せに肩を落としたそうだが、デルさんが無事に帰還した事を心から喜んだと言う。


 「ギンジさん、すみません、結局あの皿を持ち帰る事が出来ずに。」


 「いや、いいんだ。ありがとう。お前やデルが無事に帰って来ただけでそれで十分だ。」

 

 そう、この冒険の最大の落ち度と言っていいだろう。僕はあの戦場で例の皿の回収に失敗していた。ナコルスがヴァンパイアエナジーをその体内へ取り込む場面で、彼の足元へ皿が落ちたところまでは、その場にいた複数名が確認していた。だがその後の戦闘により紛失してしまったのだ。みんな、最終的にはナコルスが持ち去ったと考えていたが、実は僕はあの皿がナコルスの足元に落ちた瞬間に、何者かに持ち去られた事を確認していた。


 地面から生えた腕。


 それが皿を持ちさった犯人だ。奇怪な事を言っているのは重々承知だが、そう表現するしか僕には出来ない。あの場面であの現象がなんだったのかを調べる事も出来なかった。また、こんな話をしてみんなの不安を掻き立てるのも意味はないだろう。

 「世界を滅ぼすキッカケ」と呼ばれたあの皿は、いずれ再びどういう形か分からないが僕の前に立ちはだかるかもしれない。だが、今はしばし、それについては忘れよう。


 「ソメヤ君、結局あまり役に立てなかったけど、一緒に戦えてよかったよ。ありがとう。」


 「何言っているんですか、タナカさんがいたからこそ……、えーと、その…。」


 「……はは、無理に探さなくても……。」


 「すみません……。で、タナカさんこれからどうするんですか?」


 「うん、デルさんの力を借りて、この街に警備会社的なものを創ろうと考えているんだ。孤児院や猫ちゃん達も守れるし、うん、この店もね。」


 実にタナカさんらしい選択だと感じた。彼ならきっと成し遂げるだろう。そのビジョンを語った彼のキラキラとした瞳を見て僕はそう感じた。そして僕はまたこの人が好きになった。


 「ソメヤさん、その警備組織の名称ですが、タナカ君と話し合い、君にあやかって『ソメーヤズ』にしようかと考えているんですが、どうでしょうか?」


 なんて事をデルさんが口にした。どこかで聞いた事のあるような名称を僕は全力で思いとどまらせた。


 それはともかくとして、ゲルフ・バンブーもメアリーさん達のダスク・バンブーのように、ブラッシェド・バンブーの傘下から離脱するそうだ。これでまた、少なからずブラッシェド・バンブーの力を削ぐことに成功したとも言えるのかな。

 ただ、冒険者たる者、本来の目的は魔王の討伐のはずなのだが、戦う相手を間違っていないかなぁ、なんて苦笑せざるを得なかった。

 そんな事を考えていると、「はっ」と思い出した事があった。確か初めてブラドさんに会った時に、この街には『ソロモン12騎士』がいると聞いた。そう、結局一度も足を踏み入れなかったが、この街には魔族が統べるフィールドが存在した。

 おいおい、明日にはこの街を旅たち、新たな街を目指すんだぞ。いまさら、思い出してしまったが放置いいのだろうか。


 「どうしたのソメヤ君?神妙な顔して?」


 シャロンさんがマスカットのミンスパイを僕に手渡した。


 「あっ、いえ、実はこの街に魔族がいた事、今更思い出してしまって。このまま放って置いて先に進んでいいものかと思いまして。ほら、デルさんやタナカさんがこの街の治安を守ろうとしている最中ですし……。」


 「ああ、あの人なら大丈夫だと思うわよ。」


 シャロンさんはしれっと言った。


 「えっ?あの人って、シャロンさん知っている人なんですか?」


 「知っているって程じゃあないけれど……、あ、でも、ソメヤ君も知っているじゃない。」


 「えっ?えっ~!だ、誰ですか?」


 いや、待て、心当たりが今、ぐわぁぁっと脳裏に浮かんだ。


 「いや、まさか、あのテンガロンハットの?」


 「そうそう、あの人、魔族の将軍さんらしわよ。」


 あの無類の強さ、ようやく合点が。……でも、あの人シャロンさんやクロエさんを助けてたよな……。そんな魔族もいるのか。ただただ寡黙に人助けをする魔族なんて。


 「ちなみに通り名は『沈黙のエルシド』って言うらしいわよ。」


 「確かに最後まで沈黙を続けてましたね……。」


 出来る限り沈黙を続けていて欲しいものだ。


 沈黙。沈黙と言えば、まだ答えをもらっていない事柄があった。

 セイラさんと不死王と呼ばれる、リッチであるモード・ジュレとの関係だ。街に戻ってからも彼女はそれについては頑なに語らなかった。ツボミさんにもだ。

 フクスケは無理に聞かないほうがいいと僕をたしなめた。誰にでも触れられたくない思い出はあるものだと。それは十分理解しているつもりだが、そこは空気を読まない僕としては引き下がるわけにもいかなかった。そして性懲りもなく昨日もセイラさんの部屋を訪れ、それについて聞いてみたのだ。

 セイラさんはそれでも今は話せないと言ったが、僕の正面に立ち、じっと目を見つめ、いつか話せる日が来たらと言って小指を立てた。

 「えっ?」とドキドキしながら小指の理由を聞くと、あの日セイラさんも寝付けずに僕の様子を見に来てくれていたそうだ。こっそりドアに聞き耳を立てるツボミさんを、さらにこっそり覗いていたらしい。内容はツボミさんがブツブツと口にしていたのを聞いたという事だ。


 「とりあえず私だけのけ者はなしなのです。ソメヤさんともっと信頼関係を築く事が、話せる日への近道なのです。まずはここから始めるのです。」


 そう言ってセイラさんはネガティブさなど微塵も感じさせない、底なしに明るく、可愛らしい笑顔を見せた。さすがに、これ以上、今は不死王について聞くのは無粋すぎると、僕は観念したのだった。


 三つの指切り。三つの約束。

 安請け合いの代償は、次の街でどうなる事か。僕は今から楽しみなような憂鬱なような、複雑な感情に纏わりつかれるのだった。


 ひたすら笑いに包まれたこの街での最後の宴は、結局朝方まで続き、翌日、出立のために次の街へとつながる「東雲の門」をくぐったのは、うっかり夕方近くになってからだった。東雲と言えば夜明け前の茜色の空の事だろうが、これは完全に薄暮時の熟れた日の夕映えだ。

 送りに来てくれた人々からは延期の話も出たが、この街は別名「黄昏の街」だ。夕陽に向かって旅立つのも悪くない。

 ただ、初めてこの街に踏み入った時とは、明らかに薄暮時はその印象を変え、夕陽のオレンジは寂寥感ではなく、希望感をゆったりと揺蕩わせながらファーケンを包み込んでいた。

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