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第二章 60  薄汚れたヴァンパイア

 「どういう事だ……、魔人化した時よりも明らかにエネルギーが下がっている……。」


 そう呟いたナコルスは辺りを伺う。僕にはナコルスと言いう男の姑息さ、卑劣さが手に取るように理解できる。僕自身ヤツ以上に姑息で卑劣だからだ。そう、僕がナコルスの立場だったら当然する事は弱者を人質にとる事だろう。そして、ここでの弱者とは……。


 ナコルスはツボミさんを治癒しているシノハラさん目がけて跳躍した。僕は彼女達を僕の足元に転がっていた小石と入れ替えた。ナコルスは振り返り忌々しそうに僕を見つめて、


 「貴様~、生きていたのか!」


 そう言い放ち、今度は僕達目がけて跳ね上がった。僕は跳躍の軌道上でナコルスに対してエレガントチェンジした。交換先は手の中に握った1ゴールドコインだ。

 ナコルスはよほど僕が生きていた事が忌々しかったのか、拳で僕を粉砕すべく素手で殴りかかって来た。僕はそれを掌でガッチリとキャッチした。さすがにメチャクチャ痛かったが、予想通り止める事が出来た。


 「なっ!なぜ、たかが人間の貴様が!」


 すかさずシノハラさんの治癒で回復したツボミさんがソニックブレードを放つ。ナコルスはその直撃を受けて数メートル飛ばされた。


 「くっ……、なぜだ、あの圧倒的な力が……。!!!、貴様!まさか!」


 ナコルスは僕を見て慄いた。いや、僕の握っている琥珀色の物質を見てと言うのが正確なトコロだろう。


 「そう、これはあなたの体内に取り込まれたヴァンパイヤナイトのエネルギー体だよ。あなたの中のこいつと、1ゴールドコインを入替させてもらった。つまりあなたの胸にはコインが埋まっている。あなたは今日から1ゴールドの価値のモンスターという事だ。」


 僕はビシッとナコルスを指刺して言ってやった。かなり決まった。

 そこそこ恰好よい感じじゃあないだろうか。チラッとシャロンさんを見たが、ちょっと困ったような顔をして手を振ってくれた。

 視線を戻すとナコルスはワナワナ震えている。僕は怒ってる怒ってると性格悪く心の中で煽った。もうひと押しイラつかせてやるか。


 「あなたはヴァンパイアに類する肉体を手にしたようだけれど、それは実は僕も同じだ!今の僕はあなたやマリススさんと同等の力を手に入れたんだ!どうですか?試してみますか?」


 僕は調子に乗ってシャドーボクシングのジェスチャーを披露した。もう一度シャロンさんを見ると、ナコルスの方角を指さして視線を戻すように促していた。視線を戻すとナコルスはこれ以上ないって言うくらい怒りの表情を貼り付けて僕に殴りかかって来た。


 さぁ、来い!肉体的な条件は一緒だ!

 ナコルスの鋭い右ストレートが僕の顔面を捉えた。ちっ!やるな。僕は反撃しようと右手を引く、その瞬間ナコルスの膝が僕の腹部にさく裂した。さらに数発の拳と蹴りの嵐が僕を襲った。さながら人間サンドバックのようにボコボコにされたところで、再びツボミさんが割って入り、僕とナコルスの戦いは終了した。

 

 「あれ?」


 呆けている僕に、ツボミさんが呆れた顔で正論を言った。


 「肉体的な条件が一緒だとしても、タカキ君とあいつの戦闘技術は雲泥の差があるだろうに、なぜ対等に戦えると思ったのだ。まったく、頭が良すぎて時々バカみたいな事をするなぁ、いつも。」


 正直、そりゃそうだとしか思えなかった。がくっ。


 「なっ!なんだこりゃ!」


 ナコルスは僕をボコりながら、僕の握っていたヴァンパイアエナジーをかすめ取っていたのだ。だが、実際には彼が握っていたのは、


 「残念。それはオレンジのグミ(徳用)だ。あのエネルギー体はすでにカオスポケッツだ。その巨大なグミと入れ替えてある。」


 とりあえず一矢は報いた。心の中でガッツポーズをした。


 ナコルスは傷ついているとは言え、まだ複数の敵がいる事、そして何よりシャロンさんの存在に戦闘の継続を諦めたようだった。だが、彼の姑息さは底を知らない。性懲りもなく辺りを伺い再び人質でも取ろうかと言う表情だ。


 「ナコルスはん!そこで昼寝をしとった、おっさんを見つけましてん。こいつを人質にしまひょ!」


 ナコルスの意図をよく把握している二コラ・フランメルがナコルスに進言をした。昼寝?おっさん?


 「!!!、おっさん!何してんですか!」


 全裸の魔導士に背後から羽交い絞めにされて、荒野のおっさんはまんざらでもない表情で人質になっていた。ちょっと頬を赤らめてすらいる。


 「よくやった二コラ!貴様ら動くな!一歩でも動いたらあの薄汚いおやじを切り刻むぞ!」


 ナコスルは窮地に光明を見出したようで、したり顔で二コラ・フランメルとおっさんに近づき、刃を首元に当てた。おっさんは呑気に一度あくびをしてから、


 「おいおい、俺は全裸の女の子に抱き付かれていい気分なんだ、無粋なヤローだな。」


 「アっ、アホか!何が抱き付いとるだ!ウチはオノレを拘束しとるんやで!」


 二コラ・フランメルが恥じらいながら叫んだ。おっさんは緊張感ゼロでキョロキョロしながら二コラ・フランメルの艶麗な肉体を視界に収めようと努力ていた。


 「こ、こら!何やすんねん!止めてや!この変態おやじ!」


 こんなやり取りにナルコスはワナワナと震えながら、おっさんの腹部に容赦のない蹴りを見舞った。いかにヴァンパイアエナジーを吐き出したとはいえ、まだ、ヴァンパイアの能力の一部を有している。そんなナコルスの蹴りは十分に殺傷力があるはずだ。

 だが。

 おっさんは涼しい顔をしたままだ。それから再び大きなあくびをしてから、伸びをして二コラ・フランメルの拘束を解くと、ナコルスの胸倉を掴んだ。さらに片手で自分よりも身長の高いナコルスを吊るし上げると、性懲りもなく二コラ・フランメルをチラチラと眺めていた。


 「お、お前は一体……。」


 ナコルスは頸部を圧迫され窮屈そうにもがいた。


 「うーん、そうだな。まぁ、なんつーか、この土地の王様ってとこだな。」


  ナコルスの抵抗にも微動だにしないおっさんは、しれっとトンデモない事を口にした。その言葉の意味を理解してナコルスは蒼白となった。


 「き、貴様がブ、ブラド・ドラグールだと……。」


 「そういう事~。にしても、お前、惜しかったな。確かにヴァンパイア化せずにヴァンパイアエナジーを体内に取り込むってのは、実にうまい考えだったな。本来なら俺はともかく、シャロンには十分勝てたろうにな。」


 「ど、どういう意味だ……。」


 「よっく目を凝らして見てみな。お前の体に纏わりついてるのは『常闇の序』と言われる、闇属性のヒエラルキーを定める闇の物質だ。お前さんはその『闇の理』、『闇の秩序』に従ってそれを纏っている状態では力が抑制されちまうんだよ。つまり、力を全開に出来ないって事だ。おっそろしい古の『闇魔法』のひとつだな。」


 おっさんは改めてナコルスの体に張り付いていたと見える、薄い黒い霧のようなモノを手ですくい感心しながら言った。ナコルスは動揺しながら、倒れ伏しているセイラさんに視線を向けた。


 「ああ、そうだ、お前はあのお嬢ちゃんの魔法に包まれた時点で、とっくに積んでいたって訳だ。ちなみに、そこの全裸のお嬢ちゃんの耐魔法防壁もそれを上回る魔力の前で無効化されちまったんだ。さんざん、あのお嬢ちゃんをなじっていたが、結局お前はあのお嬢ちゃんに負けたんだぜ。」

 ナコルスは今までの人を見下す表情が消え、ゆっくりと不安と恐怖、そして神妙さをブレンドした表情へと変化させていった。彼が嫌いだからってのを差し引いても、それは随分と情けない雰囲気を漂わせていた。

 一拍おいて、おっさんはそんなナコルスの定まらない顔面に強烈なビンタを浴びせた。

 ナコルスは数メートル吹き飛ばされて、キレイな放物線を描いて岩場に激突した。スレンダーながら、それでも女性らしいむっちりとした白いお尻を隠しもせずに、二コラ・フランメルが慌ててナコルスを追った。


 おっさんは、そんなお尻を楽しんだ後、倒れ伏していたセイラさんの所へ進んで、彼女を抱え上げてくれた。それを見て、僕はメンバーの安否を確認するためにその場に、みんなに集まってもらった。


 デルさん、タナカさんは途中から戦闘に参加できなかった事を謝っていたが、ほぼ治癒魔法で全快だった。マリウスさん、レベルさんもシャロンさんの魔法ですでに回復していた。ナガイ君は治癒が遅くなってしまったのだが、現在はアウネーテさんのご厚意に甘えて膝枕上で鼻の下を伸ばしていた。ツボミさんは最後に僕を助けてくれた位なのでもちろん大丈夫。ただ、セイラさんの状況は少し深刻だった。


 「肉体的な傷は治癒出来たっぽいんだけれど……、意識が戻らないの……。」


 シノハラさんが治癒魔法を施した後にそう言った。

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